"消えた子猫と、花壇の頑固おじさん" 第9話
方、その夜の公園は、を切るような静寂に包まれていた。
計台の針は午を回り、灯の青いが、誰もいない広をたく照らししている。 いつものクスノキの根元の寝。 僕と郎は、いつもなら真んにいたはずのさな温もりがないまま、匹だけでを寄せっていた。
「……広いな」 郎が、のに顎を乗せながらぽつりと呟いた。
「うん。……広いね」
匹で丸くなっていたは、互いの体温が隙なくなりって、たい夜も気にならなかった。 けれど今夜は、クマがいたはずの僕の半だけが、スースーとえて仕方がなかった。
クマは今頃、どうしているだろう。 あのきなは、鳴ったりしていないだろうか。 たい檻のに閉じ込められて、泣いてはいないだろうか。
僕がそうにをピクピクさせていると、郎が太い尻尾で僕の背をポンポンと叩いた。
「配すんな、こん。あのおじさんの目、見たろ。……鳴り散らしてはいたが、あいつのは優しかった。物病院へ連れてくのあののき……あれは、猫を本当にってるのだ」
「うん……そうだね」
「あいつのところにいた方が、クマにとってはいいんだよ。これからもっと寒くなる。俺たちのこの体じゃ、あいつのい肺を守り切ってやれねえからな」
郎の言葉は、正しかった。
広告
では分かっている。野の厳しさをき抜くには、クマはあまりにもさく、脆すぎた。 けれど、納得することと、寂しさに耐えることは、まったく別のことだった。
翌朝、半。 の空がみ始めた頃、僕と郎はいつものベンチのでみどりさんを待った。 やってきたみどりさんの自転のろカゴには、いつものつ分の皿。
「おはよう、こんちゃん、郎ちゃん」
みどりさんの笑顔は、昨よりもずっとるかった。 「くまちゃんね、昨夜のご飯、粒残さず全部べたのよ。もがって、さんの毛布のでぐっすり眠ってるわ」
僕たちは嬉しくて、みどりさんの元をの字を描くようにぐるぐると回った。 きていた。元気になっていた。それだけで、昨夜の寒さが吹きぶようだった。
だが、僕たちがご飯をべ終えた直、公園の入りの方から、数の話し声と、い音がづいてきた。
やってきたのは、スーツを着たの男性と、腕章を巻いた町内会の老だった。 スーツの男たちのには、黄いち入り禁止テープと、型の板が握られていた。
「ここですね、苦がている現は」
「ええ、壇の被害だけじゃないんです。砂に猫の糞尿が混ざっていると、子育て世代の親御さんたちから連署名が集まっておりましてね」
町内会が、忌々しそうに植え込みを指差した。
広告
男たちは掲示板の横に、杭を槌で打ち込み始めた。
ガツン! ガツン!
鳴り響く属音とともにてられた真しい鉄製板。 そこには、僕たちの運命を根底から覆す、決定な文字が刻まれていた。
【都公園法に基づく通告】 『本公園内における特定物(猫等)への餌為を全面禁止とします。速やかな自主捕獲・撤がわれない、来をもって政代執による全の斉捕獲を実施し、専施設へ移送します。――区役所部公園緑課』
斉捕獲。 猶予は、あと週。 みどりさんは板の文字を見げ、顔面を蒼にしてそのにち尽くした。
同じ刻、さんのの階。
遮カーテンの隙から差し込む朝のが、畳の畳のに柔らかな縞模様を描いていた。 階から、トースターのチンという乾いた音と、コーヒーのばしい匂いが漂ってくる。
ケージの扉は、朝番でさんのによってけ放たれていた。 「たけりゃ、ていいぞ」 そう言い残してさんが階へりていった、クマはおずおずとケージの縁から首を伸ばした。
クンクンと畳の匂いを嗅ぐ。 も、濡れた落ち葉もない、乾いた藺のり。 クマはを本、畳のへと踏みした。
フワリとした、適度な弾力。 たいコンクリートとは違う、温かみのある触。
クマはそろそろとケージのへいし、部のを歩ずつ探検し始めた。
広告
おすすめ作品
-
完結第18話
昭和44年、最終バスから消えた女性車掌
昭和44年、女性車掌・藤村紀子は最終バスの途中で姿を消し、車掌鞄から三万円を盗んで逃げたと噂された。25年後、娘の美和が廃校の屋根裏で十三枚の乗車券を発見する。当夜の公式記録は乗客十二人だったが、十三枚目は家庭で虐待されていた九歳の少年・高瀬誠の切符だった。 紀子は帰宅を拒む誠を継父・大島へ渡さず、夫の英一に託して鉱山会社の不正資料を取りに向かった。事故隠蔽や児童労働の証拠を掴んだものの追われて富山へ逃れ、その後三度手紙を送っていた。しかし英一は、最初は誠を守るため、後には自分の嘘が露見する恐怖から、すべて受取拒否にしていた。三万円の盗難も、運転手や営業所長らが作った偽装だった。 生存していた紀子と再会した美和は、母の潔白を証明しても、25年の不在まで無条件には許さない。会社記録は訂正され、十三枚の切符は廃校の資料室に保存される。父母は離婚し、美和は双方と境界を定めながら関係を築き直す。最後に母娘は一緒に資料室の戸締まりをし、次に会う日を、初めて誰にも決められず自分たちで選んだ。歴史|昭和|ミステリー|真相2.7万字5 62 -
完結第18話
昭和五十一年、消えた父の声を十八年後に聞いた
昭和51年、深夜番組の途中で言葉を止めたアナウンサー・孝一が、そのまま姿を消した。局から消えた200万円を持ち逃げしたと疑われ、家族には盗人という噂だけが残る。18年後、娘の奈津美は放送局の壁から、当夜の未放送音声を記録したテープを発見する。 調査の末、孝一はダム建設に伴う戸籍偽装と土地補償の不正を知り、死亡したことにされた女性の娘を守ろうとして町を離れたと判明する。200万円の受領書も局幹部による偽装だった。しかし危険が去った後も、孝一は家族に拒絶されることを恐れ、自ら帰らない年月を重ねていた。 奈津美たちは父と再会するが、すぐに昔の家族へ戻ろうとはしない。父の潔白だけでなく、その後の沈黙も記録に残し、それぞれの距離で関係を築き直す。資料館では途切れた放送と地域の声が保存され、孝一は新たな記録に《今度は、返事がなくても、自分から確かめる》と書き残した。昭和|ミステリー|真相|行方不明2.7万字5 60 -
完結第16話
12人の子を育てた母の墓から蛇が出た――納骨室を開けると、知らない骨壺が重ねられていた
母・澄江が亡くなって3年。65歳の長男・満は、12人のきょうだいと墓参りに集まった。すると1匹の蛇が墓石の隙間へ消え、91歳の父が「この墓は何かおかしい」と告げる。調べると、石板には工具の傷があり、寺の台帳には母以外の納骨記録がない。正式に納骨室を開けると、母の骨壺の上には見知らぬ骨壺が重ねられていた。火葬日は母の納骨から62日後。さらに、38万円の夜間作業伝票と23時43分の写真が見つかる。誰が母の墓を開け、なぜ別人の遺骨を3年間も隠したのか。やがて浮かび上がったのは、母を誰より慕っていたはずの親友だった。真相|遺體発見2.0万字5 490 -
完結第14話
搭乗直前、警察犬が機長に飛びかかった――10時32分、空港全便が止まった理由
瀬戸内空港で爆発物検索犬ハヤテを担当する高瀬直人。9時38分、搭乗口へ向かう黒川機長にハヤテが突然飛びかかり、フライトバッグから爆発物由来成分が検出された。だが、バッグの中には何もない。さらにハヤテは、168人を乗せて10時15分に出発する217号機へ向かい、再び警戒姿勢を取る。全7便が緊急停止する中、操縦席後方の点検パネルから見つかったのは、「10時32分」を示す謎の装置だった。機長は犯人なのか、それとも誰かに罪を着せられたのか。消された午前1時30分の記録と、バッグが視界から消えた47秒が、3年前の検修不正へつながっていく。真相1.7万字5 163 -
完結第19話
昭和54年、消えた母の集金袋
昭和54年の集金日、商店街の積立金86万4千円とともに母・澄江が姿を消した。金を持ち逃げしたという噂を残したまま17年。娘の直子は、父の遺品から「返すこと」と書かれた千円札を見つけ、古い帳簿を調べ始める。 調査で見つかった受領書は、澄江が集金した全額を会計担当の大竹へ渡していたことを示していた。大竹は会費の使い込みを隠すため、澄江が倉庫の点検槽へ落ちた夜に救助を呼ばず、失踪後も嘘を重ねていた。ただし、転落の瞬間に何が起きたかは分からない。 直子と弟の修司は母の汚名を晴らし、積立金の記録と返金先を調べ直す。帳簿に残った「集金係の未入金」という記述も訂正された。直子は母の集金袋を店の棚に戻し、修司と並んで帰り道を歩く。時代|昭和|ミステリー|真相2.8万字5 140 -
完結第12話
入院中、母が勝手に老人ホームへ送られていた
交通事故で一週間入院した菜緒は、母・春江と連絡が取れないことを夫・健太に訴える。しかし健太は「元気にしている」と嘘を重ね、退院後に実家へ向かうと、母は姿を消し、家財や通帳、土地の権利証まで段ボールに詰められていた。 健太は、足の悪い春江に「娘は長期入院し、家も売る」と吹き込み、無断で老人ホームへ入れていた。目的は実家を売却し、残金を自分たちの生活に使うことだった。施設の隅で「娘に捨てられた」と泣く母を見つけた菜緒は、虚偽による入居契約の無効を主張し、その場から母を連れ帰る。 菜緒は直ちに、八年間続けてきた義父母への月十五万円の送金と家族カードを停止し、自分名義の定期預金三百五十万円も安全な口座へ移す怒り|夫婦|親不孝|金銭問題|修羅場1.7万字5 90 -
完結第11話
棺の中で眠る娘と、吠え続けた秋田犬
秋田の豪雪地帯で、七歳の少女・雪の葬儀が営まれていた。ところが愛犬ハチだけは棺に向かって激しく吠え、畳を掻き続ける。周囲が狂犬扱いする中、前妻であり元救命看護師の静子は、棺の内側から聞こえる微かな音と、雪の指先の動きを見逃さなかった。 静子が葬儀を止めて棺を開けると、雪には脈と呼吸が残っていた。静子は的確な応急処置を行い、雪はついに「お母さん」と声を発する。無力だと見下していた静子に娘を救われ、後妻エミリーと父・健一は言葉を失う。 しかし、奇跡の生還で物語は終わらない。救急搬送される娘に付き添いながら、静子は「なぜ雪が猛吹雪の夜、裏山へ出たのか」という疑念を抱く。人生逆転|真実|真相|親子関係1.6万字5 336 -
完結第13話
死刑執行直前、1匹の犬が見つけた「8年前の嘘」
ホテルで起きた2人の殺害と放火の罪を着せられ、死刑判決を受けた設備技術者・相沢直人。無実を訴え続けて8年、ついに執行の朝が訪れる。その2日前、元婚約者の結衣と愛犬ハルの前に、かつて直人を犯人だと証言した男から連絡が届いた。「消された9分間を、私は持っています」。だが約束の場所に残されていたのは、男の車と携帯だけ。誰もが彼は帰ったと考える中、10歳になったハルだけが、閉鎖された研修施設の地下扉から離れようとしなかった。扉の奥に隠されていた人物、途切れた防犯映像、そして直人を死刑台へ送った8年前の嘘。1匹の犬が見つけた小さな異変は、止まっていた事件を再び動かし始める。真相2.6万字5 255 -
完結第18話
消えた写真屋の父が残した一本のビデオ
昭和62年の運動会の日、写真館を営む信吾が姿を消した。店から商店街の預かり金200万円もなくなり、家族を捨てて逃げたと疑われる。8年後、娘の由美は運動会のビデオの続きに、失踪したはずの父が午後4時過ぎ、道路計画をめぐって時計店主と口論する姿を見つけた。 由美が調べると、道路の調査資料は書き換えられ、父はそれを示す写真を守ろうとしていたことが分かる。一方で信吾は生きており、家族に連絡できる時期になっても帰らなかった。母の千鶴も、子どもを守るつもりで映像と自分が受け取った金のことを隠していた。 真相が明らかになっても、失われた8年は戻らない。由美と千鶴は新しい写真の店を開き、信吾とは時間をかけて会い直す。由美は今の家族をそれぞれの居場所で撮り、自分の写った一枚も店の棚に置いた。昭和|ミステリー|真相2.7万字5 395 -
完結第13話
黒い着物の誓い
「お前んち、ヤクザだっけ?w なら今すぐ呼んでみろよ」 同窓会の席で、私は昔のいじめ加害者に笑われました。 祖母の形見の黒い着物を見て、 「極道の真似事かよ」 そう言った男は、私の胸元に酒を浴びせたのです。 周囲は笑っていました。 10年前、教室で机に落書きをされた時と同じように。 私は怒りを抑え、ただ1本の電話をかけました。 「5分で来てください」 すると―― ホテルの前に現れたのは、30台の黒塗り高級車。 そして、誰もが知るはずのない私の本当の立場を前に、笑っていた同級生たちは凍りつきました。 しかし、そこで終わりではありませんでした。 床に這いつくばって謝罪する男の背後には、 母親が隠していた「400万円の借金」と、10年前の雨の日に繋がる秘密があったのです。 なぜ私は、私を傷つけた相手を救うことになったのか。 そして、あの日の1万円が、10年後に大きな運命の変化を起こすことになるとは――人生逆転|怒り|真実|修羅場1.9万字5 447