みかん小説
本棚

"消えた子猫と、花壇の頑固おじさん" 第14話

公園を散歩する民たちからも、しずつ刺々しい言葉が消えていった。 「最、砂が綺麗ねえ」 「ほら、あそこのにいる猫、ちゃんとお儀よく座ってるわよ」

と僕たちのに、目に見えない、けれど確かな「休戦協定」が結ばれつつあった。 けれど、僕と郎のには、依然として埋まらない穴がぽっかりと空いたままだった。

クマがいない。

毎朝、ご飯の皿はつ。 みどりさんは「くまちゃん、すっかり元気になったわよ」と教えてくれるけれど、僕たちの目のに、あの真爛漫な黒の姿は戻ってこない。

「……もう、帰ってこないのかな」 あるの昼がり、ベンチので、郎が珍しく音を吐いた。

さんの、居がいいんだよ。らないし、ご飯も美しいし。……の厳しい活になんか、戻りたくないに決まってる」

「でも……」 僕はの爪を見つめた。 「クマは、僕たちの弟だったじゃないか。血は繋がっていなくても、あの寒いを、で抱きって越えてきたのに……」

そのだった。

カシャリ、と公園の入りのゲートがく音がした。 いつものみどりさんの自転ではない。 作業着を着たさんが、歩いてこちらへ向かってきていた。 そして――そのには、見慣れないプラスチック製の箱がぶらげられていた。

青い蓋のついた、頑丈なキャリーケース。

広告

「おい、おら」 さんが、ベンチのの僕たちに向かって声をかけた。 「……連れてきてやったぞ」

箱の鉄グリルの隙から、フンフンと激しくを鳴らす音が聞こえた。 そして――。

「ミャウ! ミャウッ!!」

あの、鈴を転がすような、甲い懐かしい鳴き声。

「……クマ!?」 郎が弾かれたようにベンチのからした。僕もそれに続いた。

さんが面にキャリーケースを置き、ゆっくりと正面のロックをした。 カチャリ。 鉄の扉がかれた瞬からしてきたのは、見違えるほど毛艶の良くなった、ふっくらとした黒の猫だった。

「こん兄ちゃん! 郎兄ちゃん!」

クマが直線に僕たちへと突してきた。 匹の体が激しくぶつかりい、に転がった。 を突きわせ、互いの匂いを確認しう。 病院の消毒液の匂いはすっかり消えり、そこにはお様の匂いと、さんのの畳の匂い、そして――まぎれもない、僕たちのするクマ自の匂いが溢れていた。

「クマ……! お、本当に元気になったんだな!」 郎がきなでクマのを抱え込み、烈に顔を舐め回した。 クマは目を細め、ゴロゴロと喉を壊れそうなほど激しく鳴らした。

「うん! もうおも痛くないよ! 息も苦しくないんだ!」

さんはれたベンチに腰をろし、煙をつけながら、僕たちがじゃれう姿を黙って眺めていた。

広告

煙の向こうのその目は、の陽だまりのように優しく細められていた。

で転げ回り、互いの体を舐めってひとしきり再会をんだ、クマがふとを止め、僕と郎の顔を交互に見つめた。

クマの首には、品の緑の革の首輪が巻かれていた。 さなの迷子札がついており、そこにはさんの名字と話番号が刻まれている。 それは、彼がもはや「名もなき野良猫」ではなく、に守られた「飼い猫」になった証拠だった。

クマは自分の首輪をし気にしながら、さくを伏せた。

「……あのね、こん兄ちゃん、郎兄ちゃん」 クマの声が、急にそうにさくなった。

「僕ね……さんのおじさんので、ずっと暮らすことになったんだ。おじさんが、『うちの息子になれ』って言ってくれたの」

郎がピクリとヒゲをかした。 そして、いつものように穏やかに、しだけ寂しそうに目を細めて笑った。

「そうか。……良かったじゃないか、クマ。もうたいに打たれなくていい。凍える夜に、震えながらを寄せわなくてもいいんだ。おには、それが番いい」

だが、クマの瞳には涙が滲んでいた。 クマは僕の胸元にをぐっと押し当て、震える声で問いかけてきた。

「……僕たち、もう族じゃなくなっちゃうの?」

その問いが、僕の胸を鋭く貫いた。 む世界が変わる。

クマは温かなで、柔らかいベッドと美しいご飯を与えられてきる。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: