"旅館に残された姉" 第4話
源蔵の顔がりで歪み、のまま畳へ踏みがってきた。 そして、芳子の胸倉を掴みげんばかりに鳴りつけた。
「親に向かって何たる言いだ! 族がの仕事をするのに、の話を持ちす奴があるか! 飯をわせてもらい、根のある部で寝起きさせてもらっている分際で、料だと!? 族の助けいをで換算するような浅ましい娘に育てた覚えはないぞ!!」
族。 助けい。 その美しくあたりの良い言葉が、自分から自由と尊厳を奪い、無償の労働力として骨の髄まで搾り取るための、最も悪辣な呪縛だったのだとった瞬だった。
芳子は掴みかかってくる父のを、たい力で振り払った。 その瞳から、涙は完全に乾き果てていた。
「……分かりました。族だから、私の労働はタダなんですね」
芳子は倒れている修平のを引いてたせると、自へと向かった。 背から源蔵の「どこへく、話は終わっとらんぞ!」という罵声がんだが、度と振り返ることはなかった。
その夜、芳子は暗い灯ので、冊の学ノートを広げた。 そして、定規と鉛を使い、鬼気迫る表で「ある計算」をき殴り始めた。 それは、藤乃という古い宿の根底を揺るがす、酷な宣戦布告の数字だった。
翌朝。 普段なら芳子が竈にを入れ、羽釜の湯気がち込めているはずの午。
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厨は、んだようにえ切っていた。
「芳子! 何をしてるんだ、宿泊客の飯はどうした!」 掛けを締めた源蔵が、鳴り込みながら帳から勝へと入ってきた。 だが、そこにいた芳子は、いつもの綿の割烹着を着ていなかった。 よそきの紺のウール絣の着物に、髪をきちんと結いげ、背筋を伸ばしての机のに座っていた。
机のには、枚のきな模造が広げられていた。 そこには、墨と朱墨で、狂気すらじさせる然とした文字と数字が敷き詰められていた。
「何だ、これは」 源蔵が眉をひそめる。
「請求です」 芳子の澄んだ、氷のようにたい声が響いた。
「……何だと?」
「私が歳から歳までの、この藤乃で無で提供してきた労働の対価。そして、から私がここをった、この宿を維持するために必となる件費の試算表です」
芳子は模造を指先で叩いた。
『、朝・夕のごしらえおよび調理補助:。隣の割烹の相より、百円×百×=百万千円』 『、全の布団げ、清掃、洗濯:女分の労働に相当。万千円×か×=万円』 『、配膳、接客、ならびに帳記帳代:番補佐に相当。万千円×か×=万円』
番に、太い朱でかれた総計。
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『百万千円』。
当の卒初任が約万円。 百万円という額は、藤乃の純利益の半分を優に超えるだった。
「ふ、ふざけるなッ!」 源蔵の顔が蓮の炎のように赤黒く染まり、模造を鷲掴みにしてビリビリに引き裂いた。 「親を請る気か! 誰のおかげで今まできくなれたとってるんだ! 族をで計るような恩らずは、この敷居を跨がせるわけにはいかん!」
千代も青ざめた顔で割って入った。 「芳子、お願いだから謝りなさい! こんな、お父さんに見せるもんじゃないよ!」
芳子は、元に散らばった模造の破片を見つめ、静かにちがった。 そして、に置いてあったさな革のトランクの取っを握った。
「お父さん、破っても現実は消えませんよ」 芳子の瞳には、迷いも絶望もなかった。ただ、研ぎ澄まされた刃のような決だけがあった。
「私がやってきた仕事は、からを雇わなければ回らない仕事です。族だからという理由で、私のをタダで買い叩くのは、今で終わりにしてください」
「勝にしろ!」 源蔵が唾をばして鳴った。 「てきたければてけ! どうせ世の厳しさもらん娘が、週もすりゃ飢えにしそうになって、泣きながら座して戻ってくるに決まってるわ!」
「度と戻りません」
芳子はトランクをに、朝のたいが差し込む玄関の引き戸をけた。 見送りにち尽くす千代と、部の奥で震える修平。
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