みかん小説
本棚

"帰れなかった実家" 第2話

の伯父さんたちも朝番で来る。おがいないと、台所が回らないじゃないか」

「あなたまで、そんな……」

子の元から血の気が引いていった。

「私はくなとは言ってない。ただ、は親戚の、どうしても事を優先してもらわないと困る。の法が終わって、親戚が引き揚げてから向かえばいいだろう」

の夕方まで待てっていうの!? それまでお父さんがきていてくれる保証がどこにあるのよ!」

子が声を荒らげた瞬、奥の座敷からタミが静かにがってきた。

きな声をすんじゃないよ。所に聞こえたらどうする気だい」

タミは正雄の隣に並び、徹な線で子を射すくめた。

「嫁というものには、順序というものがあります。あなたの実の父親が事なのは分かるがね、あなたは佐々の籍を抜け、の姓を名乗っている。婚の法事を放りして実るような真似をすれば、『の嫁は親の躾がなっていない』と、んだお祖父さんだけでなく、あなたのお父さんまで恥をかくことになるのですよ」

「父が恥をかくですって……? 父は今、にかけているんですよ!」

は誰しも、いつかはぬものです」

タミのから平然と零れ落ちたその言葉に、子のから取り落とした呂敷包みが、に落ちた。

広告

「今……何とおっしゃいましたか」

タミは瞬、自らの言葉の過酷さに気づいたように線を揺らしたが、すぐにな面持ちを取り繕い、顎を引いた。

理を言っているまでです。正雄、何をぼさっとしている。の準備の伝いをさせなさい」

子は夫の横をすり抜け、玄関のりようとした。しかし、正雄のが咄嗟に子の腕を掴んだ。骨がきしむほどのい力ではなかった。だが、それは妻の嘆きよりも母親の掟を優先した、残酷な拘束の力だった。

子、母さんの言う通りにしてくれ。頼むから、の法事だけは無事に済ませてくれ」

して……! 私をお父さんの元へかせて!」

の朝番で、向こうの報で容態を問いわせるから。それまで待ってくれ」

の朝まで息があるって、誰が決めたのよ!」

子の痛な叫びは、夜の帳がりたい梁に吸い込まれ、掻き消えていった。

その夜、子は側の納戸の片隅で、膝を抱えたままもできなかった。窓ので吹き荒れるの音が、まるでくで呼ぶ父の声のように聞こえてならなかった。夜汽くの鉄を渡る汽笛の音が、午を告げていた。

翌朝、ひとつないれのの広には本や分の親類、隣の檀総代たちが続々と集まってきた。

広告

黒紋付の着物にい割烹着を纏った子は、朝からの番をし、炊き込みご飯を蒸らし、煮物を皿に盛り付けた。客が到着するたびにつ指をついてげ、座布団を勧め、茶を運んだ。

「まあ、さんとこの嫁御は、本当によく気が利く」

「正雄さんもいい嫁をもらったもんだ。際が見事だよ」

酒を酌み交わす親戚たちの賞賛の声が、を素通りしていく。子は唇の端を吊りげ、能面のような笑顔を張り付け続けた。胸のでは、昨夜からずっと同じ祈りが呪文のように繰り返されていた。

神様、仏様、お父さんをなせないで。まだきていて。お願いだから、私が着くまで待っていて。

正午を回り、菩提寺の職による読経がようやく終わりを告げ、参列者たちが膳を囲んで酒盛りを始めた頃だった。

の格子戸を、慮がちに叩く音がした。

「ごめんください、報です」

昨夕と同じ、あの青の声だった。

子は膳を運ぶを止め、吸い寄せられるように勝へと歩んだ。全から体温が抜け落ちていくのをじながら、青の差しした片を受け取った。

から、何がかれているのかが分かってしまった。

《チチシス ソウギアサッテ》

す。葬儀、

640分、息を引き取ったという。

子はそのに崩れ落ちるように膝をついた。

たい触が、破れたストッキングを通して骨に染みた。から滑り落ちた報が、汚れたに裏返って落ちた。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: