みかん小説
本棚

"昭和29年、教室から消えた子どもたち" 第2話

「……結核?」

誰もいない教で、

夫は初めてその言葉をにした。

翌から、夫は消えた徒のことばかり考えるようになった。

森田子。

組の坂本正夫。

林信。

全員、の検診にいなくなった。

しかも「転」と言われながら、荷物や友への別れの挨拶がない。

結核が見つかったからではないのか。

学が染を恐れ、徒をどこかへ送っている。

その推理は、14歳の夫にはあまりにも自然だった。

問題は、なぜ隠すのかということだった。

放課、夫は子と仲が良かった佐々子へ聞いた。

「森田から何か聞いてない?」

子は首を振った。

「何も。最のも普通だった」

「の所、ってる?」

「ってるけど」

子は周囲を見た。

「くの?」

「ちょっとだけ」

「やめた方がいいんじゃない?」

「なんで」

子は声を落とす。

「うちのお母さんが言ってた。森田さんのの、最洗濯物がてないって」

「それが何」

「引っ越したならいいけど……病気だったら」

最の言葉を濁した。

夫は苛った。

「病気だったら何だよ」

「何でもない」

子は逃げるように教をていった。

その反応まで、夫には疑わしく見えた。

翌。

夫は昼休み、保健のくを通った。

本当はへくつもりだった。

だがから先の声が聞こえ、を止めた。

「またです」

続いて、養護担当の松永先の声。

広告

「には伝えましたか」

「昨、から」

「反応は?」

い沈黙。

「母親が、絶対に所へは言わないでくれと」

夫の背がたくなった。

「学としても、本のことを考えたら……」

その先は聞こえなかった。

廊の向こうから別の先が来たため、夫は慌ててそのをれた。

また。

には伝えた。

所に言わないでくれ。

やはり結核だ。

違いない。

午の授業。

夫は何度も信の空席を見た。

信はどこかの病院か療養所にいる。

誰にもらされず。

で。

そのの放課。

夫は信のへ向かった。

造平のさな借。

玄関先には洗濯物が干してあった。

男物の着。

信のシャツ。

は空ではない。

「ごめんください」

返事はない。

もう度呼ぶ。

すると、奥から信の母・がてきた。

夫を見るなり、顔が固まった。

「夫君」

「おばさん」

「どうしたの」

「信は?」

は瞬黙った。

「くへってるの」

「転したって先は言いました」

「そう……」

「どこの学ですか」

「まだ決まってないの」

話がわない。

夫は聞いた。

「病院ですか?」

の顔が変わった。

「何を言ってるの」

「信、結核なんでしょう」

「違います」

即答だった。

「じゃあどこにいるんですか」

「夫君、帰って」

戸を閉めようとする。

その瞬。

の奥から激しい咳が聞こえた。

度ではない。

胸の底から絞りすような、い咳。

広告

夫は戸へをかけた。

「信!」

「違う!」

が叫んだ。

奥の襖がいた。

痩せた男が壁へをつきながらてきた。

信の父・徳治だった。

頬が落ち、顔が悪い。

元には拭い。

「夫君か」

い声だった。

「信じゃ……」

徳治は咳をこらえながら子へ座った。

が顔を覆った。

しばらくして、

徳治が言った。

「病気なのは、俺だ」

夫は何も言えなかった。

「先から咳が止まらなくてな。の検査で引っかかった」

「じゃあ信は?」

が震える声で答えた。

「信はまだ、病気だと決まったわけじゃない」

「じゃあ何で学を」

「族に患者がたから、もう度きちんと調べる必があるって言われたの」

「それだけで転?」

は首を振った。

「転なんてしてないよ」

夫は言葉を失った。

「学は、転したって」

は唇を噛んだ。

「そう言ってもらったの」

「どうして?」

答えは徳治だった。

「結核のの子だってられたら、信まで終わる」

夫はわず聞き返した。

「終わる?」

「おは子供だから分からん」

徳治は自嘲するように笑った。

「病気だけじゃないんだ」

そして、

「族に結核がいる」

という言葉のさを、

夫はこの初めてることになった。

信は、埼玉県にむ母方の伯父夫婦のへに預けられていた。

は所にられることを恐れ、

学へ、

「しばらく親戚宅へかせたい」

と頼んだ。

学側は理由を公にせず、

「庭の事で転」

という形で処理した。

「でも、転じゃないんでしょう」

夫が言うと、は困った顔をした。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: