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"万引きを疑われた私に、警備員が「六万円で見逃す」と言ったので父に電話した" 第7話

泣き寝入りした

松本奈緒と会ったのは、会社とも警察署ともれた弁護士事務所だった。彼女は歳で、保育園に通う娘をで育てている。仕事帰りなのか、紺の事務のにいカーディガンを羽織っていた。

「信じてもらえるとはっていませんでした」

彼女は鞄から透な袋を取りした。には、私が署名を迫られたものと同じ確認の控え、ATMの利用細、そして型のICレコーダーが入っていた。

「録音したんですか」

「途からです。婚調のために持ち歩いていたので。でも、相談窓のへ聞かせたら、無断録音は犯罪になる、逆に訴えられると言われて……怖くなって黙りました」

もちろん、会話の当事者が自分を守るために録音したからといって、それだけで犯罪になるわけではない。だが、法律に詳しくない被害者を黙らせるには分な脅しだった。

録音には塚の声と佐々の声があった。は私のと同じで、商品は万千円の腕計、求額は万円。さらに半には、相談窓を訪ねた翌、自宅くで声をかけてきた男の声も残っていた。

『あなたが騒げば、認めて署名した記録を警察と勤務先へす。娘さんまで万引き犯の子と呼ばれたくないでしょう』

松本は震えるで止ボタンを押した。

「顔を見ました。

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会社案内の役員写真にも載っていました。相原さんです」

夜、私に「正義だけでるな」と言った財務担当役員の相原俊。黒瀬よりさらにで、父の子社印へアクセスできる数ない物だった。

私たちはすぐ警察と調査委員会へ録音を渡した。ただし、相原には気づかせない。証拠がの証言だけなら、また被害者の記憶違いとして切り捨てられる。の流れとシステムの操作、両方をつなぐ必があった。

部窓には、その週で件の相談が入った。うち件は台帳の記録と致した。標はで買い物をしている若い女性、国留学、聴覚障害のある客など、反論しづらく、騒ぎを恐れそうなばかりだった。

求額は万から万円。すぎれば払えず警察を呼ばれる。すぎれば分配する利益が減る。万円は、ATMでそので用でき、被害者が族へ隠したまま諦める能性のい額として決められていた。

の話を聞くうち、私は自分が閉じ込められた分ほどのを何度もいした。私は自分の元も、映像のも、父が来ることもっていた。それでも怖かった。何も持たない彼女たちが、どれほど孤独だったかを像すると、胸の奥が焼けるようだった。

「私たちが正式に謝罪し、全額を返します」

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私が言うと、松本は首を振った。

「おだけではないんです。あのから、をるたびに鞄のを何度も確認するようになりました。娘と買い物にっても、誰かがろにいると息ができなくなる。返してほしいのは、普通に買い物できた自分です」

返すことのできないものを、会社は奪っていた。

方で、相原は取締役会で攻勢にた。父の子印が使われた以、代表取締役として説責任があると主張し、父の辞任と私の就任撤回を求めた。彼は匿名告発との関係を否定しながら、告発文と同じ言葉で私たちを責めた。

「娘さんの暴を止められなかった責任はい。被害を申した方々へ補償するにしても、事実認定は慎であるべきです」

「慎という言葉を、放置の言い換えに使わないでください」

私はそう答えたが、取締役の半数は相原側に傾いていた。会社を守るには、く父を切りして事件を現の犯罪として終わらせるべきだという空気が広がっていた。

その夜、久保田が暗号化された相談記録の部を復旧した。ファイルのには、相原が決裁した被害者対応だけでなく、警備会社への送覧があった。

恐で集めた現は、佐々と塚が分けていたわけではない。彼らは部を〈損失防止協力〉という名目で、警備会社の関連団体へ入していた。

その実績をもとに「万引き被害を幅に削減した」と報告し、翌度の警備契約を割増額している。

増額分は千百万円。その契約を承認したのは相原で、仲介したコンサルティング会社には、彼の学代の友が代表を務めていた。

さらに久保田は、送覧の末尾を指した。

「この座から、毎同じに現が引きされています。引きしている物の防犯映像がに残っていました」

映っていたのは黒瀬ではない。役員専用フロアで毎顔をわせ、父の印章と予定を管理する物――社秘の宮原だった。

覧にあったのうち、直接会えたのは松本を含めてだった。

歳の専学は、卒業制作の材料を買いに来たに化粧品を入れられた。就職先へられると脅され、学費用の座から万円をろした。その、接客の仕事を諦めている。

本語学へ通っていたベトナム女性は、留資格に響すると言われた。彼女は本語でかれた確認を分に読めないまま署名し、母国の族へ送るはずだった万円を渡していた。帰国だったためオンラインで話を聞いたが、画面越しでも、警備員という言葉をにするたび肩がこわばった。

代の女性は、認症の初期症状があるのではないかと自分を疑い、族にも言えずにいた。

鞄から商品がたのだから、自分が覚えていないだけで盗んだのかもしれない。そうい詰めて医療関を受診し、異常がないと診断されてもできなかったという。

犯たちはだけでなく、そのが自分自を信じる力まで奪っていた。

聞き取りには必ず理職と弁護士を同席させ、途でやめたくなればいつでもやめられると説した。それでも会社側のである私がいることで話しづらくなるもいる。目の面談でそれに気づいた私は、被害者が望まない限り席をすことにした。

「自分で全部聞くことが誠実だとっていたんです」

私が神崎という理士へ漏らすと、彼女は穏やかに首を振った。

「誠実さは、相に自分の反省を見届けてもらうことではありません。被害を受けたが、自分で距を決められるようにすることです」

私はそれまで、真実をらかにすれば正しい側へてるとっていた。しかし会社の代表者である限り、私もまた被害をんだ組織の側にいる。善があっても、相にとって全なとは限らない。その事実は、佐々たちの嘘より受け入れにくかった。

同じ頃、相原は役員をずつ訪ねていた。父が娘へ会社を譲るため事件を利用している、部調査が引けば融資が止まる、く父を退かせればテナントはする。

彼の主張は、犯罪を否定するのではなく、恐怖へ現実なを示す形を取っていた。

こちらには正しさがある。向こうには、今すぐ損失を止められるという甘い約束がある。組織の危では、者の方がをかす。

浦総支配は、相原側へ回った取締役を責めなかった。

「彼らは悪だからいたんじゃない。舗が撤退し、借入の返済が滞る未来が怖いんです。こちらが事実だけ並べても、の料を守る筋を示せなければ負けます」

私は財務資料を読み直し、正契約を直ちに止めても警備の空をまない暫定案を作った。複数の警備会社から期応援を受け、費用は凍結した役員賞与と契約保証で賄う。被害者補償と舗支援の資を別座に確保し、相原が「調査を続ければ倒産する」と脅せないようにした。

数字を悪用した相へ、だけで勝つことはできない。数字の向こうにいるを忘れず、それでも数字から逃げない。その作業を終えた朝、私は初めて、父の会社へ入るということのさをった。

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