"昭和天皇がマッカーサーに告げた「責任」" 第8話
「佐、見ましたか……? 誰もを投げない。誰もみ言を言わない。……彼らは、あの男のために泣いているんだ」
しかし、川崎での奇跡な成功の報が世界を駆け巡る、京・ヶの連国軍検察部には、ある本の極秘話が入っていた。
『皇の巡幸を即刻止させろ。……次なる目・広島において、過激派による皇暗殺、ならびに決定な戦犯証拠の制提を同決する』
歴史の歯が、最の流血と破滅へ向けて、音をてて噛みおうとしていた。
昭()、午。 あの――真珠湾攻撃からちょうど目のこの、昭皇のお召し列は、原子爆弾によって世界で初めて壊滅打撃を受けた、広島へと滑り込んだ。
駅広を埋め尽くしたのは、実に万を超える群衆だった。 ケロイドに焼かれた顔面を包帯で覆った者、片腕を失った元兵士、位牌を胸に抱いた遺族たち。 の鉛のの、放射線の名残が漂う焦に、異様な気と怨嗟が渦巻いていた。
広の角、爆くに建てられた仮設の演壇を、バワーズ佐は階建ての焼け残ったビルのから双鏡で凝していた。 彼の隣には、GHQ参謀第2部(G2)の極秘任務を帯びた対諜報員名が、M1カービン銃をにして息を潜めている。
「佐、穏分子の位置を特定しました」
広告
通信兵が打ちした。 「演壇の正面、翼側の瓦礫の。共産党系過激派のシンパとみられる組です。懐に旧本軍の式拳銃、ならびに製の榴弾を隠し持っています」
バワーズの額に脂汗が滲んだ。 皇を乗せたオープンカーが、すでに広の央へと侵入してきている。 警察の警備線など、押し寄せる群衆の波によって完全に呑み込まれ、事実崩壊していた。皇の周囲には、わずか数名の宮内府随員がいるだけ。完全に無防備だった。
「突入して制圧しますか!」 員が銃の全装置を解除した。 だが、バワーズはをげて制止した。 「待て。ここで米兵が発砲すれば、万の群衆がパニックを起こして暴になる。……皇の向を注しろ」
オープンカーが演壇の横で止した。 折れをにした皇が、ゆっくりとへをろす。 その瞬、群衆の最列から、刃物のような鋭い罵声がんだ。
「ヒロヒト! よくもこの広島に顔をせたな! が子を、夫を返せ!」
群衆がどよめいた。 瓦礫のから、黒い套を着た男がを乗りし、懐の拳銃のグリップに指をかけた。暗殺の瞬まで、あと秒。
だが――皇はその罵声の主から目を逸らさなかった。 警護官が慌てて制止しようとするのをで押し留めると、自ら演壇をり、その男たちのへと歩み寄ったのだ。
広告
皇はち止まり、く、くをげた。 秒、秒。 国の元首が、自らの命を狙う群衆の目ので、直角に腰を折り、微だにせずをげ続けた。
「……すまなかった。本当に、苦しいいをさせてしまった」
皇が顔をげた、その鏡の奥から、粒の涙が零れ落ちていた。 「くの同胞が犠牲となり、を失い、傷ついた。私の徳の致すところである。……だが、広島の皆さんが、この廃墟のからちがろうとしている姿を見て、私は胸が締め付けられるいだ。どうか、希望を捨てずに、世界平の礎となってほしい」
その瞬、拳銃を抜こうとしていた男の指から、力が抜けた。 男は拳銃を取り落とし、瓦礫ののに崩れ落ちて号泣した。
「万歳……皇陛、万歳ッ!」 の叫びが、瞬くに万の唱へと変わった。 鳴りのような「万歳」の叫び声が、原爆ドームの空を震わせる。 位牌を抱いた母親たちが、のにひざまずき、をわせて祈りを捧げた。
ビルので双鏡をろしたバワーズは、震えるで無線のマイクを握りしめた。 「……京の元帥執務へ報告。広島における暴・暗殺の危は、完全に消滅した。繰り返す。危は、皇自の涙によって完全に無力化された」
広島での劇な巡幸の成功から半の昭()。
京・ヶの旧陸軍士官学の講堂――極国際軍事裁判の法廷は、最終弁論を控えて極限の緊張に包まれていた。
広告
おすすめ作品
-
完結第13話
集団就職で東京へ出た姉は、名前を奪われた
「明日、全部話す。冬子たちは絶対にこの工場へ来ちゃ駄目」 昭和45年12月、東京の部品工場で働く姉・春江は、そう電話をかけてきた。 翌朝、姉は女子寮から姿を消した。 作業服も保険証も残したまま、編みかけの赤いマフラーには針が刺さっていた。 会社は、姉が貯蓄会の四十二万円を持ち出し、映写技師の男と逃げたと発表した。 父は姉から届いた手紙をすべて焼き、警察にも届けなかった。 冬子が灰の中から拾えたのは、最後の一行だけ。 《会社は、私たちの給料だけでなく、名前まで預かっている》 それから二十六年後、社会保険事務所から一通の照会状が届く。 亡くなった別の女性の年金記録に、姉と同じ指紋が使われていたのだ。 さらに死亡診断書には、その女性にはなかった身体的特徴が記されていた。 《右手人差し指、第一関節より欠損》 その傷を持っていたのは、失踪前の事故で指先を失った春江だった。時代|歴史|昭和2.3万字5 0 -
完結第14話
旅館に残された姉
「修平の合格通知は、お父さんに見せてはいけない」 昭和43年、母は長男の大学合格を三日間隠し、私に命じた。 「あなたが弟を連れて、入学手続きを済ませてきて」 父に逆らってでも弟の未来を守ろうとする母を、私は初めて頼もしいと思った。 けれど、その夜。 母が父へ放った一言で、私の喜びは消えた。 「芳子が残れば、旅館は何とかなります」 私は十五歳から五年間、厨房、掃除、配膳、帳場まで無給で働いてきた。 それでも両親にとっては、すべてただの「家の手伝い」。 弟には外へ出る道を作り、私にはその穴を埋めさせるつもりだった。 私は自分が担ってきた仕事と、代わりの人を雇った場合の人件費を一枚の紙へ書き出した。 「家族だからって、私の仕事がただになるの?」 父はその紙を丸めて捨てた。 一か月後、私は旅館を出た。そして数年後、経営に行き詰まった父が私を迎えに来た時、同じ紙をもう一度差し出した。時代|歴史|昭和2.1万字5 0 -
完結第13話
昭和39年、空の給料袋を盗んだ女
「テレビの裏を――」 警察車両に乗せられる直前、母は窓越しにそう口を動かした。 昭和39年、東京五輪の開会式で社宅食堂が沸く中、停電が発生。 そのわずか十二分間に、工員二十四人分の給料袋が消えた。 予備鍵を持っていた母・静江は逮捕され、途中から犯行を認めた。 しかし、総額七十四万円は一円も見つからなかった。 娘の弘美は「泥棒の娘」と呼ばれ、母と離されたまま三十一年を生きる。 そして平成7年、取り壊される社宅の白黒テレビの裏から、油紙の包みが落ちた。 中にあったのは、空の給料袋二十四枚と、同じ人数分の給与明細。 そのうち七人は、事件の二年前に工場事故で亡くなっていた。 なぜ会社は、亡くなった工員へ給料を払い続けていたのか。 明細を見せられた父は青ざめ、弘美にこう告げた。 「これ以上調べたら、お前まで戸籍を失う」時代|歴史|昭和2.3万字5 0 -
完結第11話
名門野球部で、僕らは声を失った
「3年は神、2年は平民、1年は虫けらだ」 昭和60年、甲子園を夢見て名門野球部へ入った15歳の実は、入寮初日にそう告げられた。 笑顔も私語も禁止。 練習中に水を飲むことさえ許されない。 喉の渇きに耐えきれず、実は便所に置かれた清掃用の泥水をすすった。 それでも辞めなかった。 ここで耐え抜けば、甲子園へ行けると信じていたからだ。 ところがある深夜、食堂から一本のマヨネーズが見つかり、1年生全員が呼び出された。 犯人として名乗り出た同期の胸元から、一枚の手紙が落ちる。 そこには、寮内で繰り返されてきた暴力と、密かに処理された負傷者たちの名前が記されていた。 少年はその夜、「反省室」へ連れていかれた。 そして翌朝、学校は彼の退学を発表したが――部屋に残された履物だけは、誰の手にも触れられていなかった。時代|歴史|昭和1.7万字5 0