みかん小説
本棚

"月給55万円を削られた古参社員の静かな逆転" 第9話

嘘を隠すためにたな嘘をね、罪を逃れるためににを塗る。その浅ましい悪あがきこそが、彼ら自の首を絞める絞首刑の縄を固く編みげているのだという現実に。

曜の午。佐藤の自宅のリビングには、らかなの陽射しが差し込んでいた。

ガラステーブルのには、昨届いたばかりの『内容証郵便』が置かれていた。差は「株式会社鈴 代表取締役 鈴健」。文面には、佐藤の図な引き継ぎ放棄によって会社にな損害が発したとし、千万円の支払いを求め、期限内に誠ある対応がなければ民事訴訟および刑事告訴に踏み切る旨が、仰々しい法用語とともに並べられていた。

「……随分と派な脅迫状だな」

佐藤は苦笑しながら、郵便物を丁寧に折りたたんだ。

「あなた、本当に平気なの……?」

キッチンから緑茶を運んできた妻の由美が、げに眉をひそめていた。昨晩は恐怖のあまりもできなかったようで、目のにい隈ができている。

「丈夫だよ、由美。会と顧問弁護士の先に、この面の写しをすでに送ってある。『典型なスラップ訴訟(嫌がらせ訴訟)の予告であり、法には片の根拠もない。むしろ恐未遂と名誉毀損のかぬ証拠になる』と、先も太鼓判を押してくださった」

佐藤は妻のを優しく握りしめた。

広告

「、君には本当に苦労をかけたね。夜までの残業、の接待ゴルフ、族旅のドタキャン……それでも君は度も文句を言わず、僕の体を気遣って温かいご飯を用してくれた。このと君の平穏を守ることこそが、僕の残りののすべてだ。あんな連の私利私欲のために、君をこれ以怯えさせたりは絶対にしない」

由美の瞳から、ポロポロと粒の涙がこぼれ落ちた。それは恐怖からではなく、の孤独な闘いを理解してくれた夫への、い謝と堵の涙だった。

「私、ずっと信じていたわ。あなたが誠実に働いてきた姿を、神様が見ていないはずがないって。……あんな会社、辞めて本当によかった」

「ああ。これからは、もっと君とのを切にするよ」

そこへ、玄関のチャイムが鳴った。宅配便の配達員が届けてくれたのは、座の老舗テーラーのロゴが入ったきな装箱だった。会が佐藤のために特別に発注してくれた、オーダーメイドのスーツだった。

寝で着替えを済ませ、姿見のにつ。 濃紺の落ち着いたスリーピース。英国製の最級ウールを使用したは、しっとりとしたみがありながら、肩を通すと羽のように軽かった。、量販の着セールで買った物のスーツを着倒してきた佐藤にとって、まれて初めてに纏う「流の鎧」

広告

だった。

「まあ……!」

部に入ってきた由美が、わず両で元を覆った。

「あなた、本当に素敵よ。昔の面はそのままだ派で、背筋がすっと伸びて……まるで別の役員さんみたい」

「そうかい? し気恥ずかしいな」

佐藤がネクタイをえようとすると、由美が「私がやるわ」とにみた。 細い指先が、シルクタイを丁寧にディンプルを作りながら結びげていく。の結婚式の、慣れないつきでネクタイを締めてくれたと同じ、温かいのぬくもりだった。

「、グループの役員会へくのね」

「ああ。先代から受け継いだあの茶革のケースを持っていくよ。すべてに決着をつけてくる」

「いってらっしゃい、あなた。胸を張って、堂々とね」

妻の力い差しに見送られ、佐藤はく頷いた。 自分を縛り付けていた「組織への盲目な忠誠」という呪縛は、完全に消えっていた。自分を正当に評価し、としての尊厳を認めてくれる々のために、持てる力のすべてを尽くす。そのたな使命が、佐藤の胸の奥で静かに燃えがっていた。

曜の午。 町・グループ本社ビルの最階にある会議は、苦しい威厳に満ちていた。

掛けの巨な円卓を囲むのは、宗郎会をはじめ、グループ主子会社の社や専務、顧問弁護士、公認会計士といった本経済の枢を担う鎮たち数名。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: