"「父の31億を狙った泥棒女」と罵られた私。孤独な老人に贈った2180円のラーメンが、巨大金庫の上に供えられていた" 第7話
老が最に選んだ
『この音声を聞いているということは、私はもう、この世にいないのでしょう』
録音から流れたのは、聞き慣れた源蔵の声だった。ってはいるが、言葉は瞭で、迷いがない。
健は机に両をついたままかなかった。美穂は何か言おうとしたが、隣の弁護士にで制される。
『健。おは、この、私が何を見ていたからない。私を会社からざけ、活用の座を管理し、社員には認症だと説した。それでも私は、おがいつかい直すのではないかと待った』
「やめろ。んだの方な話だ」
健が録音へを伸ばす。弁護士が、その首をつかんだ。
「依頼であっても、証拠となり得る物を止めることはお勧めしません」
健はを振り払い、子へ戻った。
『だが、おは配の回数を減らした。費まで無駄だと言った。私が暮らすには度も来なかったのに、庫の暗証番号だけは何度も聞いた。私はようやく認めた。おが待っているのは、父親の回復ではなく、父親のだと』
応接の空調音が、自然なほどきく聞こえた。
さくらは膝ので両を握った。源蔵がこんないを抱えていたことに胸が痛んだが、録音は告発だけでは終わらなかった。
『さん。あなたには、分を隠してを試したと誤解させてしまったかもしれません。
広告
それだけは違います。私は自分の失敗を恥じ、助けを求められなかった。あなたは、そんな私の見栄に気づきながら、気づかないふりをしてくれました』
スーパーでラーメンを棚へ戻した自分を、さくらに見られていたことも、源蔵は分かっていた。
『あなたはで声をかけなかった。へ来て、注文を違えたから助けてほしいと言った。施すのではなく、私にも受け取る理由をくれた。あの箱は、私が最に受け取ったのけです』
さくらは俯いた。泣かないつもりだったが、滴だけの甲に落ちた。
『だから私は、あなたにを与えたいのではありません。私が涯をかけて作った会社と、そこにむ々の暮らしを託したい。あなたひとりに経営を背負わせるつもりもない。黒田先、田所君、部役員が支える仕組みは準備した。受けるかどうかは、事を全て聞いたあと、あなた自で決めてください』
源蔵は社員基と域の配事業についても説した。資産をさくら個のぜいたくのためだけに渡す遺言ではない。会社の議決権を守り、健による資産流を止めるための選択だった。
最に、源蔵の声がしだけ柔らかくなった。
『さん。あなたが箱を渡した夜、私は久しぶりによく眠れました。ありがとう』
音声が止まった。
健はしばらく録音を睨んでいたが、やがて子の背にもたれ、乾いた笑いを漏らした。
広告
「なるほどな。い物箱と泣ける話で、31億を持っていくつもりか」
「私はまだ、受けるとも受けないとも答えていません」
「格好をつけるな。欲しくないがここまで来るかよ」
美穂もち直ったようにバッグを抱え直した。
「それに、遺言にけば何でもい通りになるわけじゃないでしょう。健さんは実の息子なのよ」
弁護士が資料を確認し、初めて自信のある声をした。
「その点については、私からご説します。健氏は被相続の子であり、遺留分侵害額請求を検討できます。遺言が直ちに無効になるわけではありませんが、法定の範囲で銭請求をう余はあります」
「ほら見ろ」
健は机を指で叩いた。
「全部は無理でも、俺の取り分は法律が守っている。会社の株も産も、簡単におだけのものにはならない」
さくらは黒田を見た。黒田は遺留分のを否定せず、静かに頷いた。
「先の般論は、その通りです」
「だったら、話はい。俺の分を現で用しろ。今すぐするなら、遺言無効の裁判までは勘弁してやる」
「ただし」
黒田が言葉を継いだ。
「健さんが受け取れる額を計算するに、あなたが源蔵様の財産と御厨産へ返すべき額を、確定させる必があります」
健の指が止まった。
黒田は元の鞄から、付箋の貼られたい黒いファイルを取りした。
「暫定集計で、4億8000万円です」
広告
おすすめ作品
-
完結第16話
退職金を狙った息子夫婦と、亡夫の最後の記録
三十八年勤めた病院を退職した夜、久美子は息子夫婦から一枚の振込用紙を差し出された。 金額は、退職金の全額にあたる千八百万円。 「孫の将来のため」と迫られた久美子は署名を拒み、亡夫が残した通帳を調べ始める。すると、死後も三年間続いていた謎の送金と、《健太には知らせるな》という赤い文字が見つかった。 さらに孫本人は、息子夫婦が語る私立高校も医学部も望んでいなかった。 家族のために用意されたはずのお金は、いったい誰の借金を埋めていたのか。亡夫の署名が入った二通の承諾書、銀行へ持ち込まれた偽の委任状、そして貸金庫に隠された最後の手紙。 久美子が送金を止めた瞬間、息子夫婦が長年隠してきた金の流れが、静かに崩れ始める。親不孝|絶縁|親子関係|退職金|金銭問題1.1万字5 830 -
完結第11話
夫に4千円を頼んだら、4千万円振り込まれた
母の検査代に必要な四千円すら用意できず、加奈は夫の勇人へ震える声で助けを求めた。ところが直後、口座へ振り込まれたのは四千円ではなく、四千万円。町工場で働き、擦り切れた靴を履き続ける夫が、なぜこれほどの大金を持っているのか。 帰宅した勇人が差し出したのは、十六年前に受け取った未公開株と、巨額買収を証明する書類だった。しかし、手続きは三か月も前から進んでいた。母の病気に苦しむ加奈へ、なぜ彼は何も話さなかったのか。 不信を募らせる加奈の前で、病床の母が静かに告げる。 「この子の秘密は、あんたと結婚する前から知っていたよ」 四千万円より重い、母と夫だけが抱えてきた十六年前の約束とは――。夫婦|親子関係|介護|金銭問題1.6万字5 179 -
完結第12話
「もう連絡しないで」と言った娘から48件の着信
夫と親友に裏切られてから22年、恵子は一人娘の美咲を育ててきた。ところが結婚を目前にした娘から、突然「これからは夫の家族だけを大事にする。もう連絡しないで」と告げられる。恵子は追いすがらず、「そう、ありがとう」とだけ答え、結婚式の手配から静かに身を引いた。 翌朝、美咲から届いた48件の着信。式場への連絡が途絶えたことで、娘が密かに親族席へ加えていた二人の名前が明らかになる。それは、22年前に恵子を捨てた元夫と、かつての親友だった。 なぜ娘は、母に黙って二人を招いたのか。親子の間に積み重なった沈黙をたどるうち、元夫が語った「母が父娘を引き裂いた」という、もう一つの過去が浮かび上がる。夫婦|相続|親子関係|金銭問題|修羅場1.8万字5 844 -
完結第12話
娘の就職祝いで夫は私を泥棒と呼んだ
「会社から二千万円を移しました。見つかる前に、帳簿も処分します」 娘の入社祝いの席で、夫は“私の声”が入った録音を再生した。 義母にはワインを浴びせられ、夫からは離婚届を突きつけられた。 「今日署名すれば、警察には届けない」 録音日時は三月十四日、午後八時十二分。 けれどその時、私は病院の手術室で全身麻酔を受けていた。 さらに翌朝、娘の携帯には、私のアカウントから送られた覚えのないメッセージが残っていた。 調べると、消えた二千万円の送金先には義母名義の会社があり、入社したばかりの娘まで五千万円の補助事業の責任者にされていた。 そしてある夜、娘が突然姿を消す。 会社の経理室に残されていたのは、娘の実印が押された一通の自白書だった。 《二千万円の送金は、すべて母の指示で行いました》夫婦|金銭問題1.3万字5 331 -
完結第22話
四十九日の遺言
夫の四十九日を終えたその日、静江は三十一年間暮らした家と弁当店から追い出された。 義弟が突きつけた遺言書には、店も住居もアパートもすべて彼へ譲り、妻には何も残さないと記されていた。署名も実印も、確かに亡き夫のものだった。 途方に暮れる静江が夫の古い携帯を起動すると、一件だけ音声が残されていた。 『遺言が出ても、家を取り返そうとするな。先に地下室の電気メーターを見てくれ』 存在しないはずのメーター。その裏から見つかったのは、結婚前の静江の名が記された領収証と、土地の所有者を示す記録だった。 ところが調査を進めるうち、遺言書には差し替えられた紙の痕跡が見つかり、八室あるアパートからは二室分の家賃が二十年間も消えていたことが判明する。 そして亡き夫の端末には、義弟の不正だけでなく、静江が最も知りたくなかった“三十一年間の沈黙”が残されていた――。相続|親不孝2.6万字5 520 -
完結第13話
月給55万円を削られた古参社員の静かな逆転
株式会社鈴木で30年間営業の柱として働いてきた佐藤修は、二代目社長から突然の大幅減給を告げられる。 会社を支えてきた経験や取引先との信頼関係を「古いやり方」と切り捨てられた佐藤は、怒りではなく静かな決意を胸に退職を選ぶ。 しかし、退職後に明らかになっていくのは、彼が残してきた人との繋がりや、会社を守るため密かに続けていた努力の重みだった。 新しい経営方針を掲げる若い幹部たちが見落としていたものとは何だったのか。 長年積み重ねてきた信頼と、数字だけでは測れない仕事の価値が、やがて会社の未来を大きく左右していく――。職場逆転|金銭問題2.0万字5 786 -
完結第12話
万引きを疑われた私に、警備員が「六万円で見逃す」と言ったので父に電話した
ロンドンから帰国した紗季は、父が経営するショッピングモールを客として訪れた。ところが突然、身に覚えのない万引きを疑われ、警備室へ連行される。鞄から出てきたのは、見たこともないネックレス。さらに警備員は「六万円払えば見逃してやる」と、用意済みの自白書を突きつけてきた。 だが彼らは知らなかった。紗季が次期経営幹部として帰国した、社長の娘であることを。そして父への一本の電話をきっかけに、隠しカメラの映像、消された記録、何十人もの被害者が浮かび上がる。これは警備員の小遣い稼ぎではない。モールそのものを奪うため、会社の中枢で仕組まれた巨大な罠だった――。真実|金銭問題|修羅場2.1万字5 591 -
完結第11話
両親を亡くした私が旅行から帰ると、実家が消えていた
両親を相次いで亡くした美穂に、夫・雅也が突然、一週間の温泉旅行を贈った。初めて見せた思いやりを信じて家を空けた美穂だったが、帰宅すると、思い出の詰まった実家は跡形もなく解体されていた。 雅也は土地を売り、その金で義実家を二世帯住宅にするつもりだった。しかし美穂が遺産を相続したというのは、三人の勝手な思い込みだった。名義変更前の家を無断で壊し、所有者の承諾書まで偽造した疑いが浮上する中、美穂は両親の思い出を奪った夫と義両親への反撃を始める。因果応報|嫁姑|夫婦|金銭問題1.7万字5 992 -
完結第10話
援助し続けた兄が隠していた二年間
事故で右脚が不自由になった兄・健司を助けるため、直人は二年半にわたり生活費や治療費を送り続けてきた。その総額は、二百十八万円。妻の美咲も家計を切り詰め、兄が立ち直る日を信じていた。 ところがある日、美咲から一本の動画が届く。そこには、杖を持たず、小走りで横断歩道を渡り、パチンコ店の階段を上る健司の姿が映っていた。 直人が収入と支出の確認を求めると、健司が送ってきたのは一年前の給与明細。さらに、すぐ削除された通帳写真には《給与268,430円》の文字があった。 足の回復も、転職も、本当の給料も隠していた兄。では、装具代、リハビリ費、通院費として渡した二百十八万円は、いったい何に消えたのか。 幼い頃、自分を守ってくれた兄への恩と、夫婦の生活を壊し始めた嘘。そのすべてを確かめるため、直人は初めて兄に通帳を開かせる。兄弟姉妹|夫婦|金銭問題1.4万字5 382