"炎天下に追い出された新人と、5年ぶりに戻った男" 第6話
……あの子がなぜこの会社に入ったのか、その真は俺にも分からない。だが、正社の名を切さず、実力だけで番からいがろうとしているのは確かだ」
堀田の顔から血の気が完全に引いていた。 「そ、そんな……! 黒岩部は、社の娘を炎でむしりさせ、倉庫に閉じ込めて……! ったら、体どうなるんだ……!」
「さんの素性は、まだ伏せておく」 滝川の瞳に、に現を追われたには見せなかった、鋭利な刃のようなが宿った。 「堀田。あの子が昨見つけた、グリーン企画の伝票……あれの裏付けを取るぞ。、と黒岩に握り潰された横領の全ルートを、今度こそ完全に暴きす」
堀田の震えが止まり、その目に覚悟のが灯った。 「……分かりました。の夜、総務の庫の裏帳簿、私が命がけで抜いてきます」
の男の乾杯の音が、喧騒の居酒の片隅で、静かに鳴り響いた。
翌。列島を覆う太平気圧はさらに勢力をめ、朝のの点で都の気温は度を突破していた。 テレビのニュースは「命に関わる危険な暑さ」を連呼し、を控えるよう呼びかけていた。
だが、正気本社階の総務フロアでは、悪魔のような命令がされていた。
「さーん。昨のむしり、途でやめたでしょ?」 黒岩はの吹きしの真で、アイスコーヒーをすすりながらを見ろした。
広告
「今はね、ビルの周全部。側の搬入から、側の駐まで、えてる雑を本残らず根こそぎ抜いてきてよ。あ、もちろん終わるまでフロアには戻ってこないでね。社精神を見せてくれよw」
は唇をく噛み締めた。 「……部。本は症特別警戒アラートがています。午の数だけでも、内の業務に――」
「あ? 嫌なの?」 黒岩はわざとらしくにを当て、フロア全体に響く声で嘲笑った。 「会社を綺麗にするのが嫌なんだ? へぇー、最のは随分と偉いねぇ! 自分から『何でもやります』って入社してきたくせに、ちょっと暑いからってサボる気満々ですか! そんな根性なし、うちの会社にいらないんだけどなぁ!?」
周囲の社員たちは、斉にを向いた。 誰もと目をわせようとしない。 はくをげた。「……失礼します」
午。 アスファルトの表面温度は度を超えていた。 靴底を通して、の裏にじりじりとが伝わってくる。は滝川から借りた麦わら子をく被り、植え込みのにしゃがみ込んで、本ずつ雑を抜いていった。
汗が滝のように流れ、軍のは汗でふやけてドロドロになっていた。 財布も分も、デスクのに置いてこざるを得なかった。「終わるまで戻るな」という命令を破れば、即座に懲戒の実にされる。
広告
(負けない……お母さん、私、絶対に逃げないから……)
正午。 太陽が真から容赦なく照りつける。 の界が、チカチカと黄いを放ち始めた。 セミの声が、の奥でくなったり、をつんざくような音量になったりを繰り返す。 喉が張り付き、息を吸うたびにが肺を焼く。
(あ……れ……? 空が……回ってる……)
ちがろうとした瞬、の膝から完全に力が抜けた。 バサリと、麦わら子が焼けたのに落ちる。 いブラウスが、の浮いたアスファルトのに倒れ伏した。
「おい!! しっかりしろ!!」
くから、声のような叫びが聞こえた。 駆け寄ってきたのは、回りの調査から戻ってきた滝川と堀田だった。 滝川はに持っていた資料を放りし、の体を抱き起こして建物のへと引きずり込んだ。
「さん! さん、俺の声が分かるか!?」 「たき……がわ……さん……? わたし……まだ、おわって……」 「もういい! 喋るな!」
滝川は自販へり、えたスポーツドリンクと却シートを買い占めてきた堀田からボトルをひったくると、の首筋と両脇に押し当てた。 の体温は異常なほど昇し、呼吸は浅く荒くなっていた。
「労働全法、全配慮義務違反だ……!」 堀田が拳を震わせ、激しいりに顔を歪めた。 「これは指導でも研修でもない! 殺未遂だぞ!!」
の目から、い涙がひと筋、に汚れた頬を伝って零れ落ちた。
「ごめんなさい……私……ちゃんと、認めてもらいたかっただけなのに……」
広告
おすすめ作品
-
完結第15話
二十通の辞表
