"名門野球部で、僕らは声を失った" 第8話
たいが瞬くにシャツを濡らし、肌にへばりついた。 非常階段を爪先ちでり、雑林のぬかるみへびりたそのだった。
「誰だ! そこにいるのは!」 背の宿直の扉がき、懐灯のが夜のを裂いた。見回りの級の声だった。 「おい! 誰か逃げたぞ! を固めろ!」
野寺は振り返らずに駆けした。 ぬかるんだを、靴が脱げそうになりながら必に蹴りむ。の枝が頬を打ち、がのにび込んできたが、痛みをじる余裕などなかった。捕まれば、あの池の底へ沈んだ輩と同じように、としての尊厳を完全に殺される。 (れ! れ!)
林を抜け、鉄線の線沿いの側へた。くで寮の非常ベルが鳴り響いているのが聞こえた。 駅へけば見回りのOBや級が待ち構えている能性がある。野寺は線沿いをひたすらへ、隣の駅を目指してり続けた。吐きされる息はく、喉からは鉄のがした。だが、元を打つ粒のたさのに、13ヶぶりに胸いっぱいに吸い込む「自由な空気」の触があった。
2、まみれになりながら辿り着いた無駅の片隅で、野寺は震える指で公衆話の受話器をげた。 10円玉を投入し、自宅の話番号を回す。 数回の呼びし音の、母親の眠そうな、しかし聞き慣れた声が響いた。
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『……はい、野寺ですが』 「お母さん……俺や。実や」 受話器の向こうで息を呑む音がした。 「……実? どうしたん、こんなに。何かあったんか?」 「俺……もう、あそこには戻られへん。ごめん、お母さん。俺、野球辞めるわ」
涙がにまみれた頬を伝い落ち、受託の受話を濡らした。母親は瞬の沈黙の、震える声で言った。 『……ええから。すぐ帰っておいで。今どこにおるん? お父さんとで迎えにくから』 母の声を聞いた瞬、野寺の膝から力が抜け、たい公衆話のボックスのに崩れ落ちた。
翌朝、阪内の実に戻った野寺を待っていたのは、堵と、それに続く酷な現実だった。 を洗い流し、清潔なパジャマを着て居の畳のに座る野寺のに、両親は無言で座っていた。父親の顔には、息子の憔悴しきった姿に対する衝撃と、名を脱したことへの世体への戸惑いが入り混じっていた。
「実……何があったんや。あのGL学園やぞ。甲子園に番い学やないか。あと1半したら、プロかてけたはずや」 父親の絞りすような問いに、野寺は拳を握りしめ、夜までの獄をすべて吐きした。 笑顔を禁じられた常、便所のをすするほどの渇き、夜に及ぶ奴隷労働、リンチによって選命を絶たれた坂井の兄、そして——濁った池に沈んで度と戻らなかった輩の姿。
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話を聞き終えた母親は、元を押さえて泣き崩れた。 「そんな……そんなところで、あんた、1以も……」 父親もまた、青ざめた顔で煙にをつけた。息子を名へ送りし、「これで将来は泰だ」と胸を張っていた自らの無を責めるように、煙を井へ吐きした。
だが、学園側の追は容赦なく実の玄関を叩いた。 脱からわずか6、午2過ぎのことだった。玄関のチャイムが激しく鳴らされ、っていたのは、級な背広を着た野球部と、眉にい皺を刻んだ顧問のだった。
「お父さん、お母さん。実君を連れ戻しに来ました」 居にがり込んできた部は、威圧な笑みを浮かべながら茶封筒を卓に置いた。 「若気の至りで突発に寮をびす徒は、毎数名おります。ですが、実君は選抜された特待です。ここで辞めてしまっては、ご本の将来にな傷がつきますよ」
「傷、ですか」 父親がく返した。 「うちの息子は、あそこは野球をやるところではないと言っております。がくなった事故についても聞きました。命の危険がある所に、親として息子を戻すわけにはいきません」
部の表から笑みが消え、徹な教育者の皮が剥がれ落ちた。 「お父さん、言葉を慎んでいただきたい。あれは警察も認めた通り、幸な転落事故です。
それと、実君がここで退学するとなれば、々も野連やへの対応を考えねばなりません。
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