"三日待て――命を懸けて起爆盤を粉砕した現場主任、120人を救い500億の黄金を暴く" 第9話
蠢く断層
第区画の坑に張られた黄い保ロープのに、分い板を組んだ頑丈な製バリケードが打ち付けられたのは、発破止命令がされたの夕刻だった。央にはに赤文字で『入禁止・保推部厳命』とかれた警告板が掲げられ、坑内へ続く送管の唸りだけが、え切った気のへ虚しく吐きされていた。
翌朝、。酒井誠は宿舎の洗面所でで顔を洗うと、ズキズキと痛む肩を角巾で吊り直し、いつもので擦り切れた作業に袖を通した。発破保主任の印が入ったヘルメットは机のに置いたままだ。現での指揮権は奪われたままであったが、京本社・保推部の野から「全記録の補佐」として坑での観測継続をで認められていた。
午過ぎ、酒井が事務所の広へ向かうと、すでに坑の排溝のに数のが集まっていた。 野部、藤本班、そして太田である。野はしゃがみ込み、靴の底を濡らしながら、コンクリートの溝を流れる排をじっと見つめていた。
「酒井君、来たか」野が顔をげずに言った。「これを見なさい」
酒井は溝を覗き込んだ。昨まで澄んでいたが、赤茶の濁へと変貌していた。面には細かなの砂粒が浮遊し、底に溜まったを激しく巻きげながら流れている。
広告
その流量は、らかに昨の同刻の倍くに膨れがっていた。
「今朝からは滴もっていません」酒井は帳をきながら呟いた。 「ああ、候の響じゃない」藤本が渋面を作って吐き捨てた。 「奥の岩肌を指で触ってきたんだがな、昨までに滴り落ちてたが、横の断層面から噴きすように変わっとる。井の岩盤の隙が圧で押し広げられとる証拠だ」
「採取して比と濁度を記録しなさい」野が随の保係に指示をばした。
そのだった。 元から、胃の腑を直接掴まれるような、く鈍い鳴りが伝わってきた。 『ズゥゥゥン……』
震のような急激な揺れではない。巨なコンクリート構造物が、自に耐えかねて軋み鳴るような、周波の振だった。坑にっていた太田が、恐怖に顔を張らせて反射にずさりした。
「……また鳴った」太田が震える声で言った。 「昨からこれで回目です。最初は気のせいかとったんですが、隔がくなってます」
「監督はどこだ」野がちがった。 「事務所です。昨夜からずっと、本社の務課や役員に話をかけまくって『発破止の当性』を訴えとるらしいですわ」藤本が忌々しそうに首を振った。
野は眉根を寄せ、事務所の製図台へ向かった。酒井たちもそのに続く。
広告
広げられたのは、黒鉱の全域を網羅した『採掘連断面図』だった。数本の坑が蟻の巣のように体交差する複雑な図面をに、野は赤鉛で第区画の切羽を囲んだ。
「酒井君、君の現覚を聞かせてくれ。第区画の奥で何が起きている」
酒井は迷わず、第区画の背に広がる空帯を指差した。 「このの質図には記載されていませんが、第区画の切羽のすぐ裏側には、広な未調査の断層破砕帯――ガスと圧を封じ込めた然の空洞がしている能性が極めていです。そこに溜まったが、先週からの穿孔作業によって刺激され、岩盤の割れ目を伝って第区画側へ漏れしている。……問題は、この第区画の岩盤が、主坑を挟んだ隣の『第採掘区画』および『第採掘区画』と井構造を共している点です」
製図に戦慄がった。 「共しているということは……」太田が息を呑む。
「第区画が単独で崩れるだけでは済まないということです」酒井は帳の数値を叩いた。 「もし第区画の井が規模に落ちれば、ドミノ倒しのように隣接する採掘区画の支保を圧壊させます。坑全体を猛烈な落盤と突が襲い、全域に濃度の燃性ガスが充満する。……今すぐ、第区画だけでなく、坑内全域のち入り制限を検討すべきです」
「何を馬鹿なことを言っているんだ!」 扉を乱暴にけて鳴り込んできたのはだった。目のには黒い隈ができ、髪を振り乱している。 「第区画を止めただけでも数百万円の赤字がてるんだぞ! 隣の第も第も止めたら、坑内にいる百の作業員を全員遊ばせることになる! 鉱全体が完全にぬんだぞ!」
「監督」野は氷のような差しで睨みつけた。 「の話はだと言ったはずだ。百の作業員が坑のにいる状態で、もしこの連崩壊が起きたらどうなる」
「起きるわけがないだろう! ただの鳴りだ、鉱ではよくあることだ!」が喚き散らす。 「簡易振計を持ってこい!」野はを鳴りばすようにした。「坑と主斜坑の箇所に設置し、微振を監しろ。……藤本班、各班の点呼表を理し、非常における坑内百名の退避ルートを再策定しろ。いざというに迷うなど秒もないぞ」