祖父の跡を継ぎ、老舗料亭「綾瀬楼」の若女将となった28歳の蒼井。しかし総料理長の黒岩は、彼女を「高卒の小娘」と見下し、仕入れや経営への口出しを一切認めなかった。さらに創業100周年の記念宴会を翌日に控え、板前20人を引き連れて退職届を突きつけてくる。150人の客を迎える大切な宴席を前に、料理人が一斉に去るという絶体絶命の危機。ところが、土下座を迫られた蒼井は慌てるどころか、静かに微笑んだ。祖父が彼女を後継者に選んだ、本当の理由とは。職場逆転|因果応報|人生逆転|金銭問題2.2万字5 3204 -
完結第15話
正月、娘を家政婦扱いした義実家――私が下した決断
43歳のゆり子は、13歳の娘・美咲を連れて再婚した。しかし、結婚前は優しかった夫の賢二は、家事を押しつけ、娘の食事まで平気で奪うようになる。 迎えた初めての正月。夫の実家へ帰省した母娘を待っていたのは、休む間もない家事と姑からの冷たい仕打ちだった。さらに元旦、親戚の子どもたちがお年玉をもらう中、美咲だけが「他人だから」と仲間外れにされてしまう。人生逆転|嫁姑|夫婦|第二の人生|絶縁|親子関係1.9万字5 747 -
完結第15話
義母の老人ホーム代120万円を勝手に約束した夫
医療機器メーカーで働く結衣は、結婚以来、夫の翔太と義母の幸子に頼まれるまま、家電の買い替えや旅行代を負担してきた。月7万円の仕送りも、半分出すと約束した夫は一円も払わない。それでも家庭を壊したくない一心で我慢していたが、義母はついに結衣の勤務先へ送金を催促する電話をかけてくる。さらに夫は、義母が希望する高級老人ホームの入居金120万円まで、結衣に無断で支払う約束をしていた。夫のスマホに届いた一通のLINEをきっかけに、結衣は自分の人生を取り戻す決意をする。人生逆転|嫁姑|夫婦|絶縁|介護|金銭問題2.7万字5 1709 -
完結第15話
15年無給で働いた若女将を追い出した老舗旅館の末路
老舗温泉旅館「鶴の湯」に嫁いで15年。若女将の美里は一度も給料を受け取らず、料理から接客まで休む間もなく働いてきた。ところがある日、義母と夫はSNSで人気を集める若い女性を新しい若女将に迎え、美里を「時代遅れ」と追い出してしまう。長年守ってきた味も、常連客との約束も、彼らには何の価値もなかった。しかし、美里が去った翌朝から、旅館では思わぬ問題が次々と起こり始める。15年間、あの宿を本当に支えていたのは誰だったのか。職場逆転|人生逆転|嫁姑|第二の人生2.2万字5 439 -
完結第15話
夫の出張中に義両親が居座った――電話で判明した正体
夫の海外出張中、蒼井の家に突然やってきたのは、十年ぶりに顔を合わせる義両親だった。「息子から同居の許可をもらった」と言い張る二人は、家の料理を食べ尽くし、蒼井や娘のメイの服まで勝手に着て破いてしまう。追い出そうとしても、二人は居座るばかり。頼みの夫は電波の届かない場所にいて、連絡も取れない。そんな中、ようやく夫から電話がかかってくる。ところが、蒼井の訴えを聞いた夫は、思いもよらないことを口にした。厚かましい訪問者に振り回された母娘の、騒がしくも痛快な逆転劇。嫁姑|夫婦|絶縁|修羅場1.4万字5 642 -
完結第15話
「このおばあちゃん、危ない」六歳の孫が見たもの
六十八歳の静子は、夫を亡くしてから一人暮らしをしている。近所の蛇田さんは、毎日のようにお菓子を配って歩く親切なおばあさん。ところが、六歳の孫・小春だけは、なぜか彼女を避けていた。 ある日、三人でスーパーへ出かけると、小春が突然、静子の手を引いて言った。 「ばあば、このおばあちゃん、あぶない」 その直後、店員に呼び止められた蛇田さん。小春はいったい何に気づいたのか。お菓子に隠された秘密と、一人暮らしの老人たちが抱える寂しさを描く物語。人生逆転|祖父母と孫|真実|真相1.6万字5 369 -
完結第15話
高齢女性を後回しにした受付――絵を替える女性の正体
町の内科クリニックに長年通う68歳の静子は、知人の山田さんが何度も診察の順番を飛ばされていることに気づく。受付の沼田は、特定の患者ばかりを優先し、理由を尋ねる山田さんには冷たい態度を取っていた。やがて山田さんは、受診することさえ怖くなってしまう。心配した静子が付き添った日、山田さんの顔色が急に悪くなるが、受付は取り合おうとしない。そんなとき、待合室で絵を掛け替えていた一人の女性が口を開く。その何気ない一言から、長年見過ごされてきた受付の問題が明らかになり始める。人生逆転|介護|金銭問題1.4万字5 333