"万引きを疑われた私に、警備員が「六万円で見逃す」と言ったので父に電話した" 第5話
万円の台帳
父は話になかった。呼びしが切れると、すぐにメッセージが届いた。
〈社、館で警察汰が起きたと聞きました。私が収拾します。現のには何も話させないでください〉
何も話させないでください。その文面は、事をらない幹部のものではなかった。父は目を閉じ、く息を吐いた。
「黒瀬を会議へ呼べ。理由は言うな」
浦総支配が頷き、部をた。警察官は佐々と塚から別々に事を聞き、任同を求めた。は当初拒んだが、録音を再すると態度を変えた。万円を求する声、過にも同じ方法を使ったと受け取れる言葉、私の肩を押したの音。逃げは急速に塞がっていった。
それでも佐々は最まで、「黒瀬という名はらない」と言い張った。
「では、このKは誰ですか」
「記号です。俺たちが勝につけただけです」
「映像処理を頼める相がいるんですね」
「らない!」
叫んだ拍子に、彼のポケットからスマートフォンがへ落ちた。画面には通が表示されている。
〈黒瀬部代理:端末の履歴を消せ。帳も処分しろ〉
全員がそれを見た。
佐々は拾おうとしたが、警察官に制止された。その瞬、彼の抵抗は終わった。肩が落ち、唇だけがく。
「俺が考えたんじゃない。最初にやれと言ったのは……」
廊の向こうで騒ぐ声が聞こえた。
広告
黒瀬が呼びしを待たず、こちらへ来たのだ。浦が止めるもなく、扉がく。
「社、これはいったい――」
黒瀬は机の帳と佐々の端末を見て、言葉を失った。ほんの瞬だったが、その表には驚きより計算が浮かんでいた。どこまで証拠がたのか。誰が何を話したのか。今なら誰へ責任を押しつけられるか。く経営の枢にいた男のは、窮でも素くいていた。
「黒瀬さん。過かの防犯映像へ、あなたのアカウントから削除操作がわれました」
私が告げると、彼は初めて私のに気づいたような顔をした。
「紗季さん? なぜここに」
「今、標に選ばれたからです」
「標とは聞きが悪い。現が誤認したのでしょう。私は連絡を受けて、個報保護のためな映像を理しようとしただけです」
「私が拘束されて分も経たないうちに?」
「偶然です」
黒瀬は父へ向き直った。
「社、まず警察にはお引き取り願うべきです。これは会社内部で解決できます。公になれば、モール全体の信用が落ちる。何千もの従業員とテナントが巻き込まれます」
彼は会社を守る言葉で、自分を守ろうとしていた。父は机のの台帳から目をげた。
「被害を受けたは、会社ののだから切り捨てていいのか」
「そうは申しません。ただ、経営には順序というものが――」
広告
「順序を決めるため、第者調査を入れる。おには今から全システムへのアクセス止と、自宅待を命じる」
黒瀬の顔がくなった。
「尽くした私より、帰国したばかりのお嬢さんを信じるんですか」
「娘だから信じるのではない。証拠があるからだ」
父の答えは静だった。黒瀬は何か言い返そうとしたが、弁護士と警察官の線を受けて黙った。
そのの夕方、佐々と塚は警察署へ同した。黒瀬の端末と業務用パソコンも、本の同と会社の正式な続きを経て保全された。私はようやく解放されたが、帰宅する気にはなれなかった。
父と社へ戻る途、売りは何事もなかったように営業していた。族連れがアイスクリームをべ、学たちが笑い、案内係が丁寧にをげる。そのるい常の裏で、助けを求めた女性たちの声が消されていた。
会議では緊急対策会議が始まった。浦総支配は謝罪会見の準備、法務は警察対応、広報は評被害の試算をにした。誰もがきな事を消そうとしているのに、被害者を捜そうと言う者はいなかった。
「先に、台帳にいるへ連絡してください」
私が言うと、広報部が渋い顔をした。
「こちらから接触すれば、会社が犯罪を認めたと受け取られます」
「実際に館内で起きたことです」
「まだ部従業員の為です。組織関与は確定していません」
議論が止まったところへ、久保田がノートパソコンを抱えて入ってきた。彼女は私のに枚の覧表を置いた。
「削除された映像のと、相談窓に入った苦を照しました。なくとも件が致します。ただし、もっと刻な問題があります」