「解!」藤本が直して応えた。 は悔しげに唇を噛み、酒井を殺さんばかりの形相で睨みつけながらちった。
午、坑に設置された振計の針が、規則正しい隔でねがり始めた。 が、い呼吸をするように脈している。 酒井は帳にき留めた。 、午。位昇、微震頻発。
タイムリミットが迫っている。
広告
おすすめ作品
-
完結第15話
妊娠中の娘が逃げ帰った夜、大富豪の母が動いた
妊娠8か月の娘・はるかが、顔に傷を負い、母エリコの家へ逃げ帰ってきた。病院では新しい肋骨の骨折に加え、以前の骨折痕も見つかる。夫・匠による暴力は、一度きりではなかった。 匠は巨大企業グループの創業家の一員。だがエリコはその地位にひるまず、娘の安全を確保し、診断書を残す。同時に信頼する会計士へ調査を頼むと、匠一家が関わる財団に巨額の不正な資金移動の疑いが浮かび上がった。 報道を受けても疑惑を否定し続けた匠は、緊急会見の最中、はるかへの傷害容疑で逮捕される。さらにグループの資金問題にも捜査が及び、権力を盾にしてきた一族は追い詰められていく。 母の行動が事態を動かす一方、すべての始まりにあったのは、はるかが自分とお腹の子を守るため、あの家から逃げ出した決断だった。因果応報|人生逆転|嫁姑|絶縁|親子関係|修羅場2.3万字5 1288 -
完結第16話
「親呼んでみろ」新人の父を見た部長
新人歓迎会の席で、営業部長の佐藤は新入社員・健一を役立たずと罵り、頭からビールを浴びせた。さらに町工場で働く父親まで侮辱し、「悔しかったら親をここへ呼んでみろ」と嘲笑する。 健一は騒がず、父へ短い連絡を入れた。やがて現れたのは、佐藤の会社を買収した神崎ホールディングスの会長・神崎英治。健一は会長の息子であり、腐敗した子会社を調査するため、身分を伏せて現場へ入っていたのだ。 健一が密かに集めていたのは、佐藤が妻のダミー会社へ総額1億8,400万円を不正送金していた証拠だった。部下の由美へ罪を着せようとした偽造書類も暴かれ、後ろ盾だった役員も失脚。佐藤夫妻はその場で破滅へ追い込まれる。 横暴な部長がすべてを失う一方、長年苦しめられてきた由美は統括部長へ抜擢され、職場は再生していく。肩書や家柄ではなく、弱い立場の人へどう接するかが人間の本当の価値を決める――静かな証拠集めから始まる痛快な職場逆転物語。職場逆転|怒り|修羅場2.4万字5 899 -
完結第15話
介護で表彰される嫁――私は認知症に仕立てられた
手首を骨折し、息子夫婦の家へ身を寄せた68歳の文江。嫁・沙耶香は、物忘れが進んだ姑を献身的に介護しているように見せ、日常を動画で配信していた。 だが文江は認知症ではなかった。砂糖と塩を入れ替え、スマートフォンを隠し、同じ質問を繰り返すよう指示する――すべては再生数と広告収入を得るための演出だった。しかも息子も、その事実を知りながら黙認していた。 沙耶香が「献身的な嫁」として表彰される当日、巨大スクリーンに流れたのは感動映像ではなく、撮影前に姑へ演技を命じる未編集動画だった。そして文江は車椅子を使わず、自分の足で壇上へ向かう。 家族に病気も財産も人生も利用された女性が、自らの声と尊厳、そして「撮られない権利」を取り戻していく逆転と再生の物語。因果応報|嫁姑|認知症2.2万字5 860 -
完結第14話
8か月前に姉を亡くした俺――スーパーで鬼課長が双子の名前を呼んだ
姉夫婦を事故で亡くし、6歳の双子・真奈と杏奈の未成年後見人になった31歳の三井哲也。営業職を離れ、毎日18時に学童へ迎えに行く生活を始めて8か月、スーパーで“鬼課長”川上亜子と遭遇する。亜子は初対面のはずの双子を名前で呼び、亡き姉・裕子の写真と料理ノートを持っていた。一方、職場では哲也の顧客対応が38秒だけ切り取られ、処分の危機に追い込まれる。しかし原音声は12分46秒。亜子はなぜ双子を知り、哲也を厳しく見守ってきたのか。悲しみを抱えた4人が、新しい家族の形を見つけていく物語。職場逆転2.0万字5 280 -
完結第14話
今日でクビだ」黒蛇の夢を信じて280万円の起爆装置を壊した俺。3日後、127人が退避した直後――山が崩れた
