"一着の学生服を分けた双子" 第2話
「最初から説してくれ」
昭夫が学の袖を撫でた。
「着しかないんです」
までは着あったという。着は所の卒業から譲ってもらい、もう着は父親が古着で買ったものだった。しかしの終わり、古い方のズボンの膝と着の脇がきく破れ、繕って使える状態ではなくなった。
「学期に買う予定だったんです」
信夫が言った。
「でも買えなかった」
「だったら学へ相談すればよかっただろう。卒業のおがりを探すこともできた」
浦が言うと、兄弟は顔を見わせた。
「制だけじゃないです」
信夫が鞄の奥から枚の通学定期券を取りした。
《信夫》
川駅から川駅までの定期券だった。
浦が裏返すと、鉛でさな字がかれている。
《昭夫 ・・》
「まさか、これも枚なのか」
とも頷いた。
から学まではを含めると歩いて半くかかる。の季節にはさらにが必だった。そこでは、学と定期券を式にして、その学へく方へ渡していた。
「学へ来ないは何をしている」
浦が問うと、今度は昭夫が答えた。
「材です」
「とも?」
「はい」
父・正が働く阿久津材へき、屑を掃き、板を運び、薪を束ねる。械には触らないよう言われているものの、朝から夕方くまで伝うもあるらしい。
広告
浦は眉を寄せた。
「授業はどうしてる」
信夫が鞄からノートを取りした。
同じ頁に、種類の跡が交互に並んでいる。
「俺が学のは昭夫の分も写します。夜、で教えます」
「俺のは兄ちゃんに教える」
昭夫も言った。
数学の公式も、英語の単語も、理科の実験結果も、方が学で覚え、夜にもう方へ渡す。は分の授業を半分ずつ受けていた。
学。
通学定期。
学。
仕事。
ノート。
兄弟の暮らしは、何もかもが半分だった。
「こんなことを続けて、卒業できるとっているのか」
浦の声がしくなった。
信夫は顔をげなかった。
昭夫だけが、さく答えた。
「とも毎学へ来たら、うちは困るんです」
「何が困る」
沈黙。
「のもってるのか」
は答えなかった。
それだけで分だった。
「今、へく」
信夫が弾かれたようにちがった。
「先、やめてください」
「やめられない」
「父ちゃんにられます」
「られるかどうかの問題じゃない。おたちは学だ」
信夫は拳を握った。
「俺たちが勝にやってるんです」
浦はその顔をじっと見た。
嘘だった。
子供だけで、ここまで活全体を組み替えられるはずがない。
この兄弟は誰かを守るために、
まだ別のことを隠していた。
は町れの川沿いにある古い借だった。に晒された板壁はに変わり、玄関脇には薪と使い古したかき具が積まれている。
広告
母親の澄は、突然訪ねてきた浦を見ると慌てて部を片づけた。畳のには内職用の作業袋がになっており、彼女は本ずつ糸の始末をしていたらしい。
浦は交代登についてつずつ説した。
学が着しかないこと。
定期券も枚。
学へ来ないは材へっていること。
澄は度も驚かなかった。
「ごじだったんですね」
浦が言うと、澄は目を伏せた。
「はい」
「なくとも卒業まではとも毎学へ来させてください。制なら学で相談できます。通学費についても何か方法を探します」
「はい」
返事は素直だったが、声には力がなかった。
そんなことだけではどうにもならないと言いたげだった。
しばらくして、澄は押し入れから古い帳面を取りした。
「先、これを」
計簿だった。
米。
噌。
賃。
灯油。
学の教材費。
薬代。
数字が余まで埋めるようにかれている。
ところどころに、
《阿久津材より千円》
《借り千円》
《薪代替》
という文字があった。
「昨、私がく寝込んだんです」
澄は言った。
「主の料だけでは、薬代もの活費もりなくなって」
勤め先の阿久津からを借りた。
最初は万円。
次は千円。
賃がりない。
子供の教材費がなった。
の薪を買えない。
しずつ借りた。
正の料から毎返しているが、りないには再び借りるため、終わりが見えなかった。
広告
おすすめ作品
-
完結第11話
火曜日だけ「受取済」が増える町
昭和22年、大阪。配給日の火曜日になると、まだ米を受け取っていない家の通帳に、なぜか《受取済》の判が押されていた。 ある日、十六歳の俊夫の家も米を受け取れず、家族は一週間分の食料を失う。印影は母の判子と酷似し、配給所では叔父が帳簿を管理していた。 真相を確かめるため、俊夫は夜の配給所へ忍び込む。そこで見つけた裏名簿には、死亡者や未帰還兵の名義で今も米が支給されていた。 そして、その中には二年前に亡くなった父の名前もあった。 《高橋勇作 一人分》 《受取人 芳江》 母はなぜ、死んだ父の名で米を受け取り続けていたのか。さらに調べるうち、善意から始まった秘密の配給と、それを利用して本当に米を奪っていた人物の存在が浮かび上がってくる。歴史|昭和|ミステリー1.6万字5 48 -
完結第12話
昭和28年、妻が消える炭鉱町
昭和28年、筑豊の炭鉱住宅では、給料日の翌朝になると妻たちが一人ずつ姿を消していた。兄嫁・節子までいなくなった澄子は、夫たちの前借金と失踪が記された帳簿を発見する。 女たちは借金返済のため、夫と炭鉱の了承のもと隣町の選炭場へ送られていた。しかし賃金から宿代や紹介料を引かれ続け、働いても借金は減らない。節子は不正を疑い、失踪後にわざと新たな借用証を作らせ、二つの帳簿を比較しようとしていた。 節子に頼まれた澄子が五年前の帳簿を調べると、事故で亡くなった父と母の署名、そして《完済せず》の文字を見つける。兄嫁たちだけでなく、自分の家族も昔から同じ仕組みに組み込まれていたのだった。時代|歴史|昭和1.8万字5 2263 -
完結第10話
昭和29年、教室から消えた子どもたち
昭和29年春、青葉中学校では結核検診の後、生徒が一人ずつ「転校した」と告げられ、姿を消していった。親友までいなくなった和夫は、その机から《要精密検査》の通知を発見する。 しかし消えた生徒たちは、本人や家族に結核の疑いがあるため、偏見から守ろうと学校が事情を伏せていただけだった。やがて和夫自身も再検査となり、病気以上に噂や差別が人を追い詰める現実を知る。 和夫の働きかけで学校は方針を改め、休んだ生徒の席を残すようになる。信一や洋子も教室へ戻り、病気の名前より先に、その人自身を見る大切さが静かに広がっていった。時代|歴史|昭和1.5万字5 336 -
完結第16話
給料袋を取り上げる姑と、娘の進学
昭和38年、娘・恵子を高校へ進ませるため食品工場で働き始めた典子は、初給料を姑タツに玄関で取り上げられる。家計簿を調べると浪費の跡はなく、給料は貯金されていた。しかし、その名目は《正人・高校進学資金》。家族の将来から、娘の進路だけが最初から除かれていた。 典子は自分名義の口座を作り、少額ずつ恵子の受験資金を蓄える。隠し貯金が発覚すると、タツは「家の金を隠した」と激怒。タツ自身も弟の進学のため学業を諦めた過去があり、「男に教育、女は家」という価値観を、自分の人生を正当化するため孫娘にも押しつけていた。 願書締切の日、逃げ続けていた夫・浩一が初めて「恵子に受けさせよう」と決断する。恵子は合格し、タツも完全には考えを改めないまま通学鞄代を差し出した。次の給料日、タツはもう封筒を奪わず、典子は自分で決めた生活費だけを渡す。家族は壊れたのではなく、ようやく「一人が全員の人生を決める家」ではなくなった。時代|歴史|昭和2.4万字5 510