覧の端には、黒瀬とは別の管理者アカウントが記録されていた。映像削除の承認、苦記録の封印、警備会社への特別報奨。そのすべてに同じ子承認印がついている。
承認者は、父の名だった。
父は青ざめた顔で画面を見つめた。
「私は、こんな決裁をした覚えがない」
久保田は声を落とした。
「社印の子証が、正に複製されています。内部の誰かが、社の権限を使って何もこの仕組みを守っていた能性があります」
父の話が再び鳴った。今度は非通だった。ると、変声されたい声が会議に響いた。
『これ以調べれば、社自が主犯だった証拠を世に流す。娘を守りたいなら、今夜に調査を止めろ』
通話はそこで切れた。
万円の恐は終わっていなかった。私たちが見つけたのは、巨な仕組みの入にすぎなかった。
広告
おすすめ作品
-
完結第16話
凍える孫と消えた家
年末、麻子が息子夫婦の家を訪ねると、十四歳の孫・音実が靴も履かず、凍える庭に置き去りにされていた。父親たちは義姉を連れて海外旅行へ出たという。ところが空港から逃げ帰った義姉・杏奈の告白により、二人の少女が受けていた仕打ちと、音実に掛けられた一億五千万円の生命保険が明らかになる。 これは単なる育児放棄ではなかった。実の娘の命まで金に換えようとした息子に対し、土地も家も握る麻子は静かに反撃を開始する。三週間後、旅行から戻った夫婦を待っていたのは、豪邸が跡形もなく消えた更地と、彼らの人生を根底から崩すさらに大きな罠だった――。祖父母と孫|絶縁|親子関係|修羅場2.5万字5 51 -
完結第13話
30万円を止めた日
手術当日、夫から届いたのは見舞いの言葉ではなかった。 「病院へ行ったところで治るわけじゃないだろ」 その直後、私名義の家族カードで高級温泉旅館の二十一万円が決済された。夫は義母との旅行を楽しみ、SNSには《嫁が入院して自由になった》と投稿していた。 六十日間の入院中、夫も義母も一度も見舞いには来なかった。ところが夫は私の会社へ押しかけ、私名義のマンションを勝手に売却査定へ出していた。 さらに調べると、五年間送り続けた義母への月三十万円は、生活費ではなく投資用マンションの購入資金に流れていた。総額は二千百万円。 退院した朝、ようやく夫から電話が来た。 「母さんに毎月渡してた三十万円、なんで止めたんだ?」 私はその一言を聞き、夫婦として残っていた最後の線を静かに切ることにした。嫁姑|夫婦|介護|修羅場1.9万字5 676 -
完結第15話
離婚した元夫は、私の再婚相手を知らない
離婚が成立した直後、警察官の元夫は私を見下して笑った。 「四十の女医なんか、誰も拾わない。せいぜい他の男を探せばいい」 私はその言葉どおり、裁判所の外で待っていた黒塗りの車へ乗り込んだ。後部座席にいたのは、かつて私が十四時間の手術で命を救った男性――そして元夫が勤める県警の頂点に立つ警察本部長だった。 その翌日、元夫の若い恋人から届いた一枚の写真に、不自然な公費精算の印が写り込んでいた。さらに若手刑事が現れ、二千万円を超える捜査費横領と、県警内部の隠蔽を告発する。 ところが、その夜。緊急手術を要する重傷者が病院へ運び込まれた。 血まみれでストレッチャーに横たわっていたのは、つい数時間前まで私を嘲笑していた、元夫の恋人だった。夫婦|真実|裡の顔|修羅場|不倫2.2万字5 331 -
完結第16話
貧乏嫁と見下されていた私、義姉の結婚式で本当の名前を呼ばれました
義姉の結婚式に出席した千鶴は、義母と義妹から「貧乏な内職嫁は一族の恥」と親族写真から外され、式場を追い出されそうになる。六年間、服の縫製で小遣いを稼ぐだけの女だと見下されてきた千鶴は、反論せず静かに控室を去ろうとした。 だが、純白のドレスをまとった花嫁が彼女を呼び止め、その正体を明かした瞬間、義家族の顔色が一変する。千鶴は世界的ブランドの創業者であり、経営難に陥った義父の縫製工場が命運を託す、一億円超の契約を審査する人物だった。初めて彼女の名前を呼んだ義父に、千鶴が下した判断とは――。兄弟姉妹|嫁姑|修羅場2.4万字5 62 -
完結第11話
両親を亡くした私が旅行から帰ると、実家が消えていた
