"名門野球部で、僕らは声を失った" 第5話
列の先にいた柄な野・森が、涙を流しながら震える声で叫んだ。 「僕じゃありません……! でも、僕、見ました……! 昨、夜遅くにそれを堂で使ってたのは……」 森の指先が、震えながら部の角を指した。 そこには、普段から無で、誰よりも真面目に雑用をこなしていた同期の特待・坂井がいた。
しかし、坂井の顔は蒼ではなかった。 その瞳には、これまでの従のではなく、底れぬ絶望と、何かに憑りつかれたような異様なが宿っていた。 「……俺ですよ」 坂井がく呟いた。 「俺がいましたよ。何が悪いんですか。腹が減ってにそうだったから、寮のゴミ箱から拾ったマヨネーズを舐めたんだよ……!」
「テメエ……級に向かってそのの利き方はなんだ!」 赤が製バットを振りげた、その刹だった。 坂井が突然、狂ったように笑いし、自らのジャージの胸元から、枚の折りたたまれた片を取り落とした。 それは、寮の公衆話から部へ送られたはずのない、ある「告発の」のきだった。そこには、この学園の暗部を根底から覆す、戦慄の計画が記されていたのだ。
に落ちた便箋を、赤が素く拾いげた。 その片に殴りきされていた文字を追った瞬、級である赤の顔から、目に見えて血の気が引いていった。
『阪府教育委員会、ならびに本等学野球連盟 御 ——GL学園野球部寮内における常暴力、ならびに隠蔽作の実態について』
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そこには、、所、関与した級と指導陣の実名、そしてこれまでに骨折や網膜剥などの傷を負いながら「部の病院」ではなく「敷内のGL病院」へ秘密裏に運ばれ、カルテを改ざんされて処理された元部員たちのリストが、几帳面な文字でびっしりとき連ねられていた。
「テメエ……坂井……これ、どこからに入れた……」 赤の声が震えていた。普段の尊な態度は消えり、そこにあるのは組織の暗部を暴かれたチンピラの揺そのものだった。 「どこだっていいだろ」 坂井はちがり、血った目で級たちを睨みつけた。 「俺の兄貴は、3にこの野球部にいた。甲子園にて、ドラフト候補とまで言われてた。……だけど、あんたたちのリンチで肘の靭帯を切られて、野球を奪われたんだよ! 事故だって嘘をつかれて、学を追いされたんだ!」
娯楽に、息の詰まるような沈黙が落ちた。 野寺は息を呑んだ。坂井の兄——確かに、3のGL学園に剛腕としてられながら、突如として登録抹消になり、退していった投がいた。その真相が、この狭い部でのに晒されていた。
「おい、こいつを拘束しろ!」 奥の部からびしてきた3の川が叫んだ。 数の級が坂井にびかかり、その体を組み伏せた。だが、坂井は暴れることもなく、に顔を押し付けられながら、野寺たち同期に向かって叫んだ。
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「実! 倉田! 騙されるな! ここは野球をやるところじゃない! を壊すだ! おたちもいつか、兄貴みたいに壊されるぞ!」
坂井はその夜のうちに、宿所の奥にある「反省」と呼ばれる窓のない部へと連されていった。 翌朝、練習の集所に坂井の姿はなかった。顧問のから告げられたのは、「庭の事によるの退学」という、あまりにも使い古された定型句だけだった。彼の私物は、1が朝練をしているに、親族のによってすべて運びされていたという。
この事件を境に、寮内の空気はさらに異様な狂気へと突きんでいった。 「1のに、まだ裏切り者がいるかもしれん」 級たちの疑暗鬼は頂点に達し、監と暴力は増しに苛烈さを極めた。の検閲が始まり、実からの仕送りはすべて級によって封された。公衆話のコードは夜になると引き抜かれ、1は完全に部との連絡を遮断された。
そして、季節は巡り、昭61(1986)の初。野寺たちが2に級した直のことだった。 学がつがっても、伝統という名の呪縛は解けなかった。むしろ、「自分たちが耐えてきた苦痛を、の世代にあわせなければ割にわない」という復讐の連鎖が、部員たちの精神を内側から腐させていた。
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