みかん小説
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"棺の中で眠る娘と、吠え続けた秋田犬" 第1話

奥羽脈の懐くに抱かれた田県仙郡のは、けからり続く豪によって、の世界との交通を完全に閉ざされかけていた。

に濁ったの空からは、分をく含んだ粒のが音もなくりしきり、杉く染めげている。集落のほぼ央に位置する古い真宗寺院の壇信徒会館「報恩堂」の広には、名ほどの弔問客が集まり、苦しい湿気と抹の青い煙が淀んでいた。畳のには黒無の羽織袴やな黒の着物にを包んだ親族、隣組の者たちが隙なく並び、鉢の炭が爆ぜる音だけが、沈鬱な空気のに乾いた痕跡を残している。

央に据えられたの祭壇。そのに置かれているのは、さ百センチメートルほどのさな造りの棺であった。

蓋には遺族が最に故の顔を拝むためのセンチ方の窓が切られ、その周囲はい菊と樒の青葉で幾にも埋め尽くされている。に横たわっているのは、わずか歳でこの世をったとされる女、であった。の夕暮れ、猛吹で裏の沢へ転落し、に埋もれた末に発見された痛ましい事故。の診療所の医師によって止と瞳孔散が確認され、すでに検を終えての納棺であった。

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無阿弥陀仏、無阿弥陀仏……」

老僧のく濁った読経の声にわせ、古びた魚がポク、ポク、ポクと正確に定の隔で叩き鳴らされる。その厳かな仏の音を、突如として吉な振が切り裂いた。

「グルルルル……」

底から湧きがるような音。喉仏を激しく震わせるい唸り声だった。

声の主は、棺のすぐ脇の板敷きにを伏せていた田犬だった。赤毛にい差し毛の混じった巨躯、頑肢と角形のを持つその犬の名は、ハチ。まれたの納で産み落とされ、母犬が乳のを悪くしてりかけたところを、と実母ので育てげられた雄犬だった。

ハチの線は、弔問客の誰にも向いていなかった。その鋭いつの琥珀の瞳は、の棺のわせ目、わずかに漏れの奥にある何かを射抜くように、微だにせず固定されていた。

列の喪主席で、の父親である館健のすぐ隣に座っていた女性が、細い眉を吊りげてわにした。

エミリー・オークランド。歳。

へ誘致された材バイオマス事業の現コーディネーターとして来し、妻との破綻に苦しんでいた健と再婚したアメリカ女性だった。髪を隙なく夜会巻きに結いげ、装の喪を包んだ彼女のい肌は、寒暗い広で異様なを放っていた。

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彼女にとって、を悼む荘厳な儀式のに巨な獣が踏み入り、唸り声をげていること自体が、文化性と潔さの証のようにえてならなかった。

エミリーのえ切った線は、ハチの背を通り越し、部の最も奥、板戸のさくうずくまるへと突き刺さった。

館静子。歳。

みの母親であり、に健から婚を言い渡されてこのを追われた女性だった。

静子は、紋の擦り切れた古びた黒の着物にを包み、膝ので固くねて座していた。取り乱して号泣するでもなく、取り憑かれたように棺に縋りつくでもない。ただ蝋形のように背筋を伸ばし、伏し目がちに畳を見つめている。

エミリーには、その静子の姿がひどく浅ましく、無気力なものに映っていた。夫に捨てられ、最の娘の親権も経済力を理由に奪われ、そして今、その娘がたい骸となって棺に横たわっているというのに、筋の涙すら流そうとしない。という器官を持たない操り形のようだ、とエミリーは内笑した。自己主張をせず、理尽に耐えることだけを美徳とするの因習者。そして何より、自分が塩にかけて育てたというあの犬匹、この厳粛なで黙らせることすらできない無能さ。

エミリーは、隣の健の肘をスーツ越しに指先でく摘まんだ。

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