みかん小説
本棚

"父が開けた祝儀袋" 第9話

そして、誰が何を希望したか。

だけなら何度でも言い争える。

だから恭子は、のに数字を置くことにした。

曜の午。

佐伯の畳へ、双方の両親と浩司が集まった。

正吉と文。

蔵と志津。

恭子と浩司。

座卓の央には、恭子が作った学ノートが置かれている。

志津は座るなり言った。

「こんな族会議みたいなことまでしないといけないの?」

恭子は答えた。

「しないで済ませた結果が今なので」

正吉が嫌そうにを鳴らした。

恭子はノートをいた。

「今、全部決めます」

最初の頁。

《恭子と浩司が希望したもの》

基本の披宴費用。

で選んだ写真。

結婚指輪。

最初から予定していた引き物。

「これは私たちの責任です。祝儀のうち、ここに当たる分は私たちの婚礼費として計算します。りない分もで払います」

次の頁。

《佐伯が追加したもの》

着目の装。

予定以の嫁入り箪笥。

鏡台。

テレビ。

父の取引先をとした追加招待客。

正吉がすぐをいた。

「娘のためにやったんだぞ」

恭子は父を見る。

「頼んでないよ」

「親の気持ちは額で分けられん」

「気持ちを分けてるんじゃない。支払いを分けてるの」

正吉は言葉に詰まった。

つ目。

《が追加したもの》

男方親戚の宿泊費。

料理の格げ。

引き物の変更差額。

志津が声をげた。

広告

「そんな分け方、聞いたことがないわ!」

恭子は静かに答えた。

「私も、頼んでいない借を嫁が払うなんて聞いたことありません」

「婚礼はとでするものよ」

「なら、どうして片方のだけが払うんですか?」

志津が黙る。

蔵が腕を組んだ。

「昔から嫁をす側が支度をするものだ」

浩司がをいた。

「父さん」

「何だ」

「うちが増やした分は、うちで払おう」

志津が息を呑んだ。

「浩司!」

「嫁の方をしてるんじゃない」

浩司は母を見る。

「俺たちが頼んだものは俺たち。向こうの親が決めたものは向こう。うちが頼んだものはうち。それだけだよ」

「親子なのに、そんな」

「親子だから、誰が決めても同じになるわけじゃないだろ」

恭子は夫の横顔を見た。

以なら言えなかった言葉だった。

最に、つ目の頁をいた。

《婚礼とは関係のない借》

父のの仕入資。

その借を披宴の祝儀で返済した分。

部が静かになった。

正吉は俯いた。

恭子は言った。

「これは、お父さんが払って」

誰も反論しなかった。

その、すべてが円満に決まったわけではない。

志津は最まで満を言い、正吉も「族をで切り分けた」と恭子を責めた。

それでも、初めて責任の線が引かれた。

そして会議が終わる頃、文が枚のを差しした。

「これも入れないと」

それは、披宴翌に正吉が融業者へ支払ったの受領だった。

広告

恭子が計算すると、父が祝儀から持ちした額が初めて正確に分かった。

万千円。

父は娘夫婦に言も聞かず、それだけの祝儀を使っていた。

恭子はノートへ数字をいた。

そして父へ言った。

「これも、返してもらうよ」

正吉が顔をげた。

「今すぐじゃない。でも、私たちの分を勝に使ったんだから、なかったことにはしない」

父はい何も言わなかった。

最に、さく頷いた。

恭子が次に取りかかったのは、空になった祝儀袋だった。

正吉はだけを抜いたわけではなく、誰からいくら受け取ったかをへき留めていた。その記録が残っていたため、恭子はずつ祝儀帳を作り直すことができた。

「どうしてそこまで必なの?」

浩司が聞いた。

「いつかお返しするに困るから」

婚礼の祝儀は、受け取って終わりではない。

親戚に祝い事があれば、今度はこちらが返す。

父がそのの借返済に使ってしまっても、との付きいまで消えるわけではなかった。

恭子は名、続柄、額をずつ記録した。

そこでまたつ、父のが見えた。

正吉が追加した取引先の客は、予ほど額の祝儀を包んでいなかった。

商ののには、千円、千円のもいる。

方、料理と引き物、酒代を考えると、増やすほど赤字になる客もいた。

「お父さん、祝儀が増えるとってを呼んだけど、逆に費用も増えてたんだ」

恭子が言うと、浩司は苦笑した。

「見栄っていな」

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: