みかん小説
本棚

"父の葬儀を捨てた夫へ、亡き父が遺した最後の証拠" 第10話

「……サイン、します。払えばいいんでしょう、払えば……!」

震えるで示談に署名捺印する倫相の姿を見つめながら、美央はい虚しさと同に、憑き物が落ちたような爽を覚えていた。

と嘘で結びついていた関係は、の切れ目が訪れた瞬に、これほど無残に崩壊する。

父が命を賭して見破り、暴きしてくれた「真実の力」が、悪の輪を完璧に断ち切った瞬だった。

週がけたの朝、健太郎の会社『スタジオ・ケン』は事実の倒産に追い込まれた。

美央が千万円の連帯保証と担保提供を完全に拒絶したため、融ブローカーからの融資は撤回。同、メインバンクからの融資引き揚げと渡り形の発により、会社の座はすべて凍結された。

さらに、美央から突きつけられた責配偶者としての慰謝料百万円の請求、および横領の返還請求がなり、健太郎は自己破産の申してを余儀なくされた。

の午、美央は弁護士とともに、区役所の民課窓にいた。

テーブルのに置かれたのは、健太郎が涙とに塗れながら署名捺印した婚届だった。

「美央ちゃん、これで本当にの縁は切れる。悔はないね」

「はい。何つ、未練はありません」

美央は自らの婚届を窓の職員へ渡した。

広告

受理の印が押され、旧姓である『佐伯』へと戻ったしい戸籍謄本をにした瞬、胸の奥底でく錆びついていた鉛の塊が、サラサラとに溶けていくような覚があった。

区役所をで、美央は父のの自宅へと向かった。

父が暮らした平。庭には父が丹精込めて育てていたツツジやサツキが、の柔らかなを浴びて静かに葉を揺らしていた。

縁側に腰をろし、美央は持参した父の帳をいた。

そこには、病の父が震えるき残した、最記が記されていた。

。 美央が林檎を剥いてくれた。 あの子は母親に似て、の痛みを自分のことのように背負い込んでしまう。 だが、美央よ。 には、どれほどしていても切り捨てなければならない毒がある。 おがその毒に呑まれるに、父さんがをかぶってけてやる。 泣くな。を向け。 おは佐伯正雄の娘だ。 胸を張って、自分ので歩いていけ』

美央は帳を胸にく押し当て、声をげて泣いた。

の告別式でも、夜の墓でも、健太郎を追い詰めたでも流さなかった、魂の底からの慟哭だった。

父は、最まで自分を守り抜いてくれた。

病気の苦痛に耐え、孤独に怯えながら、たったで巨悪の罠を暴き、娘の未来を買い戻してくれたのだ。

広告

が庭の々を吹き抜け、庭の落ち葉をさらさらと転がした。

まるで、父のきな掌が、泣きじゃくる娘のを優しく撫でてくれているかのようだった。

婚が成してからが過ぎた、令の抜けるようなれの

美央は、杉並の駅にある父の遺産である商業ビルの最階にしく設した、さなフラワーアレンジメントの教の窓辺にっていた。

母が好きだった桜やリンドウ、の瑞々しいりが、るいフローリングの内に満ちている。

父から受け継いだビルは、信頼できる管理会社に委託し、定した賃貸収入をしていた。健太郎が狙っていた千万円の担保借入なども形もなく、建物は域の商やクリニックにされる、温かい所として息づいていた。

健太郎はその、自己破産続きを経てすべての役職を解任され、現方の物流倉庫で非正規の仕分け作業員として働いていると、の噂で聞いた。倫相のリサも勤務先を諭旨退職となり、慰謝料の分割支払いに追われる々を送っているという。

しかし、その因果応報の結末を、美央がい返すことはもうなかった。

「先、今のお、すごく素敵ですね!」

徒である若い女性たちが、笑顔で入ってきた。

「いらっしゃい。

はね、の野をイメージした、し背のいアレンジに挑戦してみましょうか」

美央はハサミをに取り、入れを教え始めた。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: