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"棺の中で眠る娘と、吠え続けた秋田犬" 第3話

が血相を変えてがり、ハチの首輪を掴もうとを伸ばした。しかし、体キロを超える柄な田犬は、主であったはずの健を激しく振り払い、を剥きしにして威嚇した。その目には、もはや健を自らのリーダーと認めない拒絶のが宿っていた。

「ダメだ、してはなんねえ!」

方に控えていたを超える古老、猟師の嘉平がしわがれた声で制した。

田犬がこれほど激しく爪をてるのには、理由がある。崩に遭った、犬が主を掘り起こすの仕と全く同じだ。この犬には、何かが届いておる」

「馬鹿げているわ!」エミリーが叫んだ。「とこの部のどこが同じだというの! これはの儀式よ! 医師が診断いて、ドライアイスでやされて棺に入っているのよ! 物の粗野な本能をオカルトのように信じるなんて、狂気の汰だわ!」

エミリーの号が響き渡る、静子だけが、静かに畳からがった。

擦れの音が微かにした。静子は、り狂うエミリーの方へは目もくれず、威嚇する健の横をすり抜け、ハチのすぐ隣へと音もなくた。

誰もが、静子がハチの首根っこを押さえつけ、へと引きずりすものだとった。エミリーも胸ので腕を組み、ややかな侮蔑を込めてその結末を待った。

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だが、静子のは、そののすべての予徹に裏切った。

静子は、爪をてて畳を削り続けるハチの首筋に、そっと自らのを滑り込ませたのだ。

荒々しく波打っていたハチの背の筋肉が、静子ののひらが触れた瞬、ぴたりと直した。ハチはさく「クゥ」と喉を鳴らし、濡れた先を静子の着物の袖へと擦り寄せた。静子は犬を叱りもしなければ、制止もしなかった。ただその部を慈しむように度だけ撫で、ハチの元で何かを囁くように唇をかした。

そして、静子は棺の肌に、自らのを密着させた。

「静子、お……何の真似だ」

の声がかすれた。広全体が、異様な緊張きを封じられていた。僧侶のから数珠が滑り落ち、畳のさな音をてたが、それを拾いげる者すら誰もいなかった。

静子はの蓋に側部を押し当てたまま、瞼を固く閉じていた。

周囲のざわめきも、エミリーの荒い呼吸も、用のストーブの唸りも、静子の識からは完全に遮断されていた。彼女のはすべて、寸の杉板の向こう側、漆黒の宇宙へと注ぎ込まれていた。

静子は、元は田の基幹病院で、救命救急病棟の主任護師を務めていただった。

と見い結婚し、を産み、のしきたりに従って護の現を退いたが、数千もの線を潜り抜け、止まりかけた臓の微かな揺らぎや、戦期の呼吸を指先と朶で拾い集めてきたプロフェッショナルとしての覚は、の主婦活を経ても微も錆びついていなかった。

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(雑音を消せ。寺のを消せ。私の拍を数えろ)

静子はで、自らの脈拍を測った。回。規則正しい自分の血流の音の裏側。

杉の肌を通して、極めて微な、しかし周期な摩擦が伝わってきた。

トン……。

それは、羽毛が板のに落ちたかのような、を澄まさなければが気のせいで片付けられるほどの微かな音だった。

だが、静子の背筋を鋭利な戦慄が駆け抜けた。

(気のせいではない。内側から、何かが当たっている)

静子は目を見いた。その瞳には、先ほどまでの沈鬱なは微もなかった。かつて救命救急のトリアージの最線で、数くの命の瀬戸際を選別してきた医療従事者の、徹で研ぎ澄まされたが宿っていた。

静子はし、棺の覗き窓のさなガラス板へと線を移した。

窓の向こうには、純の経帷子を着せられ、胸元でを組まされたの青い顔があった。に吹の沢底で発見されたの体温は度を回っていたという。救助に当たった消防団との診療所の嘱託医である相良医師は、図のフラットと自発呼吸の止を確認し、「偶発性体温症による止、

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