"昭和28年、妻が消える炭鉱町" 第9話
会社へ殴り込みもしなかった。
けれど証拠だけは残した。
それが、娘のにある。
帰りの列で、澄子は母のを何度も読んだ。
節子が借用証を作った理由と同じだった。
女たちはくて黙ったのではない。
黙るしかないで、残せるものを残していた。
枚。
数字つ。
付つ。
それをつなげるが現れるまで。
の料がづいた。
キヨの話では、次に送られる妻が決まっている。
棟の藤田マサ。
第棟の坂本シゲ。
澄子は田と相談し、本へ直接会った。
藤田マサは驚いた。
「どうしてっとると」
「節子さんたちと同じところですよね」
マサは泣きそうな顔になった。
夫の弟が病気で、葬式代まで借りした。
佐伯から「かで返せる」と言われたという。
澄子はつの残の写しを見せた。
マサは何度も数字を確認した。
「でも、断ったら亭主の仕事が」
「そこを緒に話したいんです」
方、坂本シゲは拒絶した。
「放っといて」
「でも」
「かな米が買えんのよ!」
シゲは鳴った。
「正だ何だ言うて、あんたがの米持ってきてくれるんか」
澄子は何も言えなかった。
正論だけでは腹は満たせない。
仕組みを止めれば、今この瞬に借を抱えた庭はどうなる。
そこが番難しかった。
田も言った。
「正だけ暴いて、貸付制度そのものが止まったら困るもある」
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必だからまれた仕組みだ。
問題は、必につけ込んで誰かが利益を得ていることだった。
そこで組は別の求を準備した。
貸付制度の廃止ではない。
全借入残の示。
与控除の細化。
族労務にるの賃細本交付。
会社と請負業者の帳簿突。
規移送の止。
「止めるだけじゃなく、代わりをす」
田は言った。
組の互助から緊急の費を貸す。
病院への支払い猶予を交渉する。
妻を働きへさなければべられないに、期だけでも別のを作る。
茂もいた。
坑夫仲を軒ずつ回った。
最初は「女のことをで話すな」と追い返された。
それでも自分ののつの残を見せると、顔が変わる男がいた。
料細を持ってくる者もた。
「うちも計算わんぞ」
「返し終わったはずや」
「何でまだ引かれとる」
声はしずつ増えた。
料の夜。
分の署名が集まった。
そして初めて、炭の夫たちが「妻をしたこと」を互いに隠すのをやめた。
恥ではなく、数字として並べた。
その瞬、佐伯たちが最も利用していたものがつ消えた。
沈黙だった。
決定なものを持ってきたのは節子だった。
の夜。
原駅からの女が列で戻ってきた。
節子だった。
へは帰らず、そのまま組事務所へ来た。
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頬は痩せ、には布で包んだ分い帳面を抱えている。
「どうしたと!」
茂がちがった。
節子は夫を見た。
嬉しそうにも、っているようにも見えなかった。
「逃げてきたんやないよ」
布を解く。
組の賃台帳だった。
「持ちしたん?」
澄子が聞く。
「借りた」
「誰に」
「向こうの事務のおばさん」
節子たちが毎晩数字を比べていることをり、最初は止めていた女性だった。だが自分の妹も昔同じ仕組みで働き、借が減らなかった経験があると打ちけた。
「晩だけ持ってけって」
台帳には女性ごとの労働数、総賃、控除額、炭鉱への返済送額が細かく記録されていた。
田たちは夜通し照した。
だけでも、の女性から炭鉱へ送ったと記録された返済は計万千円余り。
方、炭鉱側の与控除・貸付帳簿へ反映されているのは万千円ほど。
差額、万千円。
でそれだけ。
何も続けば、桁が変わる。
さらに台帳の最に、《紹介数料》というまとめ欄がある。
組から毎、炭鉱側の担当者へ支払われた額。
受取欄には略号。
《S》
「佐伯じゃないか」
茂が言った。
田はすぐ止めた。
「まだ決めつけるな」
しかし節子が別のをした。
「これも」
組の事務員がき写したという受領メモ。
《佐伯様 分謝礼》
もう略号ではなかった。
森が息を呑んだ。
仕組みが見えた。
妻を紹介する。
紹介数に応じ、組から佐伯へが入る。
妻たちの賃から炭鉱へ返済が送られる。
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