みかん小説
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"赤提灯から始まる逆転" 第1話

の夜は、アスファルトを容赦なく叩き、凍てつく沫となってスーツの裾を濡らしていた。 傘を差す気力すら湧かず、私は会社から支されていた事務用の段ボール箱を両腕で抱え、濡れ鼠のようになって歓楽のれを歩いていた。箱のは、数冊の専と、使い古したマウス、そして昨まで半命を削って発に打ち込んできたセキュリティシステムの仕様のきだけだった。

「おがライバル企業に密データを売ろうとした証拠はすべて揃っている。会社に損害を与えるに未然に防ぐことができたのは、この私の柄だ」

今朝の景が、鳴りのように脳裏にこびりついてれなかった。 直属の司である豪田部は、酷な歪んだ笑みを浮かべ、私が徹夜をねてきげた次世代セキュリティシステムのソースコードを自らの端末から括消したように装った。実際には、私のパソコンを物理にネットワークから切りし、私自のアカウントを即座に抹消したで、部の競社へデータを転送しようとしたという偽造のアクセスログを役員会へ提したのだ。

発チームの同僚たちは、豪田部の権力と社内での報復を恐れ、誰として私と目をわせようとはしなかった。

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入社以来がってきた輩たちすら、俯いて指先を擦りわせるだけだった。私は弁の会を切与えられず、警備員に両脇を固められ、社員証を取りげられて社の通用から文字通り放りされた。

なぜそので声をげて抵抗しなかったのかと、自問自答を繰り返す。 だが、に任せて暴れれば、豪田は即座に警察を呼び、建造物侵入や威力業務妨害の現犯として私を逮捕させただろう。企業というな組織において、役員候補である部の言葉は絶対であり、平社員の叫びなど虫の羽音にも等しい。

だからこそ、私は無言でをげ、を呑むようにして会社をった。 豪田部がどれほど狡猾であろうと、決して気づいていない決定な事実がつだけあったからだ。私が発したシステムの最部には、設計者である私自の体認証と特定の秘密鍵がなければ度と作しない、の防壁——ステルスロックを組み込んであった。

寒さと精神な疲労で膝が震え、界が歪んだ。 これ以歩き続ければで昏倒してしまう。そう本能が告げた、界の隅にぼんやりと滲む赤いがび込んできた。 軒先から破れたビニール根が突きし、赤提灯に「衆酒」と掠れた文字が揺れている。簾をくぐると、焼き鳥の煙と酒の匂い、そして仕事帰りのサラリーマンたちの喧騒が押し寄せてきた。

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ずぶ濡れで段ボール箱を抱えた男の姿はらかに浮いていたが、背に腹は代えられない。私はカウンターの最も隅の席に滑り込み、元にい箱を置いた。

「燗を、それと煮込みをください」

え切った指先を擦りわせ、ようやく息つこうとしたそのだった。 すぐ隣のテーブル席から、内に響き渡るような激しい鳴り声ががった。

「財布を忘れた? ふざけんじゃねえよ! 散々みいしといてがねえってのは、ただの無銭だろうが!」

エプロン姿の若い員が、テーブルにをついて荒々しくを乗りしていた。 そのに座っていたのは、汚れたカーキのジャンパーを着た柄な老だった。髪交じりのをこれでもかというほどくげ、擦り切れた袋をした両をわせ、必に詫びている。

「すまん、本当にに忘れてきてしまったんじゃ……。の番に必ず持ってくる。頼む、警察だけは勘弁してくれんか」

「どこの馬の骨ともれねえジジイの言葉が信じられるかよ! 今すぐ警察を呼んでやる。そこで震えて待ってな!」

周囲の客たちは関わりいを避けるように目を背け、声で品定めをするように老を眺めていた。老の顔は蒼になり、肩をさく縮こまらせて震えている。

私自の財布には、今朝ろしたわずか数千円の現しか残っていなかった。

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