"給料袋を取り上げる姑と、娘の進学" 第6話
それまで学から帰るとすぐに机に向かっていた恵子が、典子がから戻るに、洗濯物を取り込んで綺麗に畳むようになった。の掃き掃除をし、米を研ぎ、呂の焚き付け用の切れを揃えておく。
「恵子、いいのよ。あんたは勉だけしていればいいんだから」 台所で煮豆鍋をかき混ぜながら典子が言うと、恵子は濡れたを掛けで拭きながら、伏し目がちに首を横に振った。
「ううん。お母ちゃん、最すごく痩せたから。……私、これくらいしか伝えへんし」
その痛々しい気遣いに、典子の胸がきゅっと締め付けられた。 学の。同級たちが流りの謡曲や映画の話にを咲かせている頃に、この子はの空気を読み、息を潜めてきている。
学の者面談がわれたのは、終業式を目に控えた寒い午だった。 の作業着のに急いでコートを羽織った典子は、学の暗い教で、担任の内教諭と向きった。 内は代半ばのな男性教師で、机のに恵子の模擬試験の成績表を広げて待っていた。
「お母さん。恵子さんの学力は、学でもトップクラスです。このままいけば、県の浦第女子も分に狙えますよ」 内は鏡の奥の目を輝かせ、を乗りした。 「彼女は国語の読解力も素らしいですが、数学センスが抜群です。
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将来は学へんで、教員や専職を目指すもけます。ぜひ、を目指させてやってください」
典子は喉の奥がくなり、膝ので握りしめたを震わせた。 「先……本当に、けるでしょうか」 「本のやる気次第ですが、今の恵子さんなら違いありません。ご庭の事もあるでしょうが、どうか彼女の芽を摘まないでやってほしいんです」
教をた、の脇で待っていた恵子と並んで混じりのを歩いた。 典子は娘の赤い袋を握りしめ、力く微笑みかけた。
「聞いたかい、恵子。先、女(いちじょ)を狙えるって言ってくださったよ。お母ちゃん、どんなことがあっても学費を面するからね。して勉しなさい」
しかし、恵子はち止まり、握られたをゆっくりと引き抜いた。 がるの空を見つめたまま、娘のさな唇から零れ落ちたのは、典子のを疑う言葉だった。
「……お母ちゃん。私、へかへんでもええよ」
典子は息を呑んだ。 「え……? 何を言ってるの、恵子。あんなにきたがってたじゃないの」
「いいの」 恵子は俯き、靴の先でシャーベット状のを蹴った。 「私、学をたら、隣町の紡績へく。み込みなら寮費もいらんし、お料もお母ちゃんに仕送りできるって、この、説会で配られたプリントにいてあった」
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「恵子!!」 典子はわず娘の両肩をく掴んだ。 「どうしてそんなこと言うの! あんなに毎、夜遅くまで勉してるじゃないの!」
恵子は顔をげなかった。だが、そのきな瞳から、粒の涙がボロボロと溢れ、凍てつく頬を伝っていった。
「だって……! 私がきたいって言ったら、お母ちゃんがもっともっと働かなあかんようになるやんか! おばあちゃんに毎鳴られて、お父ちゃんにも庇ってもらえんと……お母ちゃんの、もうあかぎれだらけやんか! 私のせいで、お母ちゃんが壊れてしまうの、見てられへんよ!!」
のる端で、娘の痛な叫びが霊した。 典子は言葉を失い、そのにち尽くした。
この子は、見ていたのだ。 母が玄関で料袋を奪われる姿を。 父が背を向けて逃げる姿を。 そして、母が夜に台所で湿布を貼りながら、痛む腰をさすっていた姿を。 すべてをったで、歳の女は、自らのを自らので殺そうとしていた。
が、の肩に静かにり積もっていく。 くの踏切の警報が、カンカンカンとたい属音を鳴らしていた。
典子は膝を折り、のに直接膝をついて、恵子と目線のさをわせた。 娘のえ切ったさな両を、自分のひび割れた両で包み込む。痛々しいほどたかった。
「恵子。お母ちゃんの目を、ちゃんと見なさい」
恵子がおずおずと、涙で濡れた瞳をげた。 典子は、今まで娘に見せたことのない、厳しく、そしてい慈に満ちた声で語りかけた。
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