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"入院中、母が勝手に老人ホームへ送られていた" 第11話

対面に現れた健太は、わずかに頬が削げ落ち、着古したスーツの肩幅が余っているように見えた。その隣には、健太が法テラスを通じて依頼した国選にの男性弁護士が、困惑した面持ちで座っていた。

「それでは、双方の確認事項に入ります」

野弁護士が、机のに分いファイルを置いた。

菜緒さんからの求は、協議婚の即、ならびに過為に対する慰謝料の請求です。 第に、菜緒さんの実母・さんに対する虚偽の事実告による精神苦痛、および当な施設隔為に対する慰謝料として、百万円。 第に、さんの所する産の無断査定および売却未遂為に対する損害賠償。 第に、過にわたり、菜緒さんの特財産座から吉沢へ支払われていた仕送りのうち、直に無断で増額されていた万円——計万円の当利得返還請求です」

突きつけられた請求の総額を見て、健太の代理弁護士がさく溜息をついた。

「……相方弁護士、こちらの依頼には現、これほどのを支払う資力がございません。分割での支払いを——」

「資力がない?」

野弁護士が類をめくり、枚の写しを叩きつけた。

「健太氏が単独名義で加入している積型の命保険の解約返戻、ならびに現お乗りの乗用の査定価格を算すれば、百万円以の換価価値がすることは調査済みです。

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もし任での支払いに応じないにでも裁判所へ財産続および仮差し押さえの申してをいます」

逃げは、完全に塞がれていた。

健太は両を抱え、掠れた声で呻いた。

「菜緒……頼むよ。俺、会社でもが悪くなって、ボーナスも減額されたんだ。親父の件で実所にも居づらくなって……俺からも保険も奪ったら、どうやってきていけばいいんだよ……」

「それは、あなたが自分で考えることよ」

菜緒は初めて、元夫の目をまっすぐに見つめた。

りも、みもなかった。ただ、目のにいる男が、かつて自分がした伴侶ではなく、の痛みに寄することしからなかったれな抜け殻にしか見えなかった。

「あなたは母のを奪い、母から所を奪おうとした。自分の実を守るためなら、の母親を施設に捨てても何ともわなかった。……自分の蒔いた種を、自分で刈り取りなさい」

健太の瞳から、粒の涙が零れ落ちた。

しかし、その涙は反省の涙ではなく、自らの破滅を憐れむだけの浅ましい涙だった。

健太の代理弁護士が「これ以の争訟は、依頼にとって刑事事件化のリスクをめるだけです」と打ちすると、健太は震えるで万を取り、婚届の署名欄と公正証に自らの名き殴った。

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インクが乾いた瞬にわたる呪縛が、音をてて完全に消滅した。

季節は巡り、の柔らかな陽が、実の縁側を黄に染めげていた。

菜緒は庭の植え込みの入れを終え、縁側に腰をろしてたい麦茶を喉に流し込んだ。

台所からは、トントンとよく根を刻む包丁の音が響いてくる。

「なお、お昼は何にする? 昨の残りのけんちん汁を温めようかねぇ」

割烹着を着た母・が、台所のすりにを添えながら、笑顔で顔を覗かせた。

の速度は以よりしゆっくりになったが、元はしっかりと定していた。週回のリハビリデイサービスで腰を鍛え、域のボランティアが運営する買い物サロンへも自分で通えるようになっていた。

「お母さん、けんちん汁いいね。お餅もつ焼こうか」

「いいねぇ。お父さんの仏壇にも供えなきゃね」

器棚の特等席には、あの父との旅が詰まった美濃焼の急須と湯呑みが、誇らしげに並んでいた。

段ボールに詰め込まれ、危うくゴミ同然に処分されそうになった活の欠片たちは、今、確かな温もりを取り戻して息づいていた。

健太のそのについては、野弁護士からの事務な報告を通じてるのみだった。

命保険を解約し、放して慰謝料の支払いを済ませた健太は、実のローン返済と両親の活費をで背負いきれず、結局、義実と建物を任売却したという。

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