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"三日待て――命を懸けて起爆盤を粉砕した現場主任、120人を救い500億の黄金を暴く" 第2話

切羽の鼓

朝礼から第区画へ続く本坑のには、入を遮断するための黄い保ロープが張られていた。

『入禁止・発破準備』の板がぶらがるその境界線ので、酒井はを止めた。すでに主任の権限を剥奪された以、この線を越えればそれだけで「全規則違反」として即解雇の実を与えてしまう。

坑の奥からは、ゴーという局所送のい唸りとともに、く湿った空気が絶えなく吐きされていた。朝礼でじた属臭が、狭い坑を通ることで濃度を増している。の匂い、古い湧の匂い、そして微かに腔の粘膜をチクチクと刺激する硫黄に似た異臭――。

太田がヘルメットのヘッドライトを点灯させ、保ロープを跨ごうとしていた。そのきはどこかぎこちなく、全靴の爪先が何度も面の砂利に引っかかっている。

「太田」酒井はロープ越しに声をかけた。 太田がち止まり、恐る恐る振り返る。

「急がなくていい。監督は分と言ったが、分で判断がつかないなら、それは『分では全を確認できないだ』ということだ。迷ったら戻ってこい」

太田は唇をく引き結び、返事をしないまま顎紐を指で締め直した。その背から、ずっしりとした音を響かせての柄な男が歩み寄ってきた。

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掘班・藤本栄作。歳。酒井が代の駆けしだった頃から発破の相棒を務めてきた、この鉱で最も現をる古参だ。

藤本は酒井の肩に分い掌を置いた。 「誠、話は聞いた。……で待ってろ。は俺がついていく」 「藤本さん……」 「太田をかせたら、の顔を気にして見落としをやりかねん。俺の目も入れてくる」

藤本はそれだけ言うと、太田の背をポンと叩き、は暗い坑のへと消えていった。ヘッドライトのが、湿った坑壁の岩肌をく舐めながらざかっていく。

残された酒井は、胸ポケットから冊の黒い帳を取りした。 縦センチ、横センチの防仕様。『現全作業ノート』。、現で起きたありとあらゆる事象をき留めてきた酒井の分だった。

酒井は鉛をらせた。 、午分。 第区画坑。気温度度、湿度パーセント。の。 坑排に微な酸性臭あり。送の量計は通常値を示すも、圧の肌覚がややい。 太田技士、藤本班が切羽事確認のため入坑。

事故が起きなかったほど、こうした々のメモは周囲から「無駄な神経質」として笑われる。だが、災害の調査において、最にの命を救うのは「あの、何かがおかしかった」

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という個の正確な記録だけなのだ。

分が経過した頃、坑の奥からつのが揺れながら戻ってきた。 坑で腕組みをして待ち構えていた監督が、待ちきれない様子でを乗りす。

「遅いぞ! たかが切羽を見るのに何分かけてるんだ!」

太田がヘッドライトを消し、額にびっしりと浮いた汗を甲で拭った。 「……装薬予定の切羽周辺、目った浮や崩落はありませんでした。穿孔されたつの穴にも、らかな変形は見られません」

「ほら見ろ!」 は勝ち誇ったように笑い声をげた。周囲にいた装薬作業員たちに向かってを叩く。 「異常なしだ! 酒井の寝言に付きってを無駄にしたな。さあ、確認表にサインしろ、太田。今すぐ爆薬庫からダイナマイトを搬するぞ!」

が差ししたバインダーを、太田は受け取った。だが、その隣につ藤本は言も発しなかった。作業の胸元をで汚した老班は、険しい目つきで坑の奥をじっと振り返っている。

酒井はその沈黙を見逃さなかった。 「藤本さん」 藤本は線を酒井へ戻した。 「……今は、何とも言えん」 藤本の声は、普段の豪な声とは打って変わって、底の底から響くようにかった。 「切羽の岩肌に異常はない。だがな、誠。だ。側の排溝へ落ちるが、先週より太くなっとる。

それに……落ちる所が、井の継ぎ目から横の壁へ移ってきてる」

「なんぞどこにでもるわ!」が苛たしげに面の砕を蹴ばした。 「鉱を掘っててがない所があるか! 昨のが今頃浸透してきただけに決まっとるだろうが!」

「昨はでした」酒井が静かに割って入った。「昨もはっていません。この、量はゼロです」

「貴様は黙っていろ!」が血った目で酒井を睨みつける。 「現の判断権を持たないがをすな! 太田、サインだ! サインをしろ!」

太田のが、再びペンのみに耐えかねて刻みに震えした。確認表の受託欄にペン先が落ちる。あと筋、インクをらせれば、責任は太田の双肩にのしかかる。太田は歯をいしばり、脂汗を垂らしながら、突如としてペンを握り直した。

「……監督」 「何だ、まだ何かあるのか!」

「発破のに……携帯型のガス検器で、もう度だけ測らせてください」

坑の空気が張り詰めた。作業員たちの線が、太田の青ざめた横顔に集する。 「今朝は全体点検の定測定しかやってません。第区画の奥、切羽のすぐ目ので、燃性ガスと硫化素をもう度測りたいんです。それで数値がなければ……俺も腹を括ってサインします」

「貴様まで酒井の真似事をする気か!」が鳴り声をげたが、太田は今度は目を逸らさなかった。

族を養うための職を失う恐怖と、仲を巻き込んで爆するかもしれない現の恐怖。つの恐怖が激突した末に、太田の職としての本能がわずかに勝ったのだ。

は腕計を何度も叩き、苛ちを隠そうともせずに唾を吐いた。 「……チッ。分だ。昼飯までに終わらせろ。数値がゼロだったら、問答無用で装填作業に入ってもらうからな!」

が背を向け、事務所へ股で歩きっていった。 酒井は帳をき、しいに刻を刻んだ。 午分。太田技士、発破ガス再測定を請。監督承認。

猶予が、もう度だけ現のによって引き延ばされた。だが、このに械が示す酷な数値が、事態を決定な破局へと導くことを、まだ誰も確信してはいなかった。

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