"30万円を止めた日" 第1話
「病院へったところで、治るわけじゃないだろ。しく寝てろよ」
麻酔から覚めてほど経った頃、私は震える指でスマートフォンの画面を見つめていた。夫の浩司から届いていたのは、術が無事に終わったことをぶ言葉でも、「今からく」という連絡でもない。私が術に送った《これから術に入ります》というメッセージへの、たったそれだけの返信だった。
私は歳。都内で企業向けシステムを発する会社を経営している。、会議に激しい腹痛で倒れ、検査の結果、すぐに腹術が必だと告げられた。術そのものは成功したが術の炎症がく、医師からは「回復にはかなりがかかる」と説されていた。
まだ自力で体を起こすことさえできない。腹部にはい鈍痛が残り、し咳をするだけで傷が引きつる。そんな状態でも、私は夫からの返信を何度も読み返した。
《病院へったところで、治るわけじゃない》
本当にそうっているのだろう。
面会しても病気は治らない。だからかない。
そこまで割り切れると、私は夫婦を続けていた。
「御崎さん、おめそうですか」
護師の佐々さんがストロー付きのコップを元へ運んでくれた。乾いた喉へしずつが落ちていく。私はんでから、さな声で聞いた。
広告
「族から……何か連絡ありましたか」
佐々さんは瞬だけ表を止めた。
「今のところ、病棟にはありません」
「そうですか」
「面会のご予定は聞いています?」
「いいえ」
私はそれ以聞かなかった。
義母の静にも術のことはらせてある。静は歳で、暮らしがだという理由から、から私たち夫婦のマンションでほとんど毎を過ごしていた。自分名義の賃貸宅は残しているはずなのに、実際には荷物の半分以をうちへ持ち込んでいた。
しかも私は、静へ毎万円を振り込んでいた。
きっかけは、浩司から「母さんのだけでは活が苦しい」と言われたことだった。賃、通院費、用品、交際費をわせれば万円以かかる。余裕を見て万円くらいあればだと言われ、私はく考えず承した。
会社が軌に乗り始めた期で、私の役員報酬も増えていた。
夫の母親も族だ。
困っているなら助ければいい。
当の私は、本気でそうっていた。
スマートフォンがさく震えた。
今度こそ浩司かもしれない。
そうって画面を見ると、表示されていたのはカード会社からの利用通だった。
《ご利用額 218,400円》
瞬、数字のが分からなかった。
私は入院している。
会社の経費カードでもない。
個カードの族カードだ。
広告
利用者は――浩司。
利用先には、県の温泉にある旅館名が表示されていた。
術始は午分。
カードが使われたのは午分。
ちょうど私が術にいただった。
さらに分。
《ご利用額 46,800円》
その次は、
《32,600円》
産物らしい名が並んでいる。
私は呼吸を止めるように画面を見た。
「どうされました?」
佐々さんが配そうに声をかける。
「……何でもありません」
そう答えた、また通が来た。
今度はレストラン。
万千円。
私は病院のい井を見げた。
面会に来るはない。
でも、旅にはける。
妻の術に温泉へき、万円を超える宿泊費を、妻名義のカードで払うはある。
胸の奥で何かが静かに切れた。
りではなかった。
むしろ逆だった。
、聞こえないふりをしていた音が急に止まり、のが気なほど静かになった。
私はカード会社のアプリをいた。
まだ利用止のボタンは押さなかった。
まず、全部見ることにした。
今で、彼らが私のをどこまで使うつもりなのか。
そして、私がらないに今までどれほど使っていたのか。
術初めて私が決めたことは、夫へ話することではなかった。
証拠を残すことだった。
入院目になっても、浩司は来なかった。
静も来ない。
話すらない。
代わりにカード利用の通だけが増えた。宿泊費、マッサージ、寿司、ブランドショップ。
広告
おすすめ作品
-
完結第15話
離婚した元夫は、私の再婚相手を知らない
離婚が成立した直後、警察官の元夫は私を見下して笑った。 「四十の女医なんか、誰も拾わない。せいぜい他の男を探せばいい」 私はその言葉どおり、裁判所の外で待っていた黒塗りの車へ乗り込んだ。後部座席にいたのは、かつて私が十四時間の手術で命を救った男性――そして元夫が勤める県警の頂点に立つ警察本部長だった。 その翌日、元夫の若い恋人から届いた一枚の写真に、不自然な公費精算の印が写り込んでいた。さらに若手刑事が現れ、二千万円を超える捜査費横領と、県警内部の隠蔽を告発する。 ところが、その夜。緊急手術を要する重傷者が病院へ運び込まれた。 血まみれでストレッチャーに横たわっていたのは、つい数時間前まで私を嘲笑していた、元夫の恋人だった。夫婦|真実|裡の顔|修羅場|不倫2.2万字5 57 -
