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"昭和29年、夫を亡くした私から船が奪われた" 第1話

昭294、瀬戸内の潮見浦では、になると夜けからさな発の音がに響いた。崎志津の夫・正も、38歳になるまでほとんど毎朝その音のへていったが、そのの417だけは帰らなかった。午から急にがまり、夜通し捜索した末、翌朝になって沖の岩くでだけが横倒しになって見つかった。

正の姿は最まで見つからなかった。それでもではでくなったものとして葬儀がわれ、11歳の信夫、8歳の幸子、4歳のは、父の写真ので何度も線を替えた。志津は泣くたびに台所へ入り、米びつの底を見ては涙を拭った。しんでいても、翌朝になれば4分の飯が必だった。

葬儀の翌朝、志津は喪を畳んで押し入れへしまい、紺のもんぺと古い着に着替えた。正のは転覆こそしたものの、源と清吉が曳いて戻してくれており、底にもきな穴はなかった。網を干し直し、発を確かめれば、ならられると源は言った。

「今は俺と清吉も乗る。無理はせんでええ」

「ありがとうございます。でも、からは自分でます」

志津はそう答えて、べりへをかけた。

その瞬、背から「待て」と声がんだ。漁協の役員をしている井が、帳面を脇に抱えて歩いてくる。その隣には正の兄・徳蔵がっており、志津を見る目には葬儀の席で見せた沈痛さがもう残っていなかった。

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井はに差したままになっていた鍵を抜き取った。「このは今からせん。登録は正名義のままだし、組の扱いも決まっとらん」と言い、その鍵を自分の懐へ入れた。志津がをして返すよう求めても、井は首を横に振るだけだった。

「なら続きをします。必なを教えてください」

「だけの話じゃない」

井に代わって徳蔵が答えた。

「正がおらん以、このは俺が使う」

志津は瞬、言葉のが分からなかった。徳蔵にも自分のがあるし、正のを譲るという話などに度も聞いたことがない。「私はを扱えます」と言うと、徳蔵はで笑い、井も困ったように線を逸らした。

「おがへられるかどうかだけじゃない。揚げをどこへ持っていく、氷をどうする、組の売をどうする。女で今までと同じようにできるとうな」

「できるかどうかは、やってから決めます」

「やっても売れんと言っとるんだ」

井の言葉に、志津は初めて黙った。

井は声を落とし、「魚を獲ったところで、組の集荷では今までどおり扱えん。すなら徳蔵を通せ」と告げた。つまり正のを使えたとしても、獲った魚を売る入そのものを徳蔵に握らせるということだった。

徳蔵は志津の沈黙を承諾だとったらしい。「悪いようにはせん。

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おら4がえるくらいは俺が面倒を見る」と言ったあと、しを置いて続けた。

「その代わり、信夫はうちへ寄こせ」

志津の指先が止まった。

「信夫は11歳です」

「男だ。正がおらん以、今から漁を覚えさせる。俺のところならもある」

「学はどうするんです」

「学だけがじゃない」

夫の葬儀からまだしか経っていない。ところが目ののは、正が残しただけでなく、11歳の息子のき先まで、すでに男同士で決められるもののように話していた。

志津は井ではなく徳蔵を見た。

「嫌です」

「を張るな。女での子をどうわせる」

「私が働きます」

「だから、何で働くんだ」

徳蔵が指した先には、鍵を抜かれた正のがあった。

そのの夕方、志津がへ戻ると、信夫がで父の網を繕っていた。結び目は格好で、何度もやり直した跡がある。志津が声をかけると、信夫は顔をげずに「伯父さんのところへったら、母ちゃんたちに魚をくれるって」と言った。

徳蔵は志津が港にいるに、すでにへ来ていたのだ。

「俺、ってもええよ。父ちゃんがおらんから、俺が男だろ」

志津は息子のから網をそっとした。く叱りそうになった声をみ込み、隣へ座ると、まだ細い肩を抱いた。

「お父ちゃんの代わりにならなくていい。11歳の子が、自分を差しして族をべさせるなんて考えなくていいの」

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