"寝室のベッドの下に隠されていたもの" 第9話
の罠
野の文が見つかっても、正は計画を止めなかった。むしろ私たちが証拠を集めているとり、予定を倒ししようとした。
正の債権者からへ連絡が入り、以内に千百万円を返済できなければ、彼の会社の破産を申してるという。正は「妻との資産管理契約が成すれば払う」と最まで説していた。追い詰められた彼にとって、私の署名を得ることは逃げではなく、唯の延命策になっていた。
は婚調を申して、接触を弁護士経由に限定した。方、警察は盗撮、私文偽造、財産取得を目とした為をそれぞれ捜査していたが、柄を拘束する段階ではない。正は自宅にみ続け、財をかす権限も残っている。
そこで私は、正が欲しがっているものを逆に利用することにした。
「話しいに応じると伝えてください」
はすぐには賛成しなかった。正は私を期支配し、周囲まで巻き込んだ相だ。直接向きうことで再び理な響を受ける危険がある。
「きりにはなりません。署名もしません。ただ、彼が誰を連れてきて、どの類を完成させようとするのか確認したいんです」
警察とも相談し、調の任協議という形でホテルの会議を借りた。録音と映像記録をい、隣にはの同僚と警察官が待する。
広告
正には、私が仕事を失うことを恐れ、条件次第では財産管理を任せてもよいと伝えた。
当、正は義母と野を連れてきた。野はすでに警察の聴取を受けているにもかかわらず、ではなく価なスーツを着て、「医師として族を支援する」と言った。
机には公正証の原案、包括委任状、産売却の同が並べられた。正は優しい声に戻っていた。
「怜奈、会社でもつらいいをしただろう。もう頑張らなくていい。資産は俺が守る。君は治療に専すればいい」
「委任したら、仕事へ戻れるの?」
「もちろんだ。俺から会社へ、症状が落ち着いたと説する」
自分が流した傷を、自分だけが取り消せる救済として差ししている。私はりを抑え、類を枚ずつ確認した。
「千百万円の返済にも使う?」
正の指が止まった。
「何の話だ」
「債権者に、私の資産を管理すると説しているでしょう」
「夫婦なんだから、困ったに助けうのは当然だ」
「私が断ったら?」
野がを挟んだ。
「拒否の仕方によっては、判断能力に関する再評価が必でしょう。奥様には自傷を示唆する映像もあります」
「あなたは私を度も診察していません」
「族から分な報を得ています」
「ベッドへ装置を入れる指示も、医療為ですか」
野の顔が変わった。登志子は息子へ「もう帰ろう」
広告
とささやいたが、正はちがらない。
「全部っているなら、なぜ来た」
「あなたのから聞くため」
私は机のへ、のと録音の反訳、の偽造申込、寝具会社の伝票、野の〈経過設計〉を並べた。正の優しい表が枚ずつ剥がれていく。
「こんなで、俺を犯罪者にできるとうな。夫が妻を配して記録しただけだ。おが同したと言えば、誰も証できない」
「の装置の映像は、どこにありますか」
「らない」
「交換業者の写真に古い記録媒体が写っています。あなたが持ち帰ったはずです」
正は答えず、登志子を見た。その線だけで、誰が保管しているか分かった。
登志子は子を引き、へろうとした。隣から警察官が入り、任での事聴取を求める。彼女は鞄を抱え、「息子に頼まれただけ」と泣きした。
その鞄のから、私の予備の印と、見覚えのない貸倉庫の鍵が見つかった。
貸倉庫の契約者は登志子。警察が任提を受けて確認すると、古い記録媒体、偽造の類、私の免許証や保険証のコピー、眠やを記した分の帳簿が保管されていた。
最初の、正は私の私活を記録し、点を探していた。叔母の病状が悪化すると、計画は財産取得へ変わる。正の事業が破綻すると、野と織を加えて実を急いだ。
その変化が、付とともに残っていた。
分の帳簿には、私自が忘れていた活まで細かくかれていた。昇試験のに眠れず泣いた夜、が入院して欲を失った週、部の失敗をかばって役員に叱責された。正はその々に慰めながら、別の欄へ〈いでは提案を受け入れやすい〉〈罪悪を刺激すると反論が減る〉と記している。
楽しかった記憶も利用されていた。温泉旅の写真の横には〈旅は嫌が定。署名依頼に適す〉、誕の事の欄には〈価な贈り物の直は銭の話を避ける〉とある。私にとって夫婦のいだったが、彼にとっては反応を測る実験結果になっていた。
警察官が帳簿をめくる、私は吐き気を抑えるため何度もをんだ。りより先に、過が汚されていく覚があった。結婚活のどこまでが本物で、どこからが観察だったのか分からない。
「全部が嘘だったと決めなくていいですよ」
同席した女性捜査員が言った。
「島さんがそのに笑ったこと、嬉しかったことまで、相の帳簿に奪わせる必はありません。相が利用したからといって、あなたの記憶が偽物になるわけではない」
私はすぐにはそうえなかった。それでも、その言葉をノートへいた。正が自分の解釈で私のを分類したように、今度は私が自分の記憶へ名をつけ直す必がある。