完結第10話
援助し続けた兄が隠していた二年間
事故で右脚が不自由になった兄・健司を助けるため、直人は二年半にわたり生活費や治療費を送り続けてきた。その総額は、二百十八万円。妻の美咲も家計を切り詰め、兄が立ち直る日を信じていた。 ところがある日、美咲から一本の動画が届く。そこには、杖を持たず、小走りで横断歩道を渡り、パチンコ店の階段を上る健司の姿が映っていた。 直人が収入と支出の確認を求めると、健司が送ってきたのは一年前の給与明細。さらに、すぐ削除された通帳写真には《給与268,430円》の文字があった。 足の回復も、転職も、本当の給料も隠していた兄。では、装具代、リハビリ費、通院費として渡した二百十八万円は、いったい何に消えたのか。 幼い頃、自分を守ってくれた兄への恩と、夫婦の生活を壊し始めた嘘。そのすべてを確かめるため、直人は初めて兄に通帳を開かせる。兄弟姉妹|夫婦|金銭問題1.4万字5 13 -
完結第17話
娘の席を愛人に譲った夫の末路
夫・敬吾が愛人を優先し、6歳の娘・陽菜を飛行機の後方席へ一人で追いやろうとした瞬間、さゆりは離婚を決意する。実は彼女こそ、敬吾の出世を陰で支えてきた一流の法務コンサルタントだった。 さゆりは娘とプライベートジェットで北海道へ向かいながら、夫の不正経費と愛人関係を会社へ告発。敬吾は部長職を失い、北陸の倉庫へ左遷され、慰謝料と養育費の支払いも背負う。 その後、さゆりは自分の名で事務所を開き、娘との生活を再建する。一年後、母娘はあえて普通席の35列目に並んで座り、誰にも奪われない二人だけの旅へ出発した。夫婦|親子関係|不倫2.6万字5 1206 -
完結第16話
大晦日、義実家の60億円計画を知った
大晦日の夜、義実家の二階から母とビデオ通話をしていると、突然その表情が凍りついた。 「南、声を出さないで。お父さんが裏口まで迎えに行くから」 直後、私は義父の書斎から漏れる夫の声を聞いた。二人は私の実印を盗み、私が代表を務める資産管理会社の権限を書き換え、約六十億円の預金を破綻寸前のリゾート事業へ流そうとしていた。 私は結婚指輪も荷物も置いたまま裏口から脱出し、その夜のうちに全口座を凍結。二十三億円の普通預金と三十五億円の定期預金を、夫の手が届かない別銀行へ移す手続きを終えた。 これで資産は守れたはずだった。 ところが銀行担当者は、夫が持参すると告げていた書類の中に、父の署名入り《債務保証承諾書》があったと明かす。その印鑑証明書は偽物ではなく、三か月前に正規発行された本物だった。 夫はいつ、父の印鑑証明を手に入れたのか。そして十三年間の結婚生活の裏で、どこまで周到に黒川家を破滅させる準備を進めていたのか。嫁姑|夫婦|真相|修羅場2.4万字5 77 -
完結第11話
100人宴会を潰した義妹に、店主の私が請求書を出した日
土曜日の午後六時半。海鮮料理店「魚心」の大広間には、百人分の御膳が並んでいた。けれど、開宴時刻を三十分過ぎても客は一人も現れない。 幹事を務める義妹へ電話すると、返ってきたのは笑い声だった。 「魚臭いから、焼肉屋に変更したの。身内なんだから許してよ」 しかも義妹は三日前に別会場を予約しながら、前日まで「百人分を用意して」と念を押していた。損害額は五十三万六千円。店主の菜緒が契約書に基づいて請求すると、夫まで「妹から金を取る気か」と彼女を責め始める。 ところが翌日、同窓会の会計担当者が店を訪れ、菜緒の前に二枚の領収書を並べた。参加者から集めた会費と、焼肉店へ実際に支払われた金額が、二十五万円も食い違っていたのだ。 さらに見つかったのは、「魚心」の印が押された五十万円の助成金申請書。 菜緒が一度も見たことのないその書類は、なぜ義妹の個人口座を振込先にしていたのか。そして店の印鑑を持ち出せた人物は、いったい誰だったのか。兄弟姉妹|裡の顔|真相|修羅場1.6万字5 143 -
完結第16話
義弟嫁の「セレブ家族」に隠された十二年前の秘密
義弟嫁・真澄は、遥の手料理を「貧乏臭い」と罵り、熱々のおでんを床へ投げ捨てる。普段温厚な夫・幸介は激怒し、真澄の両親を呼び出した。 現れた両親の正体は、遥の叔父の会社から三千二百万円を横領し、海外逃亡していた指名手配犯だった。刑事に逮捕され、真澄の偽りのセレブ生活も暴かれる。 金目当ての結婚だったと知った義弟・高志は離婚を宣告。幸介も損害賠償と刑事告訴を突きつけ、真澄を絶縁する。すべてを失った彼女は、反省せず新たな金持ちを探して夜の街へ消えた。兄弟姉妹|夫婦|絶縁|修羅場2.4万字5 1290