"昭和51年、閉山した炭鉱町から消えた父" 第2話
閉に消えた記録
番坑のという所は、父の仕事だった。炭鉱の坑内図を学の図で見たことがある。番坑は古い採炭区域で、閉の数から使われていないと記されていた。の番号は図に見当たらない。閉に作られた資料から、古い坑が省かれているのかもしれなかった。
私はまず古賀さんを訪ねた。彼は妻とで社宅に残っていたが、末までに町をるつもりだと話していた。のには段ボール箱が積まれ、畳のに茶碗が数個だけ残っていた。
「って何ですか」
私が片を見せると、古賀さんの顔が変わった。彼はすぐに窓のを確認して、玄関の鍵を掛けた。
「修さんがいたのか」
「そうです。父は番坑へったんですか」
「俺には分からん」
「古賀さんは父の同僚でしょう」
「同僚だから、何でもってるわけじゃない」
古賀さんの返事はかった。彼は片を私から取りげようとしたが、私はを引いた。しばらく沈黙したあと、彼は自分のを膝に置いた。
「閉のし、古い坑にがているという話があった。会社は、もうち入る必がないと言っていた。修さんは、そのがどこから来るのか調べようとしていた」
「どうしてですか」
「坑の先に、昔の連絡坑がある。閉じたはずの所だ。
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がるなら、どこかで仕切りが壊れた能性がある」
「危ないんですか」
古賀さんは答えるまでにをかけた。
「が入れば危ない。だから会社は、入禁止にした。だけど、そこに何があるかを会社のが調べたかは分からない」
「父は何か見つけたんですか」
「それは修さんに聞くしかない」
その言葉に、私はりを覚えた。父がいないから聞けないのだ。いない理由をっているかもしれないたちが、皆、しずつ言葉を濁している。
へ戻ると、母は台所で干し根を刻んでいた。私は片を置いた。
「お父さんがへったの?」
母は包丁を止めたが、こちらを見なかった。
「あなたは学へきなさい」
「お父さんが帰ってこないのに?」
「帰ってこないから、あなたは学へくの」
「何をっているの」
母は刻んだ根を鍋へ移した。答えはなかった。私は、父が最にかけた朝、母が何かを渡していたことをいした。あのときは弁当を持たせたのだとっていたが、父は弁当箱を持っていなかった。
「お父さんに何か渡したよね」
母の背がわずかに固くなった。
「何も」
「嘘をつかないで」
「あなたには関係ない」
「族なのに?」
母が振り返った。目のに、眠れていないのがあった。
「族だから、関係ないの」
そのの午、町の共同掲示板に、炭鉱閉鎖に伴う清算説会の案内が貼られた。
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会社は退職や移転費について説するため、元従業員と族を集めるという。父の名は説会の席予定者覧に載っていなかった。母の名もなかった。
説会当、私は会のろに座った。壇には会社の総務課と、町役の職員が並んでいた。総務課は、閉の坑内は全に封鎖されたと説した。保記録もすべて理され、必な資料は県へ提済みだという。
話を聞いていた古賀さんがをげた。
「番坑の側は、封鎖に確認したんですか」
会にさなざわめきが起こった。総務課は笑顔を崩さずに答えた。
「当該区域は以から使用されておらず、閉に伴う特別な確認の対象ではありません」
「がていたという報告があったはずです」
「その報告は確認できていません」
古賀さんはそれ以質問しなかった。課は次の説へ移った。
帰り際、私は会の廊で、総務課が別の社員に声で言うのを聞いた。
「杉浦の件は、記録をすな。清算が済むまで余計な話を広げるな」
その社員は「もう本はいないでしょう」と返した。
私はを止めた。
父が消えたことを、会社はっている。しかも「記録をすな」と言っている。私はそので問い詰めようとしたが、課がこちらを向いたため、廊の柱のへを隠した。
へ帰ると、母は縁側で父の古い帳面を燃やしていた。鉢のでの端が丸まり、黒くなっている。
「何を燃やしているの」
「古い帳面だよ」
「お父さんの?」
母は箸でをかき混ぜた。最の片が燃え尽きるに、私はのからだけ読み取った。
「分、返却なし」
父が残した数字と同じ刻だった。
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