みかん小説
本棚

"「飯抜き」と言われたので、夫との生活を全部やめました" 第9話

今夜の献は、ワインを効かせたビーフシチューだ。

をかけてじっくりと煮込み、自分がべるためだけに、丁寧に鍋をかき混ぜる。

自分が稼いだおで買い、自分がをかけて調理した、正真正銘の「自分のご飯」。

誰の許もらない。 誰の嫌を伺う必もない。 理尽な命令に怯えて、空腹に耐える夜は度とやってこない。

「いただきます」

スプーンですくったシチューの温かな旨が、いっぱいに広がった。

窓のでは、のかりが屑のように煌めき始めていた。

誰かに依し、誰かを搾取することでしかきられない愚かな者たちは、自らが招いた沼ので永にもがき続けるがいい。

綾野はグラスに注いだ赤ワインを掲げ、夜空のに向かって静かに微笑んだ。

自分のの舵を自分ので握り直した女性の未来には、どこまでも自由で、り輝く平線が広がっていた。

のまりとともに、郊の解体事現には容赦のない寒が吹き荒れるようになっていた。

午。砕が敷き詰められた資材置きで、裕介はにまみれた全靴を引きずりながら、キロのコンクリートガラを詰めた嚢袋を両で持ちげた。腰に焼き付くような激痛がる。

「おい、元がふらついてんぞ! さっさとダンプに積め! もたもたしてたら午の搬がにわねえだろうが!」

広告

現監督の太い声が、から容赦なく浴びせられた。代の若い作業員たちですら軽々と袋を担いでいく横で、い裕介の体はとっくに限界を迎えていた。かつてメーカーで「営業企画のホープ」を気取り、空調の効いた会議でパソコンのキーボードを叩いていた頃の清潔な面は、もはや爪の先ほども残っていない。

袋の指先には穴がき、皮膚はアカギレで割れて血が滲んでいる。だが、どんなに体が鳴をげようとも、現を休むことなど許されなかった。

夕方、当の渡し封筒を握りしめて実へ戻ると、待っているのは温かい呂でも族の労いでもない。

玄関をけた瞬、まで響く義父・修造の声が裕介を迎える。

「遅い! 当はいくらだ、さっさとせ!」

修造は裕介の汚れたから封筒をひったくるように奪い取ると、唾をつけた指で千円札を数え始めた。競売始決定の通が届いて以来、実の空気は完全に破綻していた。庭菜園の具は差し押さえの対象だったが、所の、修造は昼から歩も表にられなくなっていた。隣のたちは、毎のようにポストへ投函される裁判所の封筒や、取りて業者の鳴り声をすべてっていたからだ。

「……たったこれだけか! 今の利息にも届かんぞ! 飯をう資格もないわ!」

広告

義母の登紀子が居から顔をし、え切った麦茶と、の残りの古びた沢庵が切れ載った皿をのがり框へ突きした。

「裕介、夜の事の警備も入れないの? 直のところも賃滞納で追いされて、来週からここに転がり込んでくるっていうのよ。族の活費、あんたが稼がなくてどうするの!」

「母さん……俺、もう体がかないんだよ……しでいいから休ませてくれ……」

裕介ががり框に額を擦り付けるように懇願しても、登紀子の瞳には氷のような淡さしかなかった。

「休む? 冗談じゃないわ! あんたが綾野さんに逃げられたせいで、このがどうなったか分かってるの!? あんたが会社のおを使い込んで、変な女に貢いで借を作らなければ、こんな目に遭わずに済んだのよ! 全部あんたのせいじゃない!」

「そうだ、この来損ないめが! 嫁躾けられず、親のまで差し押さえさせおって! 働け、ぬまで働いてを入れろ!」

かつて、綾野を精神に追い詰め、無の奴隷として縛り付けるために結託していた肉親たちが、今度はそのを裕介に向けて剥きしにしていた。

卓に並ぶのは、米と噌汁すら満にない粗末な残飯。かつて「夫の言うことを聞かないなら飯抜きだ」と笑っていた男は今、実の親から「を入れないならだけんでいろ」

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: