みかん小説
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"夫に4千円を頼んだら、4千万円振り込まれた" 第1話

築を超える造アパートの台所は、の寒が建付けの悪いアルミサッシの隙から容赦なく吹き込み、底えしていた。夕暮れの暗い部ので、私はキッチンの作業台にをつき、使い古したつ折りの財布をじっと見つめていた。

革が剥げ、縫い糸がほつれた銭入れを逆さまにし、たいステンレスのにをぶちまける。転がりたのは、角の丸まった千円札が枚と、百円玉が数枚。指先を震わせながら何度も数え直したが、元に残る現は千百円。スマートフォンの画面をちげ、方の残照会アプリをタップしても、表示された預残は千円ちょうどだった。

わせても千百円。それが、この部にある全財産の数字だった。

パート先の医療用品からの料はだ。だが、私の目のにある現実は、の朝を待ってはくれない。隣の畳から、ヒュー、ヒューと喉を喘がせる苦しげな呼吸音が途切れ途切れに聞こえてくる。

数、救急来の待で医師から突きつけられた言葉が、たい氷の棘のようにの奥に突き刺さっていた。

「お母様の脈弁の化が限界に達しています。このままではいつ全を起こして突然してもおかしくありません。

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当院ではこれ以の救急対応はできませんので、の朝番で隣町の臓専施設へ向かい、精密検査と緊急の評価を受けてください」

母の静(しずか)は、今で歳になる。かつて町の駅通りでさな定をで切り盛りし、寸胴鍋を軽々と持ちげていた気丈な母だったが、の脳梗塞と臓病の悪化をにを畳んでからは、見るもなくさく縮んでしまっていた。

病院から追いされるようにタクシーで連れ帰った、母は崩れ落ちるように座布団のに倒れ込み、「ごめんね、加奈……い虫の来損ないの親で、本当にごめんね」と掠れた声で詫びた。の専来の初診受付と基本な検査だけで、最でも千円の窓負担が必だと護師からを押されていた。

千円。普通の庭であれば、財布をけば何の躊躇もなく取りせる端(はしたがね)かもしれない。しかし、賃と費の滞納をギリギリで回避し、値引きシールの貼られたもやしと豆腐で飢えをしのぐ今の私たち夫婦にとって、その千円は越えられない鉄の壁だった。

私は震える指でスマートフォンの話帳をいた。画面の端に蜘蛛の巣のようなヒビが入った液晶をスクロールし、「勇(ゆうと)」の名を探す。

夫の勇は、内の零細な町で作械のメンテナンスとして働いている。

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毎朝、油と鉄の匂いが染み付いた褪せた作業着を纏い、落ちの軽自に乗って勤していく。器用で数がなく、自分のためのや靴は擦り切れて穴がくまで買い換えない男だ。

最はの受注が減り、残業代も削られていた。彼自が削れるだけの活費を削り、私に愚痴ひとつ言わずに耐えている姿を毎晩見ている。その夫に向かって、「おを貸してほしい」とをげることの惨めさと申し訳なさに、胸が焼けるように痛んだ。

度は通話ボタンを押しかけ、い直して画面を伏せた。迷惑をかけてはいけない。これ以、彼を追い詰めてはいけない。

だがその瞬、隣の部から「ゲホッ、ゲホッ」と激しい咳き込みが響いた。苦悶に満ちた母の呻き声。背筋にや汗が吹きし、私の指先は無識のうちに発信ボタンをく押し込んでいた。

規則な呼びし音が、元でく響く。回、回。切れる寸、カチリと通話が接続された。

「もしもし、加奈か?」

受話器の向こうから聞こえてきたのは、いつものく落ち着いた夫の声だった。しかし、その背から奇妙な喧騒が混ざり込んでいた。勢のの話し声、類をめくる乾いた摩擦音、そして自案内が告げる抑揚のない子音声。械油の匂いが漂うの喧騒とは、らかに異質だった。

「勇……今、丈夫? 仕事じゃないの?」

「ん、ちょっと用事があってな。

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