みかん小説
本棚

"凍える孫と消えた家" 第3話

ホスピスでの過酷な闘病活。痛みに喘ぐ美さんのを握りしめ、泣きじゃくる当歳だった音実の横に、父親である貴照の姿は度としてなかった。

『母さん、病院の消毒液の匂いを嗅ぐとが痛くなるんだよ。見いなんてっても病気が治るわけじゃないだろ』

そう言ってヘラヘラと笑っていた息子の横面を、病だった夫の源郎が力任せに張り倒したのことを、私は昨のことのように覚えている。 その半、美さんは歳の若さで息を引き取った。 遺ので形ばかりの涙を拭っていた貴照が、葬儀の初も過ぎぬうちに連れてきたのが、あの商売の女・よしえだった。

「夫がくなる直、遺言をき換えた理由が……今になって骨に染みるわ」

私は居の仏壇に掲げられた、き夫の写真を見つめた。 夫は自らの期を悟った、全財産の相続を息子である貴照ではなく、妻である私に指定したのだ。 『あいつにとを渡せば、堀内のは代でい潰される。麻子、おが見極めてくれ。あいつがのを取り戻すか、それとも完全に腐り果てるかを』

夫の危惧は、最悪の形でしていた。 ついた音実が、かい毛布にくるまりながら、震えるで差ししてきた古いスマートフォンの画面。

広告

そこには、あの館で繰り広げられていた「現代の獄」が記録されていた。

「……これ、杏奈さんが買ってくれたの」

居のソファで、往診の医師から化膿止めの膏を塗られ、両を包帯でく包まれた音実が、ポツリと呟いた。 テーブルのに置かれたのは、キャリアのものではない、格SIMが挿された価な古のスマートフォンだった。

「私の本物のスマホはね、パパとあのが再婚してすぐ、取りげられたの。『学の分際でスマホなんて気だ、贅沢だ』って、あのに奪われて……。それから、友達との連絡も全部切れちゃって」

音実の告は、聞く者のを疑うような異常な々の連続だった。

美さんがくなり、よしえと連れ子の杏奈が館に入り込んできた直から、のの空気は変したという。 よしえは事を切放棄した。 私が配し、費用を全額支払っていたはずのハウスキーパーと料理は、貴照が「がをうろつくのは鬱陶しい、浮いたでゴルフの会員権を買う」と言って勝に解約。 そのすべての皺寄せが、当まだ学だった音実のさな肩へと叩き落とされたのだ。

「朝に起きて、全員分の朝を作るの。お弁当も、パパとあのの分を作らなきゃいけなくて……。付けがいと、パパにを叩かれた。お呂掃除も、トイレ掃除も、全部私の係。

広告

夕飯の器洗いが終わるまで、自分の部に入ることは許されなかった」

「お湯は……? どうしてお湯を使わなかったの、音実」 私の震える問いに、音実は唇を噛み締め、線を落とした。

「あのが……『ガス代の無駄遣いをするな』って、湯器の温度設定を度に固定して、リモコンのパネルにロックをかけたの。お呂を洗うのも、油でギトギトのフライパンを洗うのも、全部たいじゃなきゃダメだって……。お湯を使ったら、そのの遣いをゼロにするって言われて……」

「遣い……? あなた、お遣いをもらっていたの?」

「ううん。円ももらったことない。学のノートや消しゴムを買うおも、パパに頼むと『おは飯をわせてやってるだけで謝しろ、寄虫め』って言われて……。だから、学で使う文具は、全部杏奈さんが自分のバイト代から買ってくれてたの」

連れ子の杏奈。 商売の女が連れてきた娘ということで、私は勝に「母親と同じ穴の狢」だとい込み、これまで目を向けようともしなかった。 だが、音実のから語られる杏奈の姿は、まったく異なるものだった。

「杏奈さんはね、あのに引っ越してきてすぐ、私に謝ってくれたの。『うちの母親が本当にごめんなさい、あなたからお母さんを奪うような真似をしてごめんなさい』って、泣きながら……。それから、私が掃除をしていると、必ず伝ってくれた。

でも、それをあのに見つかると、杏奈さんが激しく殴られるの。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: