みかん小説
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"一着の学生服を分けた双子" 11

「先、覚えてるかな」

昭夫が言う。

「何を」

「初めてで教入った」

「野に『がいる』って言われたやつ?」

「あいつ本気で言ってたよな」

が笑った。

その、玄関がいた。

正が帰ってきた。

「何笑ってる」

「父ちゃん」

昭夫が古い学を持ちげた。

「これ」

正のきが止まった。

「まだ持ってたのか」

「母ちゃんがね」

「捨てろって言っただろ」

正の声がしくなった。

澄が夫を見る。

「あなたは見たくないものね」

信夫が聞いた。

「何で?」

正は作業着を脱ぎながら、

しばらく答えなかった。

「俺が番馬鹿だった頃をいす」

「馬鹿って」

「借の額も分からないまま、返さなきゃいけないとってた」

正は畳へ座った。

「阿久津さんに世話になった。それは本当だ。だから向こうの言うことに違いはないとってた」

信夫は父の顔を見る。

。

父親をいとったことがある。

どうして阿久津へ逆らわない。

どうして自分を差しそうとする。

どうして借の額さえらない。

けれど、自分が働くようになってからし分かった。

雇い主との関係。

料をもらうこと。

族を養うこと。

仕事を失う怖さ。

ではおかしいと分かっていても、

活を握る相へ簡単に逆らえないことがある。

正が続けた。

「番怖かったのは貧乏じゃなかった」

が父を見る。

「、仕事来なくていいって言われることだった」

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阿久津へ見を言えば、

仕事を失うかもしれない。

仕事を失えば、

賃も払えない。

薬も買えない。

そう考えると、

しくらいおかしい条件でも、

受け入れるしかないとっていた。

「だから俺は、信夫がくって言った」

正は目を伏せた。

「ほっとしたんだ」

信夫の表が止まった。

父は自分でもその言葉が苦しいようだった。

「息子が働くって言ったのに、俺は止めるより先に、これで何とかなるとった」

澄が黙っている。

「それがずっと嫌だった」

正は続けた。

「だから借返す、おらのは円も受け取らなかった」

昭夫がさく笑った。

「だとってた」

「だよ」

父も笑った。

「でもあった」

信夫はしばらく考え、

「父ちゃん」

と呼んだ。

「何だ」

「俺、材にくって言ったこと悔してないよ」

正が顔をげる。

「結果にかなかったけど」

「……」

「を触るのが好きだって分かったの、あそこだから」

信夫は今も休に所へ通っている。会社では具物を扱い、いつか自分でさな具を作りたいとっていた。

昭夫も言った。

「俺も」

「おは何だ」

「兄ちゃんが仕事ってなかったら、俺、たぶんエンジン好きなの分からなかった」

「何でだよ」

「学休みの、駅の修理のよく通ってたから」

信夫が吹きした。

「そんな理由?」

「事だろ」

族に笑いが起きた。

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過が良かったわけではない。

制を着しか買えなかったことも、

子供が働いたことも、

父親が息子を借のにしようとしたことも、

美談にはできない。

それでも、

そので見つけたものまで、

全部悪かったことにする必もなかった。

夕。

正が古い学をもう度に取った。

第ボタンへ指を置く。

「これ」

「何」

「欠けてるだろ」

信夫と昭夫が見る。

「これ、誰がやったとう」

「らない」

「俺だ」

が驚く。

正は苦笑した。

「最初に古で買ってきた、ボタンが固くてな。付け直そうとして落として踏んだ」

「父ちゃんだったの?」

「母ちゃんに言ったらられるとって黙ってた」

澄が目を細めた。

「今初めて聞いたわ」

「だから効だろ」

「効じゃありません」

また笑い声がた。

袖の擦れ。

胸ポケットの補修。

第ボタンの傷。

浦がの秘密に気づくきっかけになった学には、

兄弟だけではなく、

族の活が残っていた。

昭夫が言った。

「じゃあ、これからも取っとく?」

信夫は母を見る。

澄は答えた。

「がいらないなら捨ててもいいわよ」

以とは違った。

もう、

捨てられないのではない。

捨てるかどうかを、

自分たちで選べる。

信夫はし考えて、

「もうし置いとこうか」

と言った。

昭夫も頷く。

「母ちゃんんだら俺がもらう」

「縁起でもないこと言わないの」

澄が笑いながら昭夫の肩を叩いた。

正は古い学を丁寧に畳み直した。

その夜。

着の学は、

もう度呂敷に包まれた。

けれどとは違う。

それは、

貧しさの証拠でも、

兄弟のどちらかが犠牲にならなければならなかった証拠でもなかった。

着しかなかった代から、

分の未来を取り戻すまで、

族が何度も違い、

何度も考え直した証だった。

翌朝。

信夫と昭夫はそれぞれの仕事へ戻るため、川駅へ向かった。

途まで同じを歩き、

改札ので別れる。

「次いつ帰る」

昭夫が聞く。

「正かな」

「母ちゃんの誕、来はおで買えよ」

「何で」

「今俺の方がくした」

「円だろ」

「円でもだ」

「昔から細かいな」

は笑った。

歳の頃なら、

円も半分にした。

学も。

定期券も。

菓子も。

学へけるまで。

けれど今は、

半分にしなくてもいい。

信夫には信夫の仕事があり、

昭夫には昭夫の仕事がある。

それぞれ自分で稼ぎ、

自分で帰る所を決め、

それでも必なだけ、

同じものを分けえる。

列がホームへ入ってきた。

信夫は反対側のホームへ向かう弟へをげた。

昭夫もをげる。

着の学しかなかった兄弟は、

もう同じを着る必がない。

同じを選ぶ必もない。

それでも、

は兄弟だった。

今度は、

何かを半分にしなければ続けられない関係ではなく、

それぞれ分のを持ったまま、

必なには隣へ戻れる兄弟として。

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