"消えた子猫と、花壇の頑固おじさん" 第1話
「こらあっ! 何をしてやがるんだ、この野良共が!」
朝の静寂を引き裂く太くしゃがれた声が、まだ湿った朝のち込める公園に霊した。
僕と郎は、背の毛を瞬で逆て、弾かれたようにレンガの縁をび越えた。だが、僕たちので番体がさく、まだ世のの悪というものをらない黒のクマだけが、何が起きたのか分からず、湿ったのにぽつんと取り残されていた。
「クマ、れ!」
僕が茂みのでを止め、喉の奥から鋭く鳴き声を絞りすと、クマはビクッとを伏せて顔をげた。股で迫り来る靴の音。振りげられた箒のが、クマのさなに覆いかぶさる寸、クマは必にいを掻いてレンガをよじ登り、僕と郎が潜むツツジのい茂みのへと転がり込んできた。
ザッ、ザッ、と砂利を踏みしめる荒々しい音が、茂みのすぐで止まる。
「くそっ、逃げだけは丁だな……。せっかく昨、腰を痛めながら植え付けたっていうのに……なんてザマだ!」
男の激しい息遣いと、舌打ちの音が、枝葉の隙から漏れ聞こえてくる。
僕たち匹は、湿った腐葉のに体を極限までく密着させ、息を殺していた。 クマのさな体が、恐怖でカタカタと刻みに震えている。郎がそっと太いを伸ばし、クマの背を抱き寄せるようにして舐めた。
広告
ざらりとした郎の舌の触に、クマはすがるようにを擦り寄せる。
僕たちはただ、柔らかいを見つけて遊んでいただけだった。 公園の側、ツツジの植え込みの奥にしく作られた、赤レンガで囲まれた角い所。昨の夕暮れまでは誰もづかなかったその所に、今朝、ふんわりと空気をはらんだよい黒が敷き詰められているのをクマが見つけたのだ。
肉球に吸い付くようなの柔らかさが嬉しくて、クマがでホリホリと穴を掘り、郎が背を擦り付けてゴロゴロと喉を鳴らした。僕もつられて爪を研ぐようにを掻き分けた。 すると、く掘りめたのから、コロリと丸い塊が転がりてきたのだ。
タマネギによく似た、茶い皮を被ったい球。 見たこともないその塊を、僕がの先で「ちょいちょい」と転がし、をづけた――まさにその瞬、あの号がんできたのだった。
茂みのから、再び男の々しい声が響く。
「……球根が根こそぎ掘り返されとる。傷がついたやつもあるな。これじゃあ、になってもなんざ咲きやしねえぞ」
男は屈み込み、散らばった球根をつひとつ拾い集めているようだった。 やがて、公園の管理用具を入れるスチール物置のい引き戸がガラガラとき、続いてバケツとスコップがぶつかりう乱暴な属音が鳴り響いた。
広告
「おい、そこの茂みに隠れてるんだろ。度とこの壇にづくんじゃねえぞ! 次に悪さしたら、保健所に突きしてやるからな!」
ざかっていくい音をで追いながら、クマが震える声で僕の横顔を見げた。
「……ねえ、こん兄ちゃん。僕たち、なんでられたの? で遊んじゃ、いけなかったの……?」
僕には、答えられなかった。 を掘ることは、僕たち猫にとって呼吸をするのと同じ、当たりの習性だ。けれど、の世界には「触れていい」と「触れてはならない」があるらしい。
そして何より、僕たちを凍りつかせたのは、男がり際に吐き捨てた最の言葉だった。
――ホケンジョ。
かつてこの公園にいた老猫のトラジジが、姿を消す直に怯えた声で呟いていた言葉。 度捕まれば、度とこの空のには戻れないという、が野良猫を排除するための恐ろしい所。
血の繋がらない僕たち匹が、寄り添いってき延びてきたこの穏やかな公園の常に、たく湿った亀裂が入ろうとしていた。
午分。 朝の気がしずつれ、公園の向こうの幹線をるトラックの音が響き始める頃、僕たちのが同にピクリとねがった。
キィッ、という微かなブレーキの軋み音。 続いて、規則正しく回転する自転のチェーンの音。
「……みどりさんだ!」
クマが茂みから先を突きし、ピンと尻尾をてた。
広告
おすすめ作品
-
完結第10話
父の葬儀中「飯を作れ」と怒鳴った夫に、参列者が…
父の葬儀で喪主を務める美穂のもとに、夫・健一から何度も電話がかかってきた。用件は「今すぐ帰って飯を作れ」という身勝手な要求だった。二十年間、夫の暴言と厳しい金銭管理に耐えてきた美穂。父との最後の別れさえ邪魔され、ついに参列者の前で夫の怒声が響き渡る。すると、最後列に座っていた一人の男性が立ち上がった。その人物は亡き父の教え子で、健一とも思いがけないつながりがあった。因果応報|怒り|夫婦|親子関係|修羅場1.6万字5 2553 -
完結第15話
「柿の木だけは切るな」――庭から出た四人の遺骨
2024年、東京・品川の古い屋敷で、樹齢70年の柿の木が引き抜かれた。その根元から見つかったのは、大人一人と子ども三人の遺骨。20年前、この屋敷では住み込みの家政婦と三人の娘が姿を消し、家主である元校長は「金を盗んで夜逃げした」と説明していた。なぜ彼は、柿の木だけは絶対に切るなと家族に言い残していたのか。捜査を進める刑事・渡辺は、町の人々から尊敬されてきた元校長の過去と、20年間隠されてきた母娘の失踪の真相を追い始める。ミステリー|真実|真相1.7万字5 213 -
完結第12話
昭和35年、上野駅に現れた二人の「ハルコ」
昭和35年春。集団就職列車を迎えに上野駅へ来た食堂の主人は、「山本春子」と呼ばれた少女が二人同時に手を挙げたことに戸惑う。一人は店で働くために上京した春子。もう一人の晴子は、三年前に東京へ出た姉を捜していた。姉は故郷へ帰ったことになっているのに、家族は誰も会っていない。不審に思った主人が古い雇用通知書を調べると、晴子の帰郷を証明する書類に、自分の署名が残されていた。誰が少女たちの名前を使い、何を隠していたのか。集団就職の時代を背景に、書類一枚に翻弄された若者たちの人生を描く物語。時代|歴史|昭和|真相2.3万字5 83 -
完結第15話
「このおばあちゃん、危ない」六歳の孫が見たもの
六十八歳の静子は、夫を亡くしてから一人暮らしをしている。近所の蛇田さんは、毎日のようにお菓子を配って歩く親切なおばあさん。ところが、六歳の孫・小春だけは、なぜか彼女を避けていた。 ある日、三人でスーパーへ出かけると、小春が突然、静子の手を引いて言った。 「ばあば、このおばあちゃん、あぶない」 その直後、店員に呼び止められた蛇田さん。小春はいったい何に気づいたのか。お菓子に隠された秘密と、一人暮らしの老人たちが抱える寂しさを描く物語。人生逆転|祖父母と孫|真実|真相1.6万字5 369 -
完結第12話
150万円を払わせたママ友、次は寿司300万円
夫の昇進祝いで家族とレストランを訪れたひまり。楽しい食事の最後に告げられた会計は、なんと150万円。原因は、顔見知り程度のママ友・ぽて子一家が大量の料理を注文し、勝手にひまりへ支払いを押しつけたことだった。仕方なく立て替えたものの、返金を求めると渡されたのは、まさかのポテトチップスの空袋。しかも数日後、ぽて子は高級寿司店で新たな計画を立て始める。「ママ友なんだから払って当然」と言い張る一家に、ひまりが取った行動とは?因果応報|夫婦|真相|親子関係|金銭問題|修羅場1.2万字5 1147 -
完結第12話
毎朝「出ていけ」と怒鳴る隣人、測量の日に顔色が変わった
「引っ越しなさい!」毎朝七時、向かいの家の奥さんに怒鳴られる六十八歳のしず子。生まれ育った家を手放す気はないが、理由のない嫌がらせは日に日にひどくなり、相手の夫まで引っ越しを勧めてくる。しず子は言い返す代わりに、毎日の出来事をノートに書き留めていた。そんなある日、隣人の土地売却をきっかけに境界の測量が行われる。測量士が示した一本の線と、亡き祖父が残した古い封筒。そこには、長年の隣人関係を覆す意外な約束が隠されていた。怒り|真実|修羅場1.3万字5 562 -
完結第12話
新幹線で母娘の席を奪った女、現れた女性を見て絶句
五歳の娘パニミと夏休みの帰省を楽しみにしていた、弁当店を営むシングルマザーのパニコ。新幹線の自由席でようやく親子並んで座れたものの、見知らぬ女性に突然コーヒーをこぼされてしまう。服を拭くため席を外したわずかな間に、その女性は荷物を床へ放り出し、二人の席を奪っていた。娘を守るため、悔しさをこらえてデッキへ向かったパニコ。そこで偶然、日頃から世話になっている立花会長と再会する。事情を聞いた会長が一緒に席へ戻ると、先ほどまで威張っていた女性の顔色が一変して……。怒り|真相|親子関係|修羅場1.2万字5 1512 -
完結第10話
消えた卵の秘密
茜の家では、父の再婚相手・美津江が届けてくれる卵が、なぜか毎回なくなっていた。夜中につまみ食いをする夫の陽斗を疑っていた茜だったが、ある日、卵をこっそり持ち出す小学一年生の娘・凛を目撃する。「急に卵が嫌いになった」と泣く娘。しかし、いつもは素直な凛の様子はどこかおかしかった。そんな中、美津江から再び大量の卵が届く。茜は娘のために手作りプリンを用意するが、それを食べた美津江は、材料を聞いた途端に顔色を変えてしまう。娘が必死に隠していた秘密とは、いったい何だったのか。祖父母と孫|真実|真相|第二の人生1.4万字5 849 -
完結第12話
竹林の向こうの白衣
八歳のティアラは、重い喘息を理由に山奥の療養施設へ預けられた。だが本当の理由は、両親が天才と呼ばれる兄の教育に専念するためだった。家族に忘れられた少女を支えたのは、施設の人々と小児科医の竹之内先生。やがて彼女は自分の名前を変え、医師になる道を選ぶ。努力の末に脳神経外科医となった洋子は、ある冬の深夜、救急搬送された患者と向き合うことに。かつて自分を置き去りにした家族との思いがけない再会が、彼女の人生を大きく揺さぶり始める。兄弟姉妹|真相|絶縁|親子関係1.7万字5 600