倉庫からは未使用の診断様式と複数の印鑑も見つかった。野クリニックの用には〈期な療養と族による財産管理が望ましい〉と印刷され、付と私の氏名だけを入れれば完成する状態だった。公証役の予約票、施設の入居案内、私の類サイズをいたメモまである。
施設は義母宅からで分、私の職からは以れた郊にあった。問いわせ名義は正で、連絡先は野クリニック。本には「眠治療のための期滞」と説する予定だったという。
もし清掃を数週先延ばしにしていたら、私は結婚記に署名を迫られ、拒めば治療の名目で連れてかれていたかもしれない。そこで部との連絡を制限されれば、正の説だけが私の状態を示す記録として積みがる。
坂本が見つけたのは、劣化した粘着剤にすぎなかった。取るにらない汚れに見えたものが、閉じかけていたをいたのだ。
帳簿の最には、正が債権者へ提する予定だった返済計画が挟まれている。
〈妻資産億千万円のうち、千万円を初期返済。残額を事業再建資とする〉
彼が必としていたのは借分だけではなかった。私の財産で失敗を消し、残りを使ってもう度成功者へ戻るつもりだったのだ。
そして最終ページには、委任の私についてだけ記されていた。
〈療養名目で実くの施設へ移す。自宅には戻さない〉
広告
おすすめ作品
-
完結第15話
風呂を禁じた義母と、家を出た嫁の反撃
由香は出版社で働きながら、無職になった夫・正斗を支え、家計も家庭も一人で背負っていた。 しかし、義母・松恵が突然同居を始めると状況は一変する。家事や生活費を押し付けられ、深夜帰宅した由香に対して「文句があるなら稼いでから言え」と言い放つ義母。 限界を迎えた由香は、静かに決断する。 「では今後は、すべて夫に払わせますね」 その一言を境に、崩れかけていた家族の関係が動き始める。 さらに、義母が持ち込んだ大量の段ボールの中から発見された怪しい情報商材。そして隠されていた家族の秘密。 由香が離れたことで、夫は初めて自分が逃げ続けていた現実と向き合うことになる。 奪われた時間、壊された信頼、そして明らかになる義母の本当の目的――。 一人で耐え続けた妻が、自分の人生を取り戻すために選んだ静かな反撃が始まる。怒り|嫁姑|夫婦|修羅場2.2万字5 606 -
完結第20話
50歳の再婚、披露宴で知った夫の嘘
「玲子さん、仕事は辞めて、明日から私の介護をよろしくね。息子がそう約束してくれたの」 五十歳で迎えた再婚披露宴。 姑が満面の笑みでそう告げると、親族から拍手が起きた。 隣の夫は否定せず、青ざめた顔で目をそらした。 私は何も問い詰めず、マイクを握り、夫から届いたメッセージを読み上げた。 《仕事は絶対に辞めなくていい。母との同居も介護の押しつけもしない》 その夜、私は新居へ行かず、自分のマンションへ戻った。 翌朝、勤務先から連絡が入る。 夫の会社が、私の退職証明と「親族介護専従手当」を勝手に申請していたのだ。 さらに区役所で確認すると、私の住民票は偽造委任状によって新居へ移され、書類上、私はすでに“無職の被扶養者”にされていた。 その直後、姑から電話がかかってきた。 『玲子さん、助けて……正人が、私の五百万円を全部持っていったの』嫁姑|夫婦|介護2.1万字5 71 -
完結第18話
夫は私を最低な妻として配信していた
夜勤明け、同僚から見せられた動画には、家族へ暴言を吐く“私”が映っていた。 《看護師の妻、夜勤後に家族へ八つ当たり》 再生回数は百二十万回。投稿者は夫だった。 私の言葉は前後を切り取られ、十四歳の娘まで台本を読まされていた。 帰宅して問い詰めると、夫は悪びれずに言った。 「動画を公開されたくなければ、娘の親権を争わないと約束してくれ」 家を調べると、台所や廊下から四台の隠しカメラが見つかった。 さらに夫は、虐げられた父親を演じ、広告や寄付で一年に一千三百万円以上を得ていた。 そして次回予告には、私が娘へ暴力を振るった“決定的証拠”を公開すると書かれていた。 しかし、削除されたメモリーカードを復元すると、映っていたのは泣く娘へ台本を渡す夫の姿だった。 「もう一度。今度は『お母さんに叩かれた』と言って」夫婦|裡の顔2.4万字5 300 -
完結第18話
ただの経理パート
「君の仕事は誰にでもできる。今日で辞めてもらう」 結婚二十八年。夫は社員全員の前で、私を“週三日の経理パート”として解雇した。 代わりに経理責任者となったのは、夫が連れてきた三十四歳の女性顧問。 私は退職届に署名せず、会社の鍵だけを置いて帰った。 ところが翌朝、売上の六割を占める主力取引先三社が、一斉に新規発注を停止した。 夫は私の報復だと騒いだが、通知に書かれていた理由は―― 《安全監査資料の重大な欠落》 新しい顧問が、都合の悪い事故記録を削除していたのだ。 さらに調べると、私は会社案内だけでなく創業者名簿からも消され、二千万円を出資した記録まで書き換えられていた。 役員を外す書類に残された私の署名。 その作成日、私は手術を受け、病院から一歩も出ていなかった。職場逆転|夫婦1.8万字5 366 -
