"母の葬儀から戻ると、私の寝台はもうなかった" 第5話
母の通夜のである。
に許された3の休暇が、まだ1目だったに、はすでに別の女へ《317》を渡していた。
列が遅れたからが辞めさせられたのではない。
が戻ってくるから、にはすでに「2目の本」がいた。
は千代の作業割当票を何度も見直した。のには第の事務印があり、裏には《第紡績・第2班》と鉛でかれている。誰かがあとから数字をき換えた形跡もなく、108に千代が317番として作業へ入ったことは疑いようがなかった。
「この、森さんから?」
「最初のは寮母さんにもらいました。へったら森主任が見て、『それでいい』って」
千代はそうに尋ねた。「私、悪いことをしたんでしょうか」
「違うよ」
はすぐに答えた。「千代ちゃんは言われた通り働いただけ。これは千代ちゃんのせいじゃない」
その言葉をにしながら、は自分にも同じことを言い聞かせていた。母がんだことも、列が止まったことも、自分のせいではない。それなのにへ戻った瞬から、すべての落ち度であるかのように話が作られていた。
翌の昼、森から文代のへ使いが来た。が勤務表について嗅ぎ回っていることは、すでにられていた。「主任が今に話をつけたいと言っている」
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と告げられ、は千代のを文代へ預けたまま事務所へ向かった。
机のには、また《自己都退職届》があった。だが今回はその隣に、故郷の正男が学を希望している県の名をいたまで置かれていた。
「ずいぶん余計なことを調べているそうだな」
森は煙へをつけた。「おの話なら、俺もこんなことまで言わん。だがにはのやり方がある。しい子が来ても、類がうまで数がかかる。現を止めるわけにはいかんから、番号をに使うこともある」
「私が休暇でもですか」
「おは戻らないとわれていた」
「誰がそう言ったんですか」
森は答えず、名のを指で押さえた。「弟は来受験だろう。この辺りの学や会社とは、もいろいろ付きいがある。おが判を押して静かに辞めれば、与もし乗せする。弟のことも悪いようにはしない」
はを見つめた。正男は父がんだあとも農作業を伝いながら勉を続け、母が病気がちになってからはの話をにすることさえ慮するようになっていた。その弟の将来を、自分ので狭めていいのかという迷いは確かにあった。
「押さなかったら?」
「好きにしろ。ただし、世のは帳面だけでいてるんじゃない」
森はそれ以脅さなかった。
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その言い方がかえってを怖がらせた。の募集員はの学へ入りし、卒業を集団で連れてくる。族にとってきなとのつながりは、仕事だけでなく、弟妹が次の職を探すにも響するものだった。
は退職届を持ち帰った。
その夜、本気で判を押そうとした。
文代のちゃぶ台に朱肉を置き、母からもらった印鑑をにした。自分が辞めれば済むなら、正男のを危険にさらす必などない。千代も働けるし、久子も巻き込まれずに済む。
けれど印鑑をへづけたところで、文代が押し入れから別の封筒をした。
「昼、千代ちゃんがもう度来たの」
には千代が寮母で受け取った《寝台割当票》が入っていた。入寮した女には寝台番号と貸与寝具を記したが渡され、退寮に返却する決まりだった。
は付を見た。
108。
作業番号317を渡されたのと同じである。
さらに寝台番号は《2階6号・窓側》。
の寝台だった。
つまり108の点で、は仕事の番号だけでなく、の寝台まで千代へ割り当てていた。の休暇は10まで認められていたのだから、本来ならその点での帰る所を空けておかなければならない。
「まだあるの」
文代は封筒の底から細い片を取りした。
それは千代が入寮した際、寮母で度だけ見た名簿の内容を、覚えている範囲でき写したものだった。
千代自の名の横にはさく《》とあり、そのから赤鉛で《本》とかれていたという。
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