"入院中、母が勝手に老人ホームへ送られていた" 第5話
周囲にはいフェンスが張り巡らされ、エントランスの自ドアには内側からけられないよう、厳な暗証番号式の子錠が取り付けられていた。
受付で「の娘です」と名乗ると、事務職員は眉を寄せ、元の入居台帳をめくった。
「様ですね。本は面会のご予約をいただいておりませんが……」
「娘の私には、入居の事実すららされていませんでした。母に会わせてください」
菜緒のただならぬ様子に気圧されたのか、職員は奥の内線話で確認を取り、階の目スペースへと案内した。
エレベーターの扉がき、リノリウムの廊をむと、微かな消毒液の匂いと、音量で流れるテレビの音声が混ざりってにび込んできた。
広いフロアの片隅、窓からくれた暗い壁際に、台の子が置かれていた。
背を丸め、膝のに置いた両をきつく握りしめ、の点を見つめて震えている柄な。
「……お母さん」
菜緒が駆け寄り、松葉杖を投げすようにしてそのに膝をついた。
がさく震え、ゆっくりと顔をげた。
を失った虚ろな瞳が、菜緒の姿を捉えた瞬、きく見かれた。
「……なお……? なおなの……?」
母の頬はわずか週で見違えるほど痩せこけ、肌は気にくすんでいた。着慣れない施設指定ののスウェットを着せられ、元にはサイズの回りきなプラスチックサンダルが履かされている。
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「お母さん! ごめんね、遅くなってごめんね……!」
菜緒が母の痩せた両を包み込むと、母の指先は氷のようにえ切っていた。
「なお……怪は、丈夫だったの……? 痛むところはないの……?」
母のから最初にたのは、自分自の窮状ではなく、事故に遭った娘の体を気遣う言葉だった。
その瞬、母の目から粒の涙がぼろぼろと零れ落ち、菜緒の甲に落ちた。母は声を押し殺し、肩を震わせて泣きじゃくった。
「ごめんねぇ……私、が痛くてけなくなっちゃって……健太さんがね、『菜緒さんは怪をして期入院になるから、お母さんの面倒は見られない。ここにいなきゃ菜緒さんに迷惑がかかる』って……」
「そんなこと言ってない! 私、そんなこと言も言ってないよ!」
「『も売り払って施設の費用に充てるから、もう帰るはないんだ』って言われて……私、なおの荷になりたくなくて……ここにいるしかないんだって……」
母は部の隅で、娘に捨てられたのだとい込み、絶望ので震えていたのだ。自分のが娘を苦しめていると信じ込まされ、誰にも助けを求めることもできず、ただ涙を流して耐えていた。
その姿を見た瞬、菜緒の胸ので、これまで健太に対して抱いていたや未練、罪悪のすべてが、音をてて消滅した。
残ったのは、燃え盛るような徹なりだけだった。
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「お母さん、ちがれる?」
「え……?」
「に帰るのよ。お母さんのへ、私たちのへ帰るの」
「でも……健太さんが……」
「あのの言うことなんて、何つ聞く必はないわ」
菜緒は母の背にを回し、ゆっくりと子からちがらせた。母の首には湿布が巻かれていたが、菜緒が体を支えれば、自力でしっかりとを踏みしめることができた。
その、フロアの入りから、施設の活相談員を連れた健太がに歩み寄ってきた。
「おい! 菜緒、何勝なことしてんだ! 契約にサインもして、入居の続きもめてるんだぞ!」
活相談員の女性もおろおろとを挟んだ。
「あの、奥様……様はご本様とご主様の同のでご入居いただいておりまして、急な退所は契約違反に……」
「同ですって?」
菜緒は母を自分の背に庇い、健太と相談員を酷な差しで射すくめた。
「母は変形性膝関節症による軽度の歩困難があるだけで、判断能力は何つ衰えていません。成見の始審判も受けていない自した個です。その母に対し、虚偽の事実を吹き込んでを煽り、本の真に基づかない類に署名させたのであれば、それは民法の詐欺による表示であり、公序良俗に反する無効な契約です」
淀みなく繰りされる法な言葉に、相談員は息を呑んでたじろいだ。
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