みかん小説
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"帰れなかった実家" 第8話

「正雄……いいのかい、あんない言い方をして」

「いいんだ、母さん」正雄は振り返り、台所の入りっていた子と目をわせた。「俺は、のあの法事の番守らなきゃならなかったものを自分のさで見殺しにした。母さんの古い痛みに寄り添うこともできず、子の鳴を力づくで押さえ込んだ。あんなけない真似は、もう度とごめんだ」

子の胸の奥で、澱のように沈んでいた夫へのが、静かにほどけていくのをじた。

あの、自分の腕を掴んだ夫の。そのたさに傷つき、絶望した夜の記憶は消えない。しかし、過ちを認め、その過ちを度と繰り返さないために自ら盾となる覚悟を決めた男の横顔を、子は静かに受け入れ始めていた。

40代に入ると、度経済成の波はあいの農にも容赦なく押し寄せてきた。

テレビや洗濯が普及し、の若者たちは次々と集団就職の列に乗って京や名古へと巣っていった。かつて固に縛り付けていた「制度」の残滓は、コンクリート舗装されたやマイカーの普及とともに、しずつその実体を失いつつあった。

でも、男の浩は県学し、女の恵子は商業を卒業して隣町の農業協同組に就職した。

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48、恵子が22歳になった、職の同僚である青との結婚話が持ちがった。

は隣町の旧で、実直な好青だったが、相の母親——すなわち恵子の姑となる物は、落共同体のでもとりわけ「伝統」や「格」をんじる気位のい女性としてられていた。

結納の席を目に控えたある夜、恵子が居でぽつりと漏らした。

「お母さん、向こうのお義母さんね、この会ったに仰ったの。『嫁に来たら、実とはきれいに縁を切る覚悟を持ってもらわねば困る』って……」

その言葉がた瞬、茶箪笥のに座っていたタミの背筋が、ピシリと伸びた。

74歳になるタミは、腰がくの字に曲がり、杖がなければ歩もおぼつかないほど老いていた。髪はすっかりのようになり、くなっていたが、その瞳だけは異様な鋭さを宿して孫娘を見つめた。

「恵子、それは本当かい」

「え、ええ……でも、昔のなら、どこもそうだったんでしょう? おばあちゃんの代も、お母さんの代も……」

恵子がそうに俯くと、タミは畳にをついてを乗りした。

「馬鹿をお言い。そんな理尽を『当たり』にしていいはずがないだろうが」

タミの峻烈な調に、台所にいた子も、帳簿をつけていた正雄もを止めた。

「恵子や。あのね、嫁にくっていうのはね、売りすることじゃないんだよ。

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しい族をで築きにいくことなんだ。向こうの親を事にするのは当たりだがね、自分のまれ育った親やを粗末にしていい理なんて、この世のどこにもありゃしない」

タミは震えるで恵子のを取り、その甲をくさすった。

「もし向こうので理尽なことを言われたら、いつでもこの敷居を跨いで逃げておいで。おがどんな顔をして帰ってきても、おばあちゃんが全で受け止めてやる。いいかい、にはね、絶対に曲げちゃいけない筋というものがあるんだ」

恵子は祖母のいがけない気迫に圧倒されながらも、やがてその目に堵の涙を浮かべ、く頷いた。

「……うん。ありがとう、おばあちゃん」

そのやり取りを、子は茶碗を拭きながら静かに見つめていた。

かつて自分を「このの嫁」という酷な檻に閉じ込めた老女が、今、全全霊をかけて孫娘の尊厳を守ろうとしている。その姿は、罪を犯した者が自らの過を清算するために捧げる、血を吐くような贖罪の祈りそのものに見えた。

49。抜けるような青空のには婚礼の迎えのハイヤーが静かにしていた。

無垢にを包んだ恵子は、満の枝垂れ桜のように美しかった。広には親族が集まり、には「砂」の掛け軸が揺れていた。

の直、恵子は玄関のがり框で、正雄、子、そしてタミのに端座した。

「お父さん、お母さん、おばあちゃん。

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