"旅館に残された姉" 第3話
「親の恩を忘れおって! 誰ので飯をってきたとってやがる! この宿はおのものだ、おが継ぐんだよ!」
逆した源蔵が、に転がっていたかき棒を握り直した。 芳子が鳴をげて修平のに覆いかぶさろうとしたその、平伏していた千代がちがり、源蔵の腰にしがみついた。
「お父さん、やめてください! 修平を殺す気ですか!」 「せ、千代! この馬鹿息子を叩き直してやる!」 「修平はかせます!」
千代の甲い叫びが、古い梁を震わせた。 数、度として夫の言葉に背いたことのなかった千代の絶叫に、源蔵の腕が止まった。 「……何だと?」
千代は乱れた髪を振り乱しながら、涙に濡れた顔で夫を見げた。 「修平は体がいんです。この宿のい荷物も運べない、帳に縛り付けたら病気になってんでしまいます。……かせてやってください。学費は私のへそくりからします。宿のには切をつけません!」
源蔵はせせら笑った。 「へそくりだと? 馬鹿を言うな。息子がへて、誰がこの宿を回すんだ。俺も千代も、もうを過ぎた。飯炊きも掃除も、誰がやるってんだ!」
その問いに対し、千代のから滑りた言葉を、芳子は涯忘れることができなかった。
「……芳子が残れば、旅館は何とかできます」
が止まった。 激しい戸の軋む音だけが、静まり返った帳に響く。
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千代は娘のほうを度も見ようとせず、必の形相で源蔵に縋り付いたまま続けた。
「芳子はもう歳です。料理の付けも覚えたし、布団げも掃除も、女より際がいい。帳の計算だって、私の代わりに全部やってくれてます。……芳子をここに残せば、修平くらいへしても、藤乃は何の自由もなく回っていきます!」
「……ちょっと、待って」
芳子の唇から、乾いた掠れ声が漏れた。 畳のに倒れ込んだ修平を抱き起こそうとしていた両が、空で凍りついている。
「お母さん……今、何て言ったの?」
千代は目を逸らした。畳の目に線を落とし、唇を固く結んでいる。 「なんで……そこで私がてくるの?」
芳子の胸の奥で、何かがパキパキと音をてて凍りついていく。 芳子には、誰にも言えない、胸のに切に温め続けていたがあった。
の、藤乃に週ほど投宿した、阪・の級料亭の老板・徳田。 毎朝、誰よりもく起きて汁を引き、丁寧に魚の骨を抜く芳子の仕事ぶりを見て、徳田は発つ際にこう言ってくれたのだ。
『娘さん、あんたのはええ料理のや。もし本気で料理を勉したいなら、うちの厨においで。働きからやが、儂が責任を持ってに育ててやる』
その言葉が、暗を照らす唯の灯だった。
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芳子はその話を、父には恐ろしくて言えなかったが、母の千代には打ちけていたのだ。 『いつか修平が宿を継ぐに、私も自分の腕を磨くために阪へたい』と、涙ながらに語りったはずだった。
「お母さん! 私が阪へきたいって話した、お母さん何て言った!? 『女の子なんだから、の厳しい厨なんて無理だ、ここでのを覚えればいい』って私を押し留めたじゃない! 修平にはへるを用して、私には……、この宿の飯炊き女をやれって言うの!?」
千代は顔を覆い、蚊の鳴くような声で呟いた。 「……芳子、あんたは丈夫だから。あんたなら、ここに残っても……」
「丈夫だからしろって言うの!?」
その、腕組みをした源蔵が、でたく笑いばした。 「女が阪だの料理修だの、片腹痛いわ! おはいい歳して何をみたいなことを抜かしてやがる。女将の補佐をして、いい婿養子を取るか、どこか所の農に嫁にくまで、ここでの伝いをしてりゃいいんだよ!」
「伝い……?」 芳子の界が、真っ赤に染まった。
「伝いって何ですか!? 私はのから毎朝に起きて、夜まで働いてる! 板の将にはに万円の料がてる! 女のおヨネさんにも万千円てる! ……なのに私は、この、度だって料袋をもらったことがない! 母さんから貰う、たまの百円や千円の遣いだけで、枚自由に買えなかった! これが伝いなんですか!?」
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