完結第13話
妊娠八か月の私に姑は四十人分のおせちを作らせた
「妊娠は病気じゃないでしょう。座るなら、四十人分のおせちを作り終えてからにして」 妊娠八か月の私は、姑に母子手帳とスマートフォンを取り上げられ、夜明け前から台所に立たされていた。 腹の痛みに耐え切れず床へ崩れた時、店の裏口から両親が入ってきた。 父は椅子のない台所と、姑が握る金庫の鍵を見て静かに尋ねた。 「娘の母子手帳を、なぜあなたが持っているんですか」 この店も住居も、夫の実家の物ではない。経営危機を救うため、私の父の会社が買い取り、相場の三分の一以下で貸していた建物だった。 入院後に調べると、私は知らないうちに店の取締役にされ、毎月二十八万円の報酬を受け取ったことになっていた。 けれど私が渡されていたのは、生活費の五万円だけ。 さらに辞めた板前から届いた花には、一枚のカードが添えられていた。 《金庫の中に、あなた名義の通帳が三冊あります》嫁姑|裡の顔1.1万字5 308 -
完結第12話
娘の就職祝いで夫は私を泥棒と呼んだ
「会社から二千万円を移しました。見つかる前に、帳簿も処分します」 娘の入社祝いの席で、夫は“私の声”が入った録音を再生した。 義母にはワインを浴びせられ、夫からは離婚届を突きつけられた。 「今日署名すれば、警察には届けない」 録音日時は三月十四日、午後八時十二分。 けれどその時、私は病院の手術室で全身麻酔を受けていた。 さらに翌朝、娘の携帯には、私のアカウントから送られた覚えのないメッセージが残っていた。 調べると、消えた二千万円の送金先には義母名義の会社があり、入社したばかりの娘まで五千万円の補助事業の責任者にされていた。 そしてある夜、娘が突然姿を消す。 会社の経理室に残されていたのは、娘の実印が押された一通の自白書だった。 《二千万円の送金は、すべて母の指示で行いました》夫婦|金銭問題1.3万字5 309 -
完結第13話
妹に夫を譲れと言われた結婚式の翌朝
同窓会で再会した幼馴染の秋と結婚したありさ。だが、昔から姉を敵視する妹・百合は「秋は本当は私と両思いだった」と言い張り、父まで巻き込んで二人の結婚を妨害し始める。 そして結婚式の翌朝、百合は突然「秋の子を妊娠した」と告白。父はありさに離婚して夫を妹へ譲れと迫る。ところが妊娠時期を聞いた瞬間、ありさと秋は揃って大爆笑した。その二か月前、秋には百合の主張を根底から覆す、決定的な医療記録が残っていたのだ――。兄弟姉妹|夫婦|真相2.0万字5 1611 -
完結第11話
両親を亡くした私が旅行から帰ると、実家が消えていた
両親を相次いで亡くした美穂に、夫・雅也が突然、一週間の温泉旅行を贈った。初めて見せた思いやりを信じて家を空けた美穂だったが、帰宅すると、思い出の詰まった実家は跡形もなく解体されていた。 雅也は土地を売り、その金で義実家を二世帯住宅にするつもりだった。しかし美穂が遺産を相続したというのは、三人の勝手な思い込みだった。名義変更前の家を無断で壊し、所有者の承諾書まで偽造した疑いが浮上する中、美穂は両親の思い出を奪った夫と義両親への反撃を始める。因果応報|嫁姑|夫婦|金銭問題1.7万字5 970 -
完結第12話
浄水器の異物から、夫の秘密が暴かれた
八か月前から原因不明の頭痛と吐き気に悩まされている美央。病院を巡っても異常は見つからず、夫・公平と義母・悦子は、仕事を辞めて療養するよう優しく勧めていた。父から相続した自宅と賃貸ビルの管理も夫に任せればいい――二人の気遣いを信じ、美央は自分の心が弱いせいだと思い始めていた。 ところがある日、交換したばかりの浄水器が異常を知らせる。点検に訪れた作業員が内部を開けると、正規のカートリッジは別物とすり替えられ、飲料用ではない物質が詰め込まれていた。さらに玄関の開錠記録と防犯映像から、美央の出張中に工具袋を持った義母が二時間近く家へ入っていたことが判明する。 安全な場所へ避難した途端、八か月続いた症状は急速に消えていった。分析で検出されたのは、長期間摂取すれば臓器に障害を残す危険のある特殊な工業薬品。その入手記録には、妻を心配し続けていたはずの公平の署名が残されていた。 多額の借金を抱えた公平は、美央の判断力を奪い、父の遺したビルを処分するための委任状まで準備していた。しかし押収された端末を調べると、計画は財産だけでは終わっていなかった。生命保険の受取人変更まで相談していた相手は、美央が体調不良について最も信頼し、何度も助けを求めていた人物だった。夫婦|真実|真相|修羅場1.8万字5 473