"母の葬儀から戻ると、私の寝台はもうなかった" 第13話
たちは「怪しい数字を全部盗まれたにする」ことを避け、件ずつ本へ確認した。
その作業に1か以かかった。
結果、21のうち12について、本の記憶や元の細では説できない控除または未払いが確認された。総額はならではないが、15歳や18歳の女が故郷へ送るとして見れば、決してさくなかった。
森だけでなく、預りを扱った事務員2にも処理の問題があった。1は森の指示通り判を押していたと認め、もう1は「昔からそうしていた」と説した。
はその言葉を聞いて、るより怖くなった。
昔から。
誰かが始めた正より、その言葉のほうが根かった。
が変わっても続くやり方は、いつか「決まり」に見える。
だからこそ、たちはを返してもらうだけでは終われなかった。
がけるころ、はしい取り扱いを発表した。
規採用者には就業初から本固の番号を付けること。類が未完のでも仮番号は本専用とし、退職者や休職者の番号を流用しないこと。預り賃を主任個へまとめて渡さず、本ごとの細を作成すること。
与袋には勤務数、夜勤、残業、控除項目を記する。
本以が賃を受け取るは、理由と受領者を記録する。
退職届は本が内容を確認して記入する。
広告
寮の寝台を退職処理に別の者へ割り当てない。
にすれば当たりのことばかりだった。
だがにとっては、その「当たり」が何よりだった。
森は主任をされ、そのをった。会社は詳しい理由を女たちへ公表しなかったため、は彼がどこまでを自分のものにしていたのか最までらなかった。
経理の2にも処分があり、未払いと確認された賃は本へ支払われた。
会社は最まで「組織な正ではない」というを崩さなかった。
も、それを無理に「全部が悪かった」という話へ変えるつもりはなかった。でを止めた守も、夜まで緒に械を回していた班も、同じで働いて活している。問題は、誰も全体を見なくて済む仕組みだった。
森は勤務表だけを見る。
寮母は寝台だけを見る。
経理は印のあるだけを見る。
女は自分の与袋だけを見る。
その隙で、働いたと帳面にかれたが入れ替わっていた。
千代は正式に自分の番号をもらった。
しい番号は462だった。
最初の与袋を受け取った、千代はのところへってきた。「見てください」と袋をけ、勤務数をつずつ指で数えた。
「全部、私が働いたです」
は笑った。
「じゃあ、そのは取っておきなさい」
広告
「どうして?」
「自分が働いたを、番よくってるのは自分だから」
千代はし考えてから、与細を丁寧に折り、封筒へ戻した。
かつてが、故郷への送額を確かめるため何気なく残していた。
それがなければ、母の葬儀のに自分が残業したことになっているとは気づかなかった。
帳面を読むことは、事務員だけの仕事ではない。
自分の暮らしを任せにしないための仕事でもあるのだと、はようやくった。
会社から、にも復職の話がた。
《無断欠勤による自己都退職》の扱いは取り消され、希望すれば別の班で働けるという。寮の寝台もしく用すると言われた。
は3考えた。
1、初めて故郷をたには、川紡績のきなを見てした。ここにいれば毎料がる。寮には布団があり、堂には温かい飯がある。母と弟妹へ送できる。
だからを失うことが、を失うことのようにえていた。
だがへ荷物をされた朝、は別のこともった。
寝台は自分のではなかった。
会社が「今まで」と言えば、昨まで眠っていた所にも入れなくなる。
は復職を断った。
久子はに残った。
千代も残った。
それでよかった。
はに残る者をいともわず、辞める自分をいともわなかった。
それぞれに族と事があり、自分で選べることこそが切だった。
文代の紹介で、は隣町のさな織物へ勤めることになった。
広告
おすすめ作品
-
完結第14話
昭和29年、夫を亡くした私から船が奪われた
夫を海難事故で失った翌朝、志津は3人の子どもを養うため、残された船で海へ出ようとした。だが漁協は鍵を取り上げ、義兄は告げる。 「船を使いたければ、長男をうちへ寄こせ」 女には魚を売らせない。船も網も夫名義。さらに借りた伝馬船まで奪われた志津は、自ら町を歩き、獲れた魚を一軒ずつ売り始める。 やがて見つかった古い領収控えには、船の手付金を払った志津の名前があった。しかし同時に、義兄が残金を貸していた事実も判明する。 船をめぐる権利と借金、そして11歳の息子の人生。何も持たないと見下された志津は、海ではなく「魚を売る場所」から、自分たちの暮らしを取り戻していく。時代|歴史|昭和2.1万字5 98 -
完結第13話
父が開けた祝儀袋
昭和35年、結婚披露宴の最中、恭子は父が祝儀袋を次々と開けている姿を目撃する。豪華な宴も嫁入り道具も、すべて借金で用意されていたのだ。しかも婚家からは、「あなたの結婚のための借金」と返済まで迫られてしまう。 誰が望み、誰が支払うべき金だったのか。恭子が費用を一つずつ調べると、借入額には披露宴だけでは説明できない差額が見つかる。やがて明らかになったのは、父が娘の結婚と祝儀を利用して隠そうとした、もう一つの借金だった。 「家族のため」という言葉の陰で、誰かの人生や金を勝手に使ってよいのか。見栄と古い家族観に抗い、自分たちの暮らしを取り戻そうとする一人の女性の物語。時代|歴史|昭和|親子関係1.9万字5 181 -
完結第10話
昭和51年、閉山した炭鉱町から消えた父
昭和51年、炭鉱が閉山した3日後、保安係だった父・修一が姿を消した。玄関には泥のついた長靴と作業帽が残され、母は「探さなくていい」と口を閉ざす。だが娘が父の作業着から見つけた紙片には、閉鎖された坑道の名と、謎の時刻が記されていた。 調べるほどに浮かび上がる、改ざんされた保安記録、帳簿から消された作業員、そして会社が隠そうとする閉山直前の事故。やがて坑道に残された録音から、父が誰かを救おうとしていた事実が明らかになる。しかし数十年後に届いた父の名札には、さらに不可解な言葉が刻まれていた。 「北の出口から出た。家へは戻れない」 父はなぜ、生きて坑内を出ながら家族のもとへ帰らなかったのか――。時代|歴史|昭和|ミステリー|真相1.5万字5 217 -
完結第14話
震災から半年ぶりに帰った家には、知らない家族が住んでいた
昭和45年、母は20年以上もの間、同じ古い着物を大切に着続けていた。 娘の美紀は、母がただ節約のために我慢しているだけだと思っていた。正月の日も、特別な日も、新しい服を選ばず、何度も繕われた一枚の着物を身につける母の姿を、少し寂しく感じていた。 しかし、母が亡くなった後、その古い着物の中から見つかった小さな刺繍が、美紀の知らなかった母の過去を呼び起こす。 戦後の苦しい時代を生き抜いた一人の女性が、なぜその着物だけを手放さなかったのか。 長い年月の中に隠されていた家族の記憶と、母が守り続けた想いが、少しずつ明らかになっていく――。時代|歴史|昭和2.1万字5 215