みかん小説
本棚

"父の葬儀を捨てた夫へ、亡き父が遺した最後の証拠" 第2話

席で父の位牌を抱きかかえる美央の隣に、夫の温もりはどこにもしなかった。

の待の空気は、く張り詰めていた。

轟音をてて閉まる炉の鉄扉のった、美央は両の裏にありったけの力を込めてち尽くした。この扉の向こうへ父の骸が入ってしまえば、もう度と触れることも、言葉を交わすこともできない。係員のい声にわせてげた瞬、美央の胸ので、幼期からの父との記憶が馬灯のように駆け巡った。

母をくにくし、男つで美央を育てげた父だった。休に公園で自転の練習に付きってくれたこと、した夜に器用なつきでリンゴを擦ってくれたこと。

「美央、困ったことがあったらな、焦って結論をすんじゃないぞ。分からないは、まず分かっている事実をせばいい」

それが父の癖だった。

、収骨たいステンレスの台のに、く細い骨となった父が横たわっていた。美央は震えるの箸を握り、親族と組でさな骨をつずつ骨壺へと拾いげた。

最期まで、健太郎がに現れることはなかった。

夕方を過ぎ、葬儀会館へ戻って初の法と精落としの席を終えると、親族たちも、またと帰途についた。

広告

玄関先で叔母の節子が振り返り、痛ましそうに美央のを握りしめた。

「健太郎さんが帰ってきたら、今はもう何もせずにのように眠りなさいね。で全部背負い込んじゃ駄目よ」

「うん、ありがとう、叔母さん。気をつけて帰ってね」

が見えなくなるまで見送り、無の式へ戻ると、祭壇の央に置かれた父の遺だけが静かに美央を見つめ返していた。

美央は遺と骨壺を両腕に抱き抱え、タクシーを拾って自宅へと向かった。

の閑静なにある、築階建て。結婚した翌に、父からの額の資援助を受けて購入しただった。鍵をけてに入ると、今朝かけたのままの、え切ったが広がっていた。

玄関のタタキに健太郎の靴はない。

リビングのかりをつけ、サイドボードの央に父の写真と骨壺を丁寧に並べた。喪の黒いワンピースの襟元を緩め、ダイニングの子に腰をろした瞬、張り詰めていた緊張の糸がプツリと切れ、全に鉛のような疲労が押し寄せてきた。

刻は午分。

美央はスマートフォンをに取った。画面には、健太郎からの連絡は切残されていない。

『葬儀はすべて無事に終わりました。何に帰れますか?』

それだけを打ち込み、送信ボタンを押した。問い詰める言葉も、りの言葉も敢えて入れなかった。

広告

父を見送った切なを、醜い夫婦喧嘩で汚したくはなかったからだ。

画面を伏せ、美央はダイニングテーブルのに散乱していた葬儀関係の類を理し始めた。会葬礼状の余り、典袋の束、葬儀社からの領収と見積葬許証の原本。かしていれば、余計な妄を蝕まれずに済むとった。

しかし、静寂に包まれたリビングでは、計の秒針の音や蔵庫のコンプレッサーのい唸り声までもがに障った。

付が変わり、午を過ぎても、健太郎からの返信はなかった。既読のマークすらつかない。

美央は寝へ向かったが、ダブルベッドに入る気にはどうしてもなれなかった。健太郎の枕が目に入った瞬、言いようのない嫌悪が喉元まで込みげてきたのだ。リビングのソファからのブランケットを持ちし、父の遺が見える位置に丸くなって横たわった。

疲れているはずなのに、神経ばかりが鋭敏に冴え渡っていた。

本当に会社できな事故やトラブルが起きていたのだろうか。それとも——。

胸の奥に澱のように溜まっていた疑が、黒い泡となって浮かんでは消えた。

父なら、こんなどうするだろう。「くな。事実を揃えろ」と、きっと静かに諭すはずだ。美央は目を閉じ、やるべき続き——役所への届に伴う続き、止、そして父がにしていた弁護士への連絡——をで反芻した。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: