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"赤提灯から始まる逆転" 第2話

からの賃、費、再就職先が見つかるまでの活費を考えれば、の代を肩代わりする余裕などミリもしない。会社を理尽に解雇され、社会信用を奪われた自分が、見ずらずの老を助けるなど愚の骨頂だった。

しかし、権力を笠に着て、逃げのない者を方に罵倒し追い詰める員の傲な姿が、今朝の豪田部の顔となって見えて仕方がなかった。理屈よりも先に、私の体が勝にいていた。

「……員さん、私が払います」

私はちがり、千円札を数枚抜いてカウンター越しに差しした。 員は怪訝な顔で私を凝した。ずぶ濡れのスーツを着て、元に粗末な段ボール箱を置いたみすぼらしい男が、の会計をて替えるなど予もしていなかったのだろう。

「……千百円ですけど。本当にいいんですか?」

「ええ。領収は結構です。だから、警察を呼ぶのはやめてやってください」

員は舌打ちをつ落とし、乱暴に札を引っ繰ると、釣銭も持たずに厨の奥へと引っ込んでいった。 内が再び元の喧騒を取り戻す、老は目を丸くし、信じられないものを見るように私の顔を見げていた。

「あ、あんた……すまんのう。見ずらずのみすぼらしい爺に、こんなを……」

「いいんです。私も、似たような理尽に遭ったばかりですから。

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邪を引かないうちに、くお帰りになったほうがいい」

私が自分の席に戻ろうとすると、老はそそくさと私の隣の丸子に座り直した。先ほどまでの怯えた表は消えり、どこか飄々とした柔らかながその瞳の奥に宿っていた。

「兄ちゃん、せっかくの縁じゃ。私のおごりというわけにはいかんが、杯だけ付きってくれんか」

老は私の返事を待たずに、運ばれてきた燗の徳利をに取り、私のグラスへ注いだ。湯気とともにちる麹のりが、凍てついた肺腑に染み入る。断る気力もなく、私は注がれた酒を気に呷った。アルコールが胃の腑を温め、張っていた筋肉がわずかに緩む。

「……何か、取り返しのつかないことでもあったのかい? さっきから、この世の終わりみたいな顔をしておるが」

老は鉢の枝豆をに放り込みながら、私の横顔をじっと見つめていた。 初対面の、しかも無銭で捕まりかけた老に、会社の愚痴やみ言を並べるつもりはなかった。だが、胸の奥底に澱のように溜まっていたいが、酒の勢いを借りてぽつりぽつりと溢れした。

「……半、寝るも惜しんで作っていたセキュリティシステムを、司にすべて奪われました。私は密データを盗もうとした犯罪者に仕てげられ、今、即解雇されました」

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老は杯を止め、静かに私の言葉を待った。

「自分が当に扱われたこと以に……悔しいんです。私が作ったあのシステムは、社内政治の具じゃない。ITの識がない齢者や、悪質なネット詐欺に怯えるいのたちを、見えない悪から絶対に守るために設計したものでした。それが、誰の役にもたないまま、のの世の具として塗り潰されてしまった……技術者として、それが何よりも許せないんです」

内のがやがやとした雑音が、その瞬だけのいたようにじられた。 老はしばらく黙ったまま、私をじっと見据えていた。その差しは、先ほど員に怯えていた老とは別のようにく、底れぬ静寂を湛えていた。

「そうか。あんたは、本当に自分の技術と、それを使う々をしておるんじゃな」

老はくそう呟くと、残った酒をみ干した。 これ以居しても現実は変わらない。私は席をち、元の段ボール箱を持ちげた。

「お気をつけて帰ってください」

「兄ちゃん、名は?」

「……鈴鹿、です」

「鈴鹿君か。良い名じゃ」老は穏やかに目を細めた。「見返りを求めない優しさと、筋の通った誇りはな、巡り巡って必ず自分を救うものじゃよ。あんたの努力は、決して無駄にはならん」

私は軽く礼し、の夜ののへと再び歩みした。

翌朝、古びた畳のアパートで目を覚ましたのは午を回った頃だった。

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