みかん小説
本棚

"入院中、母が勝手に老人ホームへ送られていた" 第9話

健太は崩れ落ちるように畳に両をついた。

言い逃れの言葉は、もうどこにも残っていなかった。

「母は認症じゃない。し悪かっただけよ。それを、自分の都で『認症の施設入居者』に仕げ、の財産を奪しようとした。……健太、あなたのやっていることは、ただの庭内トラブルじゃない。派な詐欺未遂よ」

「菜緒……頼む、許してくれ……! 俺が悪かった! 焦ってたんだよ! 実の親父が借の取りてに追われてて、どうしてもまとまったが必だったんだ……!」

健太はに額を擦り付け、涙を流して懇願し始めた。

しかし、その醜悪な座を見ろす菜緒の瞳には、片の慈も灯っていなかった。

けをかければ、は付けがる。

の甘やかしの果てにまれた怪物をに、菜緒は酷な宣告をした。

「今すぐ、このからていきなさい」

ていけって……菜緒、ここは俺の——」

「ここは、私の両親が建てた私の実よ。あなたには敷居を跨ぐ権利すらないわ」

菜緒は玄関の引き戸を指差した。

「今すぐていかないなら、警察を呼んで法侵入で通報します。すでに全課には、あなたが母を法に連れった経緯について相談記録が入っているわ。パトカーが来たら、困るのはどちらかしらね」

健太は顔を歪め、悔しそうに唇を噛み締めながらがった。

広告

「……悔するなよ。俺と別れたら、おでその寄りの面倒を見ることになるんだぞ! 介護でボロボロになっても、俺は絶対に助けないからな!」

負け犬の吠えのような捨て台を残し、健太は逃げるように実していった。乱暴に閉ざされた引き戸の音が、夜の帳のに消えていく。

に、再び静寂が戻ってきた。

菜緒はく息を吐き、居の座卓に両をついた。全の筋肉が張り、事故の遺症である肋骨の痛みがズキズキと疼いていた。

「……なお」

の襖が静かにき、母・が壁にを添えながら、ゆっくりと姿を現した。

「お母さん、起きちゃったの? 丈夫?」

菜緒が慌てて駆け寄ろうとすると、母はさく首を横に振った。その目には、涙の跡がっていたが、表は先ほど施設で見たとは打って変わり、本の芯が通っていた。

「全部、聞こえてたよ」

母は座卓の端に腰をろし、娘のをそっと握った。

「ごめんねぇ、なお。私のせいで、あんたの夫婦活をめちゃくちゃにしちゃって……」

「お母さんのせいじゃない!」菜緒は母のを握り返した。「あのたちの本性が、お母さんの怪をきっかけに暴きされただけよ。もしあのまま気づかずに暮らしてたら、私、あの族の奴隷にされていたわ。気づかせてくれたのは、お母さんよ」

広告

母はしばらく黙って、自分の元を見つめていた。

それから、顔をげて言った。

「なお。私、このきていくよ」

その声には、迷いがなかった。

が痛くても、すりにつかまれば歩ける。買い物だって、所の協の宅配を頼めばいい。通院も、町の福祉タクシーがあるって民委員さんが教えてくれた。あんたに全部を背負わせたりしない。私が自分の力で、このを守るよ」

母の言葉を聞いた瞬、菜緒の目から、張り詰めていた涙がボロボロと零れ落ちた。

守るべきものは、ここにあったのだ。

誰かの顔を窺い、理尽な求に怯えながら差しすおではなく、自分たちので暮らしを紡ぎ、尊厳を守り抜くこと。

翌週の、実には福祉用具の専業者とケアマネージャーの姿があった。

玄関のがり框には頑丈な製のすりが取り付けられ、浴とトイレにも滑り止めのマットと補助バーが設置された。

「お母さん、どう? 握りやすい?」

「ええ、すごく楽ちんだわ。これならでお呂も入れるねぇ」

母がすりにを添え、しっかりと自分のがる姿を見て、ケアマネージャーの野が微笑んだ。

さん、素らしい筋力ですよ。転倒への恐怖さえ克できれば、デイサービスのリハビリと週回のヘルパーさんの訪問を組みわせるだけで、分に活を維持できます」

「ありがとうございます。私、頑張ります」

母が々とげる隣で、菜緒は帳にしいスケジュールをき込んでいた。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: