"棺の中で眠る娘と、吠え続けた秋田犬" 第5話
ドスン、とい音をてて蓋が畳のに転がり落ちる。
棺の内部に敷き詰められていた気が、気に広へと溢れた。ドライアイスのい気がち込める、絹の着物に包まれたのさな体がわになった。
静子は躊躇することなく、え切った娘の首元に自らの本の指を押し当てた。
頸脈洞の奥。氷のように直した筋肉のさらに層。
静子の指先に、トク……トク……と、信じがたいほど々しく、しかし紛れもないリズムを持った拍が触れた。
「脈がある! きているわ!」
静子の叫びが、凍りついた報恩堂の空気を叩き割った。
「誰か、救急を呼びなさい! 仙の救命センターへ至急請! 症体温症による仮状態からの拍再、ドクターヘリの配も同に頼んで!」
静子の声は、もはや取り乱した母親のものではなかった。救命現を支配するベテラン護師の、迷いのないトリアージの号令だった。の若衆がに返り、受付へ向かってのを転がるようにびしていく。
静子は即座に棺のに両を差し入れ、ドライアイスのパックを素く側へ放り投げた。
「バスタオルと毛布を、ありったけ持ってきて! ストーブのをめて! 急激に温めては駄目、枢の温度を維持しながら末梢を保温するのよ!」
親族の女性たちが慌てて控えへり、寺の座布団や毛布を抱えて戻ってくる。
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静子はのさな体を棺から抱き起こした。腕のに伝わってくる娘の体は、まるで凍結した倒のようにく、たかった。しかし、胸元にを当てると、ヒュー……ヒュー……と、細い糸のような気呼吸音が確かに聞こえていた。
「、! お母さんよ、分かる!? 戻ってきなさい!」
静子は自らの喪の着物のをはだけ、襦袢枚になると、のえ切った素肌を自らの胸元に直接抱き密着させた。肌による加温。自らの体温を直接、娘の臓へと分け与えるための皮膚接触だった。
「毛布をから掛けて! 健、突っってないでのを擦りなさい! 臓に向かってからへ、優しく、でも力を込めて!」
「あ、ああ……!」
健は涙で顔をぐしゃぐしゃに濡らしながら、の凍えた首を両で包み込み、必に摩擦を始めた。
その横で、エミリーは壁際に追い詰められたようにち尽くしていた。
青ざめた彼女の界ので、自分が「無力で教養のない貧しい女」と見していた静子が、確で無駄のない医療技を次々と繰りし、の淵にあった娘を現実の世界へと引き戻そうとしていた。
その際の鮮やかさ。乱れのない指示。何より、娘の微かな命反応を誰よりもく見抜き、常識や世体のすべてを叩き壊して棺をこじけた、圧倒な母性の力。
エミリーが誇っていた「アメリカ仕込みの理主義」
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や「洗練された教養」など、このの修羅のでは、片の屑ほどの価値も持たなかった。
「…………」
摩擦を続けること数分、毛布の隙から、掠れたようなさな呼気が漏れた。
の青だった唇に、ほんのりと淡い赤みが差し始めた。そして、閉ざされていた睫毛が微かに震え、い瞼がゆっくりと押しげられた。
濁った瞳の奥に、井のが映る。
「……お……かあ……さん……」
蚊の鳴くような、しかし紛れもない娘の声だった。
静子の瞳から、粒の涙が滝のように溢れし、の額を濡らした。
「そうよ、。お母さんよ……もう丈夫、もうどこへもかせないわ……!」
広のあちこちから、親族や弔問客たちの嗚咽と涙の声ががった。奇跡が起きたのだ。歳の女が、棺のから、母のと犬の咆哮によっての眠りを打ち破り、蘇ったのだ。
その歓の渦の向こうで、くからづいてくる救急のサイレンの音が、煙を切り裂いて響き渡っていた。
サイレンの甲い反響が寺の境内に満ち、台の救急両と、警察のパトカーが相次いでを踏み荒らしてした。
防寒具にを包んだ仙消防本部の救命救急士たちが、ストレッチャーと救急資器材を抱えて報恩堂の広へ崩れ込んできた。彼らは広の央で、け放たれた棺と、毛布にくるまれて微かに目をけている女の姿を見るなり、瞬息を呑んでちすくんだ。
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