みかん小説
本棚

"貧乏嫁と見下されていた私、義姉の結婚式で本当の名前を呼ばれました" 第1話

「貧乏嫁は族の恥でしょ。帰ってちょうだい」

、梅入りの澄み渡る初の陽が、都内名ホテルのガラス張りのアトリウムを眩しく照らししていた。 親族控のなオーク材の扉の。義母の邦(みくも・くにえ)は、にした枚のをヒラヒラと扇子のように揺らしながら、蔑みを含んだ笑を私に浴びせかけた。

そのは、式の担当者が用した親族集写真の並び順が記された座席表だった。 郎婦の席をに、義父の敏男(としお)、義母の邦、義妹の里子(さとこ)、そして夫の公平(こうへい)の名が、綺麗に列したマス目のに印刷されている。

私の名だけが、どこにもなかった。 綺麗に修正テープが引かれ、そのに黒のボールペンで『空』と無質にき殴られていた。

「お母さん、それはどういうですか」 私がく、抑揚のない声で尋ねると、義母の背から腕組みをした里子さんが、嘲笑を隠そうともせずににみてきた。 百貨の化粧品売りで鍛えたという入れのき届いた指先で、私の胸元をツンと突く。

「聞こえなかったんですか? 写真に入らないでってことですよ。族の記写真に、あんたみたいな汚い部者が混ざってたら、あちらのご親族にどんな目で見られるか分からないじゃない。

広告

空気読んで、さっさと帰ってください」

「里子! 千鶴(ちづる)は俺の妻だぞ! 今ぐらいその劣なを慎め!」 子から弾かれたようにちがった夫の公平が、顔を真っ赤にして鳴りつけた。 だが、窓際の肘掛け子にく腰掛け、方を広げていた義父の敏男が、聞の折り目から度も線をげずに、吐き捨てるようにく言った。

「公平、静かにせんか。今が誰のか分かっとるのか。吉野(よしの)のれ台だ。親族の席で声をすな。……公平の嫁、おが引きなさい。それが番波がたん」

敏男も、邦も、里子も。 の誰も、私の目を正面から見ていなかった。 主役である義姉の吉野さんは、別で郎とのロケーション撮の最だ。この入り付の醜悪な諍いは、まだ彼女のには届いていない。

「……分かりました。控をます」

私はくをげ、静かに控のドアノブにをかけた。 ので、私をのとして、敬を持って「千鶴さん」と名で呼んでくれるのは、夫の公平のほかにたったしかいない。 義父も、義母も、義妹も、この、ただの度も私の名をにしたことがなかった。 呼ぶ必がないとっていたからだ。 自分の元にいると信じ切っていたが、の世界でどのような名を持ち、どのようなみで呼ばれているのかを、彼らはる由もなかった。

広告

その隠された本名が、このホテルの静まり返った廊に鳴のように響き渡るまで――あと分も残されていなかった。

控をて、静まり返った絨毯敷きの廊を歩きながら、私は自らのを静かに振り返っていた。

私は千鶴、歳。 夫の公平と結婚してになる。 まいは世田区の環通りからし入った、築の賃貸マンション。暮らしには分だが、お世辞にも贅沢とは言えない慎ましい居だ。 所しているは、落ちの軽のワンボックスカー。部座席を常に倒し、の反物や型の巨なロール、業用ミシンの特殊アタッチメントを運ぶためだけに使っている。

私の装いは、いつも決まっていた。 首元の詰まったスタンドカラーの綿シャツに、ストレッチの利いた黒の作業用パンツ。靴は歩きやすいフラットな革靴。 結婚指輪は、裁断台のでデリケートなシルクの繊維を引っ掛けて傷つけてしまうため、作業に入るは必ずす。それが習慣になり、いつのにかにつけなくなっていた。 ブランド物のバッグも、華美なアクセサリーも持たない。 私にとってとは、自分を着飾ってに誇示するための板ではなく、布の命と向きい、自らので体を削りすための「作業着」に過ぎなかった。

義実に職業を尋ねられた、私は最初から何つ偽ることなく答えてきた。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: