"昭和51年、閉山した炭鉱町から消えた父" 第6話
妹の名が記された帳簿
瀬さんは、父が「子の名を帳簿から探せ」と言ったをらなかった。妹は当7歳で、炭鉱の仕事にも会社の帳簿にも関係がない。私たちは病院をるに、もう度だけ尋ねたが、瀬さんは首を横に振った。
「俺に分かるのは、修が何かを恐れていたことだけだ」
へ帰ると、母は玄関で待っていた。私たちが何をしたのか、すでにっているようだった。
「瀬さんに会ったのね」
「どうして分かったの」
「古賀さんがかけるに、うちの話を使ったから」
母は古賀さんの方を向いた。
「話してしまったの?」
「瀬さんがっていることだけです」
母は私を台所へ呼び、引きしから古いさな帳簿をした。表には、炭鉱の売の名が印刷されている。には、閉の社宅の修繕費や配品の受取記録が並んでいた。私は数字の列をめくり、最のページでを止めた。
昭511112、1640分。名の欄には「杉浦子」とかれ、受取品の欄には「毛布1枚、薬品包み」とある。受取の署名は父のものだった。
「妹はこの、にいたよ」
「そうだね」
「じゃあ、どうして名があるの」
母は帳簿を閉じた。
「子が病気になった夜、お父さんが炭鉱診療所へ薬を取りにったことがある。閉も診療所に残っていた薬を、先が分けてくれた。
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帳簿には、受け取りの記録を残さなければならなかった」
「それが、あのなの?」
「薬を受け取ったのは、そののだよ」
記録の付が違う。父が消えたの刻がかれている。受取の署名も、父のものとし違っていた。文字の癖は似ているが、最の「」の払いが逆になっている。
母は「その帳簿は父がいたものではない」と認めた。だが、誰が記したのかはらないと言った。閉、社宅の修繕費や配品の帳簿は、会社の総務課がまとめて管理していた。
私は翌朝、帳簿を持って町役へった。かつて炭鉱の福利を担当していた職員に見せると、彼は帳簿の番号を確認した。帳簿は会社が管理していた原本ではなく、社宅の町内会用に作られた控えだという。
「会社の帳簿なら、清算資料として保管されているかもしれない」
「閉の配記録も残っていますか」
「すべてではない。必なものは会社が持っていった。残っているとすれば、旧診療所の倉庫だろう」
旧診療所は、閉と同に閉じられ、今は町役の倉庫として使われていた。職員は私たちを案内したが、奥の部には古い薬箱と類箱が積みがっているだけだった。
そこで、壁際に置かれた箱の底から、冊の黒い帳簿が見つかった。受取記録には、父の字で「子、薬」とかれている。
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ただし付は1111。翌の欄には、父の名の横に「、確認済み」とある。1640分という刻も致していた。
その帳簿の最のページには、会社が作った覧が貼り付けられていた。閉に退職続きが済んだの名が並び、ひとりだけ赤鉛で線を引かれている。
「井信夫」
父が探していた若い作業員の名だった。
帳簿の端には、別の跡でだけかれていた。
「該当者は社宅を退済み。扶養族なし」
しかし、井さんには妻と幼い息子がいたと瀬さんは言った。扶養族がいないことにされれば、退職や補償の続きが変わる。井さんの失踪を隠すために、族まで記録から消された能性がある。
そのの夕方、会社の総務課が母を訪ねてきた。課は、役から帳簿が見つかったことをっていた。
「杉浦さん、昔の資料を持ちすのはやめてください。族のために、今まで黙っていた方がいい」
母は玄関で課を止めた。
「あなたがそう言ったから、私は何も黙っていたんです」
「それで、何か守れましたか」
母はすぐには返事をしなかった。課は帰り際、私に向かって言った。
「君のお父さんが何をしたのか、最までりたいなら止めない。しかし、真実が族を楽にするとは限らない」
その夜、私は母に尋ねた。
「お父さんは、子のために消えたの?」
母は私の目を見た。
「お父さんは、子を守ろうとした。けれど、あなたを置いていったことまで、正しかったとは言えない」
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