"昭和29年、教室から消えた子どもたち" 第1話
昭294、京郊。
桜のびらがまだ庭の隅に残る朝、青葉学の正から台のいが入ってきた。側面にはきく「胸部検診」とかれ、荷台のような部には見慣れない械が積まれている。
組の夫は、窓際の席からそのを眺めていた。
「今も来たな」
隣の列から声をかけてきたのは、同じ14歳の親友・林信だった。学の頃からの付きいで、放課には摩川の支流へ釣りにき、になると自転で隣町までアイスキャンデーを買いにく。
「写真撮るだけだろ」
夫が答えると、信は胸を押さえる真似をした。
「俺、骨まで写ったりして」
「胸の写真だぞ」
「じゃあ臓も見える?」
「らないよ」
の席にいた佐々子が振り返った。
「とも静かにしなさいよ。結核が見つかったら変なんだから」
教の空気がし変わった。
結核。
その言葉だけは、誰も冗談にしなかった。
所にも療養所へ入ったがいる。駅のの主は以へ戻っていないし、夫の母・文にも、昔結核でく寝込んだ姉がいた。
それでも、自分たち学の話だとはっていなかった。
午10を過ぎると、席番号順に庭へ並ばされた。
女子と男子で別れ、先の指示に従って検診のへ入る。
「息を吸って」
技師らしい男に言われ、夫はたい板へ胸をつけた。
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「止めて」
瞬だけ械の音。
「はい、次」
それだけだった。
へると、信が待っていた。
「何もなかっただろ?」
「ああ」
「、川く?」
「は委員会」
「じゃあ」
いつもの会話だった。
誰も、このを境に教の空席が増えていくとはっていなかった。
最初に来なくなったのは、検診からだった。
組の女子徒、森田子。
朝の席確認で担任の先は、空いた席を度だけ見た。
「森田さんは庭の事で転しました」
教がざわついた。
「急だな」
「どこへ?」
「昨まで何も言ってなかったよ」
先は席簿を閉じた。
「詳しいことは先も話せません。今の授業を始めます」
夫は何となく子の机を見た。
窓側のろから番目。
机の横には、まだ雑巾を入れた布袋が掛かっている。
放課。
掃除当番で教に残った夫は、子の席のを通り過ぎた。
机の蓋がしいていた。
には国語の教科。
漢字練習帳。
箱。
昨まで使っていたものが全部残っている。
ろのロッカーには体操着まであった。
「これ、転した奴の荷物じゃないだろ」
信がろから言った。
「急に決まったのかもしれない」
夫はそう言ったが、自分でも納得できなかった。
週。
今度は組の男子徒が消えた。
また同じ説だった。
「庭の事で転」
そして、その次の曜。
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先が席簿をいた。
「林」
返事がない。
夫は隣を見た。
信の席が空いている。
昨の曜。
は商で偶然会った。
信は、
「、学終わったら川こうぜ」
と言っていた。
竿まで直したと笑っていた。
転するの顔ではなかった。
先は何事もないように言った。
「林君は庭の事で転しました」
夫はちがった。
「先」
教が静かになる。
「何です、君」
「昨まで本もらなかったのに?」
先の表が変わった。
「何がです」
「信、昨、緒に川へこうって言ってました」
誰もかなかった。
「転するなら、そんな約束しません」
先は数秒、夫を見つめた。
それから黒板へ向き直った。
「席に座りなさい」
「でも」
「座りなさい」
声がかった。
それ以は何も言わせない声だった。
放課。
夫は先に呼び止められた。
「。林の机、を片づけて職員まで持ってきてくれないか」
「どうして僕が」
「仲が良かっただろう」
夫は返事をしなかった。
それでも信の机へ向かった。
教科をねる。
ノート。
箱。
使いかけの消しゴム。
そのから、枚のいが滑り落ちた。
夫は拾った。
部には、
《健康診断結果》
と印刷されている。
氏名。
林信。
胸部の欄。
赤鉛できな丸。
その横に、
《精密検査》
夫は息を止めた。
消えた。
の胸部検診。
そして信の机に残された。
のでばらばらだったものがつにつながった。
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