両親を相次いで亡くした美穂に、夫・雅也が突然、一週間の温泉旅行を贈った。初めて見せた思いやりを信じて家を空けた美穂だったが、帰宅すると、思い出の詰まった実家は跡形もなく解体されていた。 雅也は土地を売り、その金で義実家を二世帯住宅にするつもりだった。しかし美穂が遺産を相続したというのは、三人の勝手な思い込みだった。名義変更前の家を無断で壊し、所有者の承諾書まで偽造した疑いが浮上する中、美穂は両親の思い出を奪った夫と義両親への反撃を始める。因果応報|嫁姑|夫婦|金銭問題1.7万字5 57 -
完結第12話
浄水器の異物から、夫の秘密が暴かれた
八か月前から原因不明の頭痛と吐き気に悩まされている美央。病院を巡っても異常は見つからず、夫・公平と義母・悦子は、仕事を辞めて療養するよう優しく勧めていた。父から相続した自宅と賃貸ビルの管理も夫に任せればいい――二人の気遣いを信じ、美央は自分の心が弱いせいだと思い始めていた。 ところがある日、交換したばかりの浄水器が異常を知らせる。点検に訪れた作業員が内部を開けると、正規のカートリッジは別物とすり替えられ、飲料用ではない物質が詰め込まれていた。さらに玄関の開錠記録と防犯映像から、美央の出張中に工具袋を持った義母が二時間近く家へ入っていたことが判明する。 安全な場所へ避難した途端、八か月続いた症状は急速に消えていった。分析で検出されたのは、長期間摂取すれば臓器に障害を残す危険のある特殊な工業薬品。その入手記録には、妻を心配し続けていたはずの公平の署名が残されていた。 多額の借金を抱えた公平は、美央の判断力を奪い、父の遺したビルを処分するための委任状まで準備していた。しかし押収された端末を調べると、計画は財産だけでは終わっていなかった。生命保険の受取人変更まで相談していた相手は、美央が体調不良について最も信頼し、何度も助けを求めていた人物だった。夫婦|真実|真相|修羅場1.8万字5 126 -
完結第16話
大晦日、義実家の60億円計画を知った
大晦日の夜、義実家の二階から母とビデオ通話をしていると、突然その表情が凍りついた。 「南、声を出さないで。お父さんが裏口まで迎えに行くから」 直後、私は義父の書斎から漏れる夫の声を聞いた。二人は私の実印を盗み、私が代表を務める資産管理会社の権限を書き換え、約六十億円の預金を破綻寸前のリゾート事業へ流そうとしていた。 私は結婚指輪も荷物も置いたまま裏口から脱出し、その夜のうちに全口座を凍結。二十三億円の普通預金と三十五億円の定期預金を、夫の手が届かない別銀行へ移す手続きを終えた。 これで資産は守れたはずだった。 ところが銀行担当者は、夫が持参すると告げていた書類の中に、父の署名入り《債務保証承諾書》があったと明かす。その印鑑証明書は偽物ではなく、三か月前に正規発行された本物だった。 夫はいつ、父の印鑑証明を手に入れたのか。そして十三年間の結婚生活の裏で、どこまで周到に黒川家を破滅させる準備を進めていたのか。嫁姑|夫婦|真相|修羅場2.4万字5 392 -
完結第11話
100人宴会を潰した義妹に、店主の私が請求書を出した日
土曜日の午後六時半。海鮮料理店「魚心」の大広間には、百人分の御膳が並んでいた。けれど、開宴時刻を三十分過ぎても客は一人も現れない。 幹事を務める義妹へ電話すると、返ってきたのは笑い声だった。 「魚臭いから、焼肉屋に変更したの。身内なんだから許してよ」 しかも義妹は三日前に別会場を予約しながら、前日まで「百人分を用意して」と念を押していた。損害額は五十三万六千円。店主の菜緒が契約書に基づいて請求すると、夫まで「妹から金を取る気か」と彼女を責め始める。 ところが翌日、同窓会の会計担当者が店を訪れ、菜緒の前に二枚の領収書を並べた。参加者から集めた会費と、焼肉店へ実際に支払われた金額が、二十五万円も食い違っていたのだ。 さらに見つかったのは、「魚心」の印が押された五十万円の助成金申請書。 菜緒が一度も見たことのないその書類は、なぜ義妹の個人口座を振込先にしていたのか。そして店の印鑑を持ち出せた人物は、いったい誰だったのか。兄弟姉妹|裡の顔|真相|修羅場1.6万字5 866