"母の葬儀から戻ると、私の寝台はもうなかった" 第2話
森は初めての顔を見た。「の5までだ。それを過ぎたら、こちらも面倒は見ない」
事務所をたは、段ボール箱を抱えてをれた。く先は決まっていなかったが、母の葬儀から戻ったそのに、自分から仕事を捨てたというだけは、どうしても本当のことにはえなかった。
そしてその夜、箱の底から見つけた1枚の与細が、の退職よりはるかにきな問題をくことになる。
が頼ったのは、半まで同じで働いていた文代だった。文代は結婚をに退職し、から歩いて20分ほどので夫と暮らしていた。夫が夜勤のだけなら泊めてもいいと言ってくれ、は畳の隅に段ボール箱を置かせてもらった。
「ずいぶんかったね」
文代は箱のを見て眉をひそめた。「普通なら、なくとも本が帰ってくるまで寝台くらい空けておくでしょう。3休むって分かっていたんだから」
「私も、それが変だとった。でも、1遅れたのは本当だから」
はそう答えながら、箱ののを1通ずつ確かめた。母から最に届いたには《正男ののこと、無理はしなくていいよ》とかれている。無理をしなくていいと言われたからこそ、は夜勤も残業も断らなかった。
箱の底には何か分もの与細が束ねてあった。
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毎いくら故郷へ送ったのか分からなくならないよう、は受け取った細を捨てずに保管していた。しいものから順に並べているうち、葬儀へ帰る直にもらった細の裏に鉛で数字をいた跡を見つけた。
表へ返したの指が止まった。
母のをらせる報が届いたのは107の昼だった。そのの夕方にをて、夜列で岐阜へ向かった。ところが細の勤務欄には、108に《残業4》、9にも《残業4》、10には《夜勤・残業2》と記されている。
「文代さん。これ、見て」
文代は細を受け取ると、最初は付を読み違えたのだとったらしい。指で1ずつたどり、壁に掛けた暦を見てから、ようやく顔をげた。「8って、お母さんのお通夜のじゃないの?」
はうなずいた。8の夕方、は故郷ので弔問客へ茶をしていた。9は葬儀で、10は弟妹と親戚を回って今の相談をしていた。その3に、ので残業などできるはずがない。
「料をくいてくれたんじゃない?」
「でも、おは増えてない」
は以の細と比べた。勤務だけなら今のほうがいのに、実際に入っているはむしろない。しかも葬儀の残業分らしい額が、どこにも加算されていなかった。
翌朝、は退職届に判を押すに森へ細を見せることにした。
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の守にはへ入れてもらえず、事務員を呼びしてもらうと、森は骨に嫌そうな顔で現れた。「考えるが欲しいと言ったのはおだろう。今度は何だ」
「この3、私は岐阜にいました」
が細を差しすと、森の線が瞬だけ止まった。しかしすぐにを机へ押し戻し、「計算の都だ」と答えた。が「働いていないのに残業4とくのも計算なんですか」と尋ねると、森は煙へをつけ、面倒そうに皿を引き寄せた。
「締めの関係で分がずれることもある。女がいちいち帳面のき方までをすな」
「では、どのの残業がずれたんですか」
「経理に聞け」
「経理へかせてください」
その瞬、森の調が変わった。「おはもうのじゃない」
昨までは無断欠勤が問題だと言われていた。それなのに今は、退職届へ判を押していないを、すでに退職者として扱っている。は細を取り返すと、机に置かれた退職届には触れずにちがった。
「今も判は押しません」
「弟の学費はどうする」
森の言葉にが止まった。それでもは振り返らず、「それと、この細の数字は別の話です」と答えた。自分でも驚くほど静かな声だった。
をると、は正の向かいにある雑貨の軒で夕方まで待った。
同じ班だった久子が遅番を終えててくるのを待つためだった。事を聞いた久子は青ざめ、「そんなこと調べて丈夫なの」
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