みかん小説
本棚

"昭和28年、妻が消える炭鉱町" 第10話

しかし佐伯は全額を族の借へ反映せず、部だけ記帳する。

残を残す。

また妻を働かせる。

によっては同じを度、度と送りす。

借が返らないほど、紹介の会が続く。

「だから完済させんかったんか」

茂が呟いた。

節子は夫を見た。

「私らが働けんくらいになるまで続ける気やったんやろ」

茂は何も言えなかった。

しばらくして、節子へをげた。

「すまん」

節子はすぐ許さなかった。

「何が」

「かせたこと」

「私もくって言った」

「でも」

「私がっとるのはそこだけやない」

節子は静かに言った。

「途でおかしいとったのに、あんた黙っとったやろ」

茂は顔をげられなかった。

ここまで来て初めて、問題は会社だけではないことがはっきりした。

夫婦のにも、返さなければならないものがあった。

翌朝、組は会社へ正式な申し入れをった。

炭鉱側は最初、全面に否定した。

族貸付は福利の環。

妻の就労は各庭の自由。

組は独した請負業者。

会社は賃処理の詳細をらない。

佐伯個のについても、「確認」とされた。

だが田は資料を机へ並べた。

組の賃台帳。

購買所控え。

夫に渡された返済予定表。

母の完済証。

佐伯への謝礼メモ。

会社側の顔が変わった。

「この台帳をどこで」

「所を言うに数字を見てください」

広告

田は引かなかった。

午には労働基準監督署へも資料の部が持ち込まれた。

会社が番恐れたのは、炭鉱町のへ話がることだった。

夕方。

佐伯は姿を消した。

自宅にもいない。

駅で見たという者がいたが、確かなことは分からない。

古賀世話役は突然、「自分は女たちのき先などらなかった」と言い始めた。

森はった。

「毎『実へ帰った』って言わせとったのは誰や」

古賀はをつぐんだ。

翌、会社は態度を変えた。

族貸付の全件調査。

規の族労務紹介止。

組との契約止。

ただし、すぐにすべてが解決したわけではない。

女性たちは帰れるのか。

未払いの賃は誰が払うのか。

借はいくらが本当なのか。

そして妻が戻れば、炭の計はどうなるのか。

「勝った」などと言える段階ではなかった。

むしろここから、数字を軒ずつ戻す作業が始まった。

最初に戻ってきたのは田辺キヨだった。

駅のホームでの子どもが母へびついた。

夫の栄吉はしれてっていた。

キヨは子どもを抱いたあと、夫のへった。

何か話した。

栄吉はをげた。

キヨはすぐにはへ入らなかった。

でい、駅のベンチに座っていた。

それを見て澄子はった。

妻が帰れば、元通りになるわけではない。

消えた数かそのものは、帳簿を訂正しても戻らない。

広告

節子が炭へ戻ったのは、問題が表面化してからだった。

武と子にはの夜にらせた。

朝からは玄関と窓を何度も往復した。

列が着くになると、武は剥がれた古い靴を履いたまま駅までった。

「母ちゃん!」

節子が改札をた瞬、の子どもが抱きついた。

節子はそのへ膝をつき、煤の落ちきっていないでを抱いた。

澄子はしれて見ていた。

茂はもっとれていた。

節子が顔をげた。

夫を見る。

茂が歩づく。

「お帰り」

節子は答えなかった。

荷物を持とうとする茂のを、度避けた。

そのまま子どもとへ帰った。

夕方、澄子が様子を見にくと、節子は台所で噌汁を作っていた。

以と同じ景。

けれど空気は違う。

茂は縁側へ座っている。

「兄ちゃん、伝わんの?」

澄子が言うと、茂がった。

「何すればいい」

節子が鍋をかき混ぜながら答えた。

「武の靴買ってきて」

玄関にはからそのままになっている破れた靴があった。

茂は黙って持ちげた。

「サイズは」

「で澄ちゃんに聞いて」

さな会話だった。

それでも澄子には、夫婦が元に戻るのではなく、別の形を作り始めた瞬に見えた。

夕、節子が澄子へ言った。

「私、しばらく向こうの女たちの細まとめるの伝う」

「帰ってきたばかりやのに」

「だからよ」

節子はの甲を見た。

「私がどれだけ働いたか、数字に残っとる。あれを誰かに勝に消されたくない」

被害者として帰ってきただけではない。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: