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"帰れなかった実家" 第3話

「おい、子、どうしたんだ」

異変に気づいた正雄が、座敷から慌てて駆け寄ってきた。に落ちた報を拾いげ、文字を追った夫の顔から、さっと血の気が引いた。

「お義父さん……くなられたのか……」

正雄の震える声に、台所の簾をくぐってタミが現れた。報を覗き込んだタミの眉が、わずかにがった。

居座っていた親類たちも、勝の異様な空気に気づき、酒杯を置いてがってきた。「何事だ」「誰かくなったのか」とざわめく声の、タミは静かに子の肩へを置いた。

「……気の毒なことでしたね。の朝番の汽で、実へ戻りなさい」

その言葉がに届いた瞬子ので何かが決定に音をてて断ち切れた。

子はゆっくりとがった。その仕はあまりに静かで、取り乱した様子は微もなかった。

「もう、遅いです」

子の声は、自分でも驚くほど乾き、透き通っていた。

子……何を言ってるんだ」正雄がすがるように顔を覗き込む。

「葬儀にうかどうかなんて、どうでもいいんです。私は……きている父の顔を、もう度だけ見たかった。お父さんの温かいを握りたかった。ただ、それだけだったんです」

子はタミをまっすぐに見据えた。その瞳には、涙の滴すら浮かんでいなかった。ただ、研ぎ澄まされた刃のような絶対な拒絶のが宿っていた。

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タミはその差しを受け止めきれず、わずかに線を逸らした。

翌朝、子は黒い喪を包み、で始発の汽に乗った。

の粗末な板のに横たえられていた父の顔は、すでにたくなっていた。炭焼きで鍛えげられた節くれだったきなは、え切り、度と娘のを握り返すことはなかった。

「お父さん、ごめんなさい。ごめんなさい……」

棺にすがりついて泣き崩れる子の背を、実の母や親類たちは「おも向こうのの都があったんだろう」と優しく撫でてくれた。そのけが、かえって子の胸を鋭くえぐった。

、葬儀を終えてに戻った夜、正雄は寝で正座し、畳に両をついて謝罪した。

「すまなかった、子。俺がもっと母さんをく説得していれば……」

布団の襟をえていた子は、振り返ることなくややかに返した。

「あなたは悪くありません。お義母さんの言いつけに従っただけですから」

子……」

「私はあの、お義母さんだけに止められたのではありません。あなたにも止められたのです。そのことだけは、忘れません」

その夜を境に、の台所から私語が消えた。

子は嫁としての務めを何つ怠らなかった。朝の飯炊きも、農作業も、タミの腰の灸の据え直しも、これまで通りに完璧にこなした。

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だが、自ら姑に言葉をかけることは度となくなった。

「おはようございます」「ってまいります」「おやすみなさい」。

限の事務な挨拶の言葉だけが、凍りついた壁のように族のに横たわり続けた。

それから5の歳が流れた。

には女の恵子と男の浩まれ、には子どもの泣き声と音が響くようになっていた。

姑のタミは、孫に対しては絵に描いたような良き祖母だった。恵子が百咳にかかったには、氷袋を抱えて晩眠らずに病し、浩が庭の敷で転んで膝を擦りむけば、誰よりもく駆け寄って抱きしめた。血の通った温かいを持つその姿を見るたび、子の胸の奥底には、消えることのないたい疑問が澱のように沈殿していった。

これほど者を慈しむを持つが、なぜあのの父親の命の灯を「は誰でもぬものだ」と踏みにじることができたのか。

3512の瀬も押し迫った寒い夜のことだった。

を終え、囲炉裏のを囲んで茶をんでいた、表の戸を激しく叩く音がした。

さん! タミさん、話ですよ! 坂のの酒さんから!」

ってきた酒僧の切迫した声に、タミは湯呑みを置いてがった。当隣で話を引いている数ない商が、域の緊急連絡の窓になっていた。

のちらつくを戻ってきたタミの顔は、幽霊のように蒼だった。

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