"昭和20年、疎開列車から消えた弟の記録" 第6話
正の名を持つ男
配票の番号を追うと、正名義の糧が昭から潟で受け取られていた。夜学の名簿にも同じの川正がおり、駅構内の荷物運搬と記されていた。 千代は弟をれな子どものまま記憶していたが、資料のの正は自分で誰かを守ろうとしていた。らなかったが、しずつのとして形を持ち始めた。
千代は弟がきていたと期待したが、卒業写真の青には眉を横切る傷があった。弟の顔にその傷はなく、指の古傷も写真では確認できなかった。 千代はすぐに結論をさず、その言葉と付を帳へき留めた。戦の混乱を理由にすれば何もかも曖昧にできるからこそ、確かな事実だけを残す必があった。
名簿の男は吉岡という名で阪に暮らしていた。彼は面会に応じ、最初から自分は正ではないと認め、古びた配票と赤い印の残る帳を差しした。 そのにいた者の記憶はしずつ違っていたが、違いを消してつの話へわせることはしなかった。い違いそのものが、当誰かが裏を求めた痕跡になることもある。
は製糸にいた戸籍のない孤児で、正とともに逃げただった。正は自分には京の姉がいるから何とかなると言い、名と配票をへ渡した。
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彼女の胸にはりと期待が同に湧いた。それでも探している相のを、自分が望む結末へ押し込めてはいけないと何度も言い聞かせた。
数、のもとへ《京には戻れなくなった。正の名を使ってきて》という無署名の葉が届いた。消印は群馬県のさな駅だった。 証拠は劇な告ではなく、古いの端と消印、配番号の連なりとして現れた。千代はつずつ照し、推測と確認できた事実を別の頁へ記した。
さらに昭、の炭鉱夫たちを写した写真が届いていた。裏には《名は返さなくていい。姉ちゃんには、まだ会えない》とかれていた。 正をる々も、自分の沈黙が責められることを恐れていた。千代は責任を軽くする約束をせず、見たことだけを話してほしいと頼んだ。
は正の名を使い始めたのことを、付まで覚えていた。配所の係員に父母の名を尋ねられ、正から教えられた通り答えると、初めて米の入った袋を受け取れたからだ。嬉しさと罪悪でべられず、駅裏で晩袋を抱えていたという。名が糧と学へつながる代に、正はの権利そのものを渡したことになる。
は何度も名を返そうとしたが、戸籍の続を変えれば勤め先と族へ過がられることを恐れた。
千代は責める代わりに、正がどんな声で名を渡したか尋ねた。は《姉ちゃんがいるから丈夫》と笑ったと答え、その言葉が千代の胸へ最もく刺さった。
の妻は、夫を何と呼べばよいのか分からないと涙を流した。千代は、これまで族が呼んできた名を今すぐ捨てる必はないと答えた。正の真実を戻すために、のを偽物にすることは弟も望まないとった。
正はなくとも歳まできていた。それでも姉へ帰らなかった理由は、から逃げた罪悪だけでは説できなかった。
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