黒竹鉱山で24年間働く発破主任・酒井誠一は、黒蛇から「3日だけ待ってくれ」と告げられる夢を見る。第4区画の異臭、増えた湧水、変化した岩の反響にも危険を感じ、発破の延期を求めるが、高木監督は彼をその場で解任。さらに、同じ地点で繰り返されたガス警報まで日報から消されていた。工程を3日短縮すれば、高木には80万円の報奨金が入る。午後2時、未署名の確認表を無視して起爆準備が始まる中、酒井は工具箱からハンマーを取り出した。仕事も生活も失う覚悟で手に入れた3日後、127人の運命と山に眠る秘密が動き始める。因果応報2.0万字5 11 -
完結第15話
無能教師と呼ばれた僕が、AIで教室を取り戻すまで
生徒から「ダメ教師」と嘲笑され、同僚からも無能扱いされる高校教師・小野寺啓介。そんな彼に唯一手を差し伸べたのは、学年主任の朝倉美鈴だった。 ところが修学旅行の前日、朝倉が引き受けたはずの「しおり」が未完成だと発覚する。彼女は約束そのものを否定し、全責任を小野寺へ押しつけた。 旅行中止を告げられた教室では、生徒たちの怒号が飛び交う。 「お前のせいで、俺たちの青春が台無しだ!」 絶望する小野寺の前に現れたのは、かつて学校中から恐れられた元問題児・神崎優太。そして彼が持ち込んだのは、最新のAIと、朝倉の嘘を覆す“ある証拠”だった。 残された時間はわずか二時間。無能の烙印を押された教師は、AIを武器に四十ページのしおりを完成させ、生徒たちの修学旅行と失った教室を取り戻せるのか。職場逆転|真実|裡の顔2.3万字5 183 -
完結第14話
無能社員を演じていた俺、上司を救って正体がバレる
社内で無能を装う工藤健太は、裏路地で女上司・白鳥凛香を囲んだ三人の男を十秒で倒してしまう。彼の正体は、海外作戦で救出対象を失った罪悪感から除隊し、力を封印していた元・自衛隊特殊作戦群の隊員だった。 男たちは凛香の父に命を救われた暴力団組長・黒崎の配下で、彼女を守ろうとしていた。凛香は専務・榊原が進める会社売却計画の邪魔となり、暴力団との関係を捏造され、役員会で解任されようとしていたのだ。すべてを知った健太は過去の逃避を認め、今度こそ自分の力で彼女を守ると決意する。 健太、凛香、黒崎は一晩で榊原の資金洗浄、横領、背任、脱税、インサイダー取引の証拠を集める。しかし役員会は榊原派が多数を占め、凛香の解任が先に可決されれば反論の機会を失う。健太はあえて敵が勝利を確信する瞬間まで待ち、役員会で一気に形勢を覆す最後の罠を仕掛けた。職場逆転|真相|第二の人生2.1万字5 229 -
完結第15話
炎天下に追い出された新人と、5年ぶりに戻った男
正木電気の新人・潮見知夏は、猛暑の中で草むしりを強要され、総務部長・黒岩から執拗な嫌がらせを受けていた。五年ぶりに本社へ戻った滝川武は彼女を救い、腐敗した職場の実態を静かに探り始める。 知夏は書類整理中、解約済みの植栽会社へ毎月五十万円が送金され続けている事実を発見。その直後、地下倉庫へ追放され、ついには炎天下で倒れてしまう。滝川と堀田課長は、黒岩と八谷常務による総額二億三千万円の横領証拠を揃え、臨時役員会を招集する。 そこで滝川が専務執行役員であることが明かされ、帰国した正木社長も黒岩を追及する。職場逆転|因果応報|人生逆転|修羅場2.3万字5 688 -
完結第12話
夜勤明け、鍵を替えられた私の静かな反撃
30時間の夜勤を終えて帰宅した看護師・南を待っていたのは、義母によって交換された玄関の鍵だった。「反省したら土下座しに来なさい」という連絡に、南は「そうですか。では、さようなら」とだけ返信する。 だが、義母と無職の夫は知らなかった。その高級マンションは、南の勤務先が契約する借り上げ社宅であり、家賃も生活費もすべて南の収入で支えられていたのだ。 南は騒がず、締め出しを自白したSNS投稿を保存。社宅の退去手続き、電気・水道・ガスの解約、弁護士への離婚依頼を淡々と進める。月曜日の午後5時、部屋の明かりが消え、管理会社と警察が玄関に現れた。 自分を家政婦のように扱った家族との関係を断ち切り、誇りある仕事と人生を取り戻す女性の、静かで痛快な逆転物語。因果応報|人生逆転|嫁姑|親子関係1.9万字5 5299