"給料袋を取り上げる姑と、娘の進学" 第14話
浦きの国にび乗った典子は、網棚のパイプを掴んだまま、祈るように吊り革を見つめ続けた。 ゴトゴトと規則正しい揺れ。窓を流れる荒川の枯れの堤防。 ポケットのの計を見る。午分。 の最寄り駅である浦駅に着くのは、分の予定だった。
駅からまでは、徒歩で約分。 れば、分。 受付終のまで、猶予はわずか分しかなかった。
「……お願い、止まらないで」
が浦駅のホームに滑り込んだ瞬、典子はいたドアから弾かれたようにびした。 改札の駅員に定期券を投げつけるように見せ、駅広へ駆けす。
たいが、いつのにかみぞれへと変わっていた。 凍てつくアスファルトのを、すり減った革靴で疾する。 コートの裾がを撥ね、たい粒が顔を叩いて界を奪う。息が肺ので燃えるようにく、喉の奥から鉄のが競りがってきた。
(恵子……! 待ってておくれ、恵子……!)
あと百メートル。 緩やかな坂の向こうに、赤レンガの柱と、黒りする鉄扉が見えてきた。 埼玉県浦第女子等学。
守が、扉をガラガラと内側から閉めようとしていた。 計の針は、午分。
「待ってください――!!」
典子は喉を裂いて叫んだ。 にを取られて派に転倒し、両膝をく面に打ちつけた。
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ストッキングが破れ、血が滲む。 だが、典子は痛みを顧みることもなく、まみれになりながらちがり、胸ポケットから守り抜いた願の封筒をく掲げた。
「待ってください! 井恵子の……願です! お願いします、受け取ってください!!」
守のが止まった。 事務の玄関から、コートを着たの男性職員が驚いたようにびしてきた。
だらけで息を切らし、膝から血を流しながら、必に類を差しす典子の姿に、職員は目を見張った。 「お母さん……転んだんですか? 丈夫ですか」
「は……まだ、です……!」 典子は震えるで、願と受験料の入った封筒を差しした。 「井恵子です……どうか、あの子に、受験の切符を……!」
職員は壁の計を見げた。 分。 職員は々と息を吐くと、両で丁寧に願を受け取った。
「……確かに、受領いたしました。井恵子さんですね。受理番号、百番です」
カチャン、と受領印が類に押される乾いた音が響いた。
その瞬、典子の体からすべての力が抜け、たい玄関のステップに崩れ落ちた。 空を見げると、みぞれは止み、の切れから、夕暮れの淡いの陽が、に濡れた庭を静かに照らししていた。
にった。 娘の未来の扉は、今、確かに押しかれたのだ。
昭。 桃の節句の朝、庭の梅のつぼみが、赤くふっくらと膨らんでいた。
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今は、県の格発表のだった。 朝から、のには奇妙な静寂が漂っていた。 浩は「今、だから」と目をわせずに仕事へかけていき、正は学の登班へ向かった。
居には、典子と恵子、そしてタツのだけが残された。 願を提したあの以来、タツは恵子の受験について、度もにしなかった。 勉を妨害することもなければ、応援の言葉をかけることもない。ただ、たい氷のような沈黙を守り続けていた。
「お母ちゃん、そろそろこう」 恵子が、紺のセーラーのに着を羽織り、さな声で言った。 その顔は緊張で青ざめていたが、背筋は真っ直ぐに伸びていた。
「ええ、きましょう」
典子がちがり、玄関へ向かおうとしたそのだった。
「恵子」
茶のの奥から、く掠れた声がかかった。 タツだった。 ちがったタツは、ゆっくりとした取りでへ歩み寄ってきた。 典子は咄嗟に恵子のにちふさがった。また何か、娘のを傷つけるような呪いの言葉を投げつけるのではないかという警戒が、体を直させた。
だが、タツの線は、典子ではなく、その背にいる恵子へと真っ直ぐに向けられていた。
タツは絣の着物の懐から、さな、使い古しの茶封筒を取りした。 糊付けもされていない、粗末な封筒。
タツはそれを、無言のまま、恵子の胸元へ突